冬の訪れと雪女~初雪~(終)
真司は、いつの間にかあの蝶が見当たらないことに疑問を持った。
キョロキョロと居間の中を見回し蝶を探す真司。
「あれ? そういえば、蝶が見当たらないような……」
「ここにいますよ」
そう言って白雪が指さした場所は自身の帯だった。
「え……? それって帯ですよね?」
「出ておいで、お前達」
白雪の呼び声と共に、帯の中からフワリと例の白い蝶が数頭現れた。
帯から出ると、白い蝶は羽ばたきながら白雪や隣に座っているお雪の肩に止まる。
「あはは! 蝶々、蝶々~♪」
お雪は白い蝶が肩に止まると、楽しそうにツンツン突つき始めた。
肩に止まっていた蝶は、まるでお雪と遊んでいるみたいに周りを飛び始める。お雪は蝶を捕まえようとして炬燵から立ち上がり蝶を追いかけ、居間の中をグルグルと走り回った。
「まてまてー! あははっ!」
「あらあら、ふふっ。……この蝶は、雪女が生まれると同時に現れるんですよ。だから、この蝶達は私の家族でもあるんです」
微笑ましそうに白雪がお雪を見ていると、真司の方を向き直り蝶について真司に説明した。
真司は、蝶が白雪の家族だということに首を傾げる。
「家族ですか?」
「はい。名前もありますよ」
白雪は、まずお雪の周りを飛んでいる蝶を指さした。
「あの蝶は、露。私の肩に止まっているのは華。そして、あれが菊。紫です」
「へぇー。僕には同じ蝶にしか見えないですけど、ちゃんと名前があるんですね」
「普通は付けません。ただ……私は、ずっと一人でしたから」
苦笑する白雪に露以外の蝶が、まるで白雪を励ますようにひらりと集まり始める。
どうやら、白雪を心配しているようだ。
「ふふっ。有り難う、皆」
白雪は蝶の気持ちがわかるのだろうか? 白い蝶に向かって微笑みかけ撫でるように優しく触れる。
ーーその時だった。
「あー!!」と、お雪の驚く声が聞こえた。
真司と白雪、話しを聞きながらも、のんびりと茶を飲んでいた菖蒲が一斉にお雪の方を見る。お雪は、いつの間にか庭に出て空を見上げていた。
「雪だー!!」
手を空に掲げて楽しそうにしてはしゃいでいるお雪。
「あ、ほんとうだ」
「初雪じゃな」
「綺麗ですねぇ」
居間にいる三人は、ちらちらと降り続ける雪を家の中から見ていた。真司は、炬燵から出ると、スリッパを履き庭に出て空を見上げる。
ほぅと息を吐くと、息は白くなり上空へ消えていった。
「冬だね♪」
はしゃいでいたお雪は、庭に出てきた真司の隣にいき花のような笑みを浮かべた。
真司もお雪につられて笑みを返す。
「そうだね」
そしてまた、二人で雪が降る空を見上げた。
(明日からは、一段と賑やかになりそうだな)
そう思いながらクスリと笑った真司だった。
(終)
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【第参幕 あらすじ】
季節は、まだ冬。
しかし、ある妖怪の心だけは既に春が訪れていた。
そして、真司達はその妖怪の春のお手伝いをすることに?
さて、その春は無事に花を咲くことができるのか……それとも、散ってしまうのか?
あかしや橋のあやかし商店街(参)では面白い新キャラ登場?!
他にも新キャラが登場します、お楽しみに




