猫又の初恋-八-
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その後、真司は両親から連絡があり渋々だが菖蒲達と別れることになった。
そして真司は車の中で別れ際に話した菖蒲との会話を思い出していた。
「真司。お前さん、明日は暇かえ?」
「え? はい」
真司がそう返事をすると菖蒲は「なら、明日の昼ごろに店にきんしゃい」と、真司に言ったのだった。
「明日、何をするんだろう……?」
流れる景色をボーッと見ながら真司は呟く。すると、運転している真司の父親がミラー越しに真司をチラリと見た。
「真司。さっきまでどこにいたんだ?」
その言葉に真司の心臓はドキッと鳴る。
両親の知らないところで両親の知らない女性と会っていたと話したときには、きっとお赤飯を炊きかねないからだ。
ましてや、菖蒲は人ではない。本当のことなんて言えるはずもなかった。
(ど、どうしよう……菖蒲さんと一緒にいたなんて、なんか言えないし……)
「えっと……僕にもよくわからない、かな? あはは……ぶらぶらと歩いていただけだから」
結局、真司は上手い嘘が出て来ず、ありきたりなものを父親に言った。
「そうか。しかし、お前も父さん達と来ればよかったのになぁ~」
「え?」
「今日、酒蔵を見学してなぁ。いや~ぁ、あれは凄かったよ! なぁ、母さん」
助手席に座って、のほほんとしている真司の母が「えぇ、そうねぇ~」と、返事をする。
ふんわりとウェーブがかかっている髪は、ほんわかしている母親にピッタリな髪型をしていた。その性格は優しく、その優しさな話し方は、どことなく白雪にも似ている。
「あ、そうそう! しかも、美人な女の人と一緒だったぞ!」
「美人??」
父親の言う言葉に、ポンッと頭の中で微笑む菖蒲の顔が浮かんだ。
真司はそれがなんとなく恥ずかしくなり、忘れるように頭を左右に小さく振る。幸い、真司のその姿は父親は見ておらず、真司の父親は嬉しそうに話を続けた。
「小柄な人で、これぞ和服美人!っていう人だったなぁ~、なぁ、母さ…………あ」
「うふふふ」
「も、もももちろんっ!! 母さんの方が、世界一! いや、宇宙一可愛いよ! 美人だよっ!! はっはっはっ!」
父親の台詞を聞くからに、母親が今、どんな表情をしているのか想像がつき真司は苦笑したのだった。
宮前家の大黒柱は、もちろん、男である父親がそうだ。しかし、その家庭内権限は『高校生からの同級生だった』といわれる母親が持っていた。
無論、真司もなぜだか、のほほんとしている母親には逆らえないでいる。そもそも、逆らう気すら無いのだから、それはそれでいいのだが……。
真司は、再び流れる景色を見る。
「和服美人、かぁ……」
(何だか、ますます菖蒲さんっぽいなぁ。初めて会った時は他の人にも姿が見えるようにしていたし。……でも、父さん達がいた所と僕がいた所って、距離があったし……そんな直ぐに来れるわけないよね?)
「別の人かなぁ……?」
そう思い、真司は帰路についたのだった。
その翌日、真司は池の横を通り上り坂になっている道を進み、あかしや橋の前にやってきた。
平日のお昼だからか、相変わらず通る人は誰もいなかった。