猫又の初恋-十-
真司は「それはいつだっただろうか……?」と考えていると、白雪の後ろから菖蒲が現れた。
「よう来たな、真司。おかえり」
「菖蒲さん」
「星もおかえり」
「………ん」
菖蒲は星の頭を撫でる。星は少し気恥ずかしそうに、頬をほんのり赤らめながら俯いた。
撫でられること自体は満更でもないらしい。
心なしか、嬉しそうにも見えた。
ほのぼのとした思いで二人を見る真司。すると、真司の足元に頬をすり寄せる真っ白な白猫がいた。
「猫?」
真司はその猫を見下ろす。すると、猫が顔を上げ「にゃー」と、鳴いた。
(わっ……! この猫もオッドアイだ!)
そう。真司の足元にすり寄っている猫の瞳もオッドアイだった。しかし、星とは色が違い、右は金色で左はアメジストのような紫色だった。
「……ルナ」と、星は猫の名前を呼ぶ。
(……ルナ?)
そこで真司は、やっと思い出した。
お雪の本体と並んでいるガラスコップのことを。
「まさか……君、あの硝子コップの付喪神?!」
「そうだよ~、星ちゃんとルナっていうの!」
「お二人は帰ってきたばかりなんですよ」
真司の驚く姿にお雪と白雪が言った。
「うむ。実は、真司にも早う会わせたくての。迎えにやったのじゃ」
「そういうことでしたか」
「さて、と。お互いの挨拶も済んだところやし……真司や、来たばかりで申し訳あらへんが、早速出かけるえ」
そう言いながら、菖蒲は水玉模様の鼻緒に足をスっと入れる。
「では、白雪。店のことは頼んだえ? ま、どうせ、今日も暇やろうて」
「はい。行ってらっしゃいませ、菖蒲様、真司さん」
「お土産買ってきてねー♪」
「……気をつけて」
「にゃー」
それぞれの挨拶に菖蒲は「うむ」と、答える。
「では、行ってくる」
「行ってきます」
真司と菖蒲は骨董屋を出るとあやかし橋へと向かう。星と菖蒲の店に向かっていたときは路地裏を使っていたが、今は表通りを歩いていた。
(菖蒲さんと一緒なら、この表通りも普通に歩けるんだけどなぁ……)
真司はそう思いながら、菖蒲の隣を歩いていた。
相変わらず、菖蒲が通ると周りの妖怪達は菖蒲に挨拶をしたり「今からお出かけですか?」と、気の良い会話をかけてくる。元々、ここの妖怪達は気の良い者たちばかりなのだが、ただ真司がまだ少しだけ……ほんの少しだけ、恐がっているだけだった。
(僕も、菖蒲さんを見習わなくちゃ!)
真司は笑顔で妖怪と話す菖蒲を見て『いずれは一人でも表通りを歩けるようにならないと』と、密かに小さな目標が出来たのだった。




