猫又の初恋-七-
「それで、お前さんは、あの猫のことが気になるのかえ?」
あまりにも直球に言う菖蒲に、真司は内心驚く。
(なんの躊躇いなく聞いた! さすが、菖蒲さん……)
「あはは……」
苦笑する真司とは逆で、勇は鳴らしていた喉を止め今度はダラダラと冷や汗を掻き始めた。
勇が菖蒲の言葉に動揺しているのが真司から見てもわかった。
「え、えええとですね、菖蒲様。こ、こここれはそそその……」
「ふむふむ。明らかに動揺してるのぉ。初心な奴め」
クスクスと袖口を口元に当て笑う菖蒲に、勇は恥ずかしそうに顔を隠す。
まるで、猫が両手で顔を洗っているみたいに見える。勇は心を落ち着かせるために、深呼吸を二・三度した。
「すーはー、すーはー。……菖蒲様の言う通りです。おっ、俺は、あの美猫に……ほ、ほの字でございますっ……! あぁぁぁぁ、言ってしまったぁぁぁっ……! 恥ずかしぃぃぃぃ!」
「美猫? へぇ、あの猫って美人なんだ」
真司がそう言った瞬間、勇の瞳孔がカッと開いた。
そして、真司に迫ると胸ぐらを器用に掴んだ。
「お前の目は節穴かっ?! さっき、見たやろっ!? あの美しい横顔……憂いに満ちた瞳は月のような金色で……尻尾も滑らかで……ほぁぁぁ」
胸ぐらを掴まれた真司は驚く。うっとりしながら黒猫のことを語り出した勇に真司は苦笑した。
菖蒲が勇の脇を抱え抱っこし膝の上に乗せ直すと、真司は掴まれたことに解放されホッと息を吐く。
「ほれほれ、声が大きいぞ? それに、ここは外。気をつけんしゃい」
菖蒲に軽く説教され、ちょっぴりシュンとなる勇。
「……すみません。つい……」
「それで? お前さんは、あの猫に告白をするのかえ?」
「ええええっ?!」
「あれ? しないんですか?」
「いやぁ……そのぉ……なぁ?」と、勇は真司に問いかける。
(僕に、なぁ?って聞かれても……)
「あはは……」
はぐらかそうとしていたことが菖蒲にバレ、菖蒲は勇の頭を小さく小突いた。
「こりゃ、はぐらかすんじゃないよ」
「にゃぁ……」
勇は、しょんぼりと耳を垂らし落ち込む。
「しかし……菖蒲様。俺は、彼女と話もしたことあらへんのです……」
「え、そうなんですか?」
真司の言葉に勇はコクリと頷いた。
「話す機会が無かったのかえ?」
「はい……。彼女は見ての通りの箱入り娘で、部屋から出たところを見たことがあらへんのです。俺が彼女を見つけた時だって、ほんま、たまたまなんですよ……」
菖蒲は「ふむ」と、小さく呟く。
「それじゃぁ、告白も出来ないですね……」
真司は、何かを考えている菖蒲をジッと見る。
すると突然、菖蒲が閃いたような顔をした。
「うむ!」
「「???」」
菖蒲は、自分一人が何かに対し納得したのか力強く頷いた。
そんな菖蒲を見ていた真司と勇はお互い目を合わせると、菖蒲の頷く姿に首を傾げる。
(何か、いい案でも浮かんだのかな?)




