猫又の初恋-十二-
美希は、菖蒲が猫を飼っているということを知っていたことに驚く。
「なんで知ってるん?!」
しかし、菖蒲は人差し指を唇に当て、ウインクしながら「ふふっ、それは秘密じゃ♪」と、言った。
美希は「えー……」と、残念そうに呟く。
「と言いたい所じゃが、特別に教えようぞ?」
「ほんま?!」
菖蒲が教えてくれると知り、美希の目がキラキラと輝いた。
「実は、この猫が教えてくれとるんえ。どうやらお前さんの猫に会いたいそうなのじゃ」
「そうなん?」
勇は「そうです」と、言うように一鳴きする。
「にゃー」
すると美希は、嬉しそうな表情をし慣れた手つきで勇を抱っこした。
「じゃぁ、今からお家においでよ猫さん! 会わせてあげる!」
「行ってもいいの? 突然の訪問で、ご両親もビックリするんじゃ……」
知らない人を家に上がられると美希の両親も心配するだろう。何よりも、もしかしたら美希が怒られるかもしれない。知らない人を連れて来ちゃダメだと。
真司がそのことについて心配していると、美希はニコリと笑った。
「全然大丈夫やよ♪ だって、お姉ちゃんたちは、美希の怪我を治してくれたもん!」
「うむ……そうか、ほな、お言葉に甘えて行くかの」
「にゃー!」
真司は楽しそうにしている菖蒲と、やっと会えることに浮き足立っている勇を見て、内心は心配だった。
(ホントに、大丈夫かなぁ……?)
公園の外に出ると真司達は、美希の家に向かった。
住宅街の中でも高級そうな白い建物――それが、美希の家だった。
真司が上を見上げると、今日もまた、窓辺には例の黒猫が丸まって寝ている。美希は白い門扉を開け玄関の鍵穴に猫のキーホールダーが付いた鍵を差し込む。
「どうぞ!」
美希は玄関の扉を開けると、菖蒲達を中に招き入れた。フローリングの板に、玄関には客人用のスリッパが置いてあり、靴箱の上には小さなピンク色の植木鉢が置いてあった。
美希が「ただいま」と、言っても返事が返ってくることはない。家には誰もおらず、シン……と静かだったのだ。
真司はピンク色の靴を脱ぐ美希を見る。
「ご家族の方は居ないの?」
真司の質問に美希は「うん」と、答えた。
「皆、お仕事」
「そう、なんだ……」
真司は、こんな小さな女の子が誰もいない家の中で一人で過ごしていると思うと、少しだけ心が痛くなった。
しかし、美希はそんなことは気にしてないという感じで、ニコリと真司に笑いかけた。
「あんな、うち、寂しくないよ? だって、うちにはボルサノがおるんやもん♪」
菖蒲と真司、そして、勇は目をキョトンさせ数回瞬きをする。
「「「ぼるさの?」」」
二人と一匹は、声を揃えて言った。
その途端、美希は首を傾げた。
「あれ? 今、お姉ちゃん達の他にも声がしたような……?」
キョロキョロと辺りを見て首を傾げる美希に、勇はハッと我に返ると慌てて口元を押え、何もないかのように「に、にゃー?」と、鳴いた。
「あはは……き、気のせいじゃないかなぁ~」
「やれやれ……」
菖蒲は呆れたように小さく呟く。美希は周囲を見回し「んー……おかしいなぁ~」と、言いながら首を傾げていた。
「まぁ、ええかっ♪ お姉ちゃんたち中に入って! あ、ウチ、お茶いれてくる!」
「それじゃぁ、私もお手伝いでもしようかのぉ」
そう言うと、菖蒲と美希はリビングに入りキッチンへと向かった。
真司と勇は、リビングにある鼠色のふわふわしてるソファに腰を下ろすとコソコソと会話を始めた。
「なぁなぁ、ぼるさのって何や?」
「え?! 僕も知らないよ。でも、普通に考えたら猫の名前……だと思う」
「あの美猫の名前が、ぼるさのやとっ?!」
「わわっ! しーしー!!」
真司は大きな声を出した勇の口元を慌てて手で押さえる。
「声が大きよっ!」
「おっと、すまんすまん。しかし……あの美猫は外国から来たんかぁ〜」
「……え」
(思うところ、そこなの……?)
真司は、何か嫌な予感がした。
何故そう思ったかは……多分、猫の名前を聞いたからだろう。しかし、その時の真司は、それほど気にしなかった。
「まさか、そんなことはないよね」と、心の中で呟くと銀のトレーにお茶を乗せて持って来た菖蒲と茶菓子の入ったプラスチックのお皿を持っている美希がキッチンから戻ってきた。




