表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/93

猫又の初恋-十四-(終)

 ✿―✿―✿—✿―✿


 菖蒲達は美希の家を出ると例の公園へと戻ってきた。

 空は薄らとオレンジ色になっていて、公園は静かだった。

 勇は、まだ真司の腕の中で硬直している。


「こりゃ、勇」


 菖蒲に名前を呼ばれハッと我に返る勇。


「は、はいっ!」

「お前さんは、一体、何故そんなに固まっておるんやえ?」


 菖蒲が聞いた途端、勇は目に涙を溜めて突然泣き始めた。

 それはあまりにも号泣で、そばにいた菖蒲も真司も驚いている。


「うわぁぁぁぁぁん!! あの美猫! あの美猫ぉぉぉぉ!! 男やったんやぁぁぁぁぁっ!!」


 その言葉に、口を開けキョトンとしながら数回瞬きをする菖蒲。

 真司は「あ、やっぱり……」と、思っていた。

 菖蒲は驚いた様子で勇に問いかける。


「勇や……それは、真実(まこと)なのかえ?」

「うぅ……ぐずっ……ゔぁい……」

「こりゃぁ、驚いた。まさか、オス猫やったとわねぇ」


 頬に手を添え驚くというより、菖蒲はしみじみと感心していた。

 そんな菖蒲と勇を見て真司は苦笑する。


「僕は何となく予想はしてましたけど……あはは……」

「なんと?!」

「どないじて、わがっだんや?ぐずっ……」


 再び驚く菖蒲と、鼻水を垂らしながら真司に聞く勇に真司はまたもや苦笑するとポケットからティッシュを取り出し勇に一枚手渡した。


「あ、あはは……とりあえず、はい。これ使って」

「ありがどうな……」


 チーーン!と、勇は鼻をかむ。

 真司は勇と菖蒲を見ると、なぜわかったのかを菖蒲たちに説明し始めた。


「えっとですね。まず、名前からにして可笑しいと思って。女の子にボルサノなんて名前付けないですよ、普通。……た、多分ですけど」

「しかしや、人間。普通は気づくはずやのに、菖蒲様も気づかんかってんで? おかしくないか?」

「うむ。オス猫とは全く思わんかったのぉ」


 真司は空を見上げてしばし考える。


「うーん……。これも、多分ですけど、あの猫は早い段階で……あー……その……」


 言葉を濁す真司に勇は苛立ちを覚え「なんやねん。はよ言えや」と、手でバシバシと真司の腹を叩く。無論、猫の手なので痛くはない。

 真司は意を決したように自分の思ったことを口に出す。


「あの猫は、きっ、去勢していたんだったと思います!」


 すると、勇が恐ろしい言葉を聞いたかのように自分の股間を押さえ「ひぃっ!!」と、毛を逆立てて恐怖した。

 そう。人間でも、男性か女性かわからない中性的な容姿をした者もいる。だからこそ、真司はなんとなく『去勢して男性フォルモンが無くなったから、体つきが女性らしくなったのではないだろうか?』と、思っていたのだ。

 菖蒲は、それに納得したか深く頷く。


「なるほど、それでか」

「だから、うーん。なんて言うのかなぁ? 中性的?に見えたのかも」

「あぁあああ……。うぅ……まさか……そんな……俺の初恋がぁぁぁぁ」


挿絵(By みてみん)


 またもやぐずり出す勇に菖蒲と真司はお互い顔を見合わせると、勇の小さな肩に手をポンッと置き同じ言葉を勇に言う。


「「どんまい」」

「俺の初恋を返せぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 薄らとオレンジ色に染まる空の中叫ぶ勇の声は、公園の中で木霊(こだま)したのだった。


(終)

 Next story→参ノ伍~勇~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ