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あかしや橋のあやかし商店街① 【続編連載中】  作者: 癒月
第二幕 ~冬の訪れと雪女~
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冬の訪れと雪女-六-

 お雪は嬉しそうに手を上げる。菖蒲は厚手の濡れ布巾で土鍋の蓋を開けると、湯気がフワッと上がり上空へ消えてしまった。

 蓋が開き湯気が立ち上ったせいなのか、昆布だしの聞いたいい匂いが真司の胃を刺激した。

 白雪はお雪のお椀を持つと、穴の空いたお玉で野菜や豆腐・お肉を入れ、最後に普通のお玉で昆布と野菜の出汁が効いたお汁を入れる。


「はい、雪芽。どうぞ」

「わーい! 有り難う♪」


 お椀を白雪から受け取ると、お雪はハフハフさせながら野菜を食べた。

 美味しそうに食べるお雪の姿を見て白雪は「ふふっ」と、笑う。


「熱いから、気をつけるのよ?」

「ふぁーい♪」


 隣に座っている白雪は、優しい目でお雪を見ている。

 その眼差しは、まるで母親が子供を見守るような温かいものだった。


「ほれ、真司」


挿絵(By みてみん)


 そんな白雪とお雪を見ていた真司に、菖蒲が具が入ったお椀を真司に手渡した。

 いつの間に入れてくれたのかと思い真司は驚くが、菖蒲のその優しさに不思議と胸が温かくなった。


「あっ、有り難うございます、菖蒲さん!」

「かまわんよ」


 菖蒲は真司に向かって微笑む。その瞬間、真司はドキッと菖蒲の愛らしい笑みに胸が鳴った。


(うぅ……菖蒲さんの笑顔って、なんだか心臓に悪いなぁ)


 軽く胸を押さえる真司を見て、菖蒲は心配そうな表情になる。


「ん? どこか、調子でも悪いのかえ?」


 真司は慌てて手を振り「い、いえっ!! なんでもありません!」と、菖蒲に言った。


「そうかえ?」

「はい! あは、あはははっ」


 少し気恥ずかしいのか、頬をポリポリと掻いて苦笑する真司。

 そして、真司もお椀に入った具を食べ始めた。

 思いのほかかなり熱く、真司もお雪みたい「ハフ、ハフ」となっていた。

 白雪はというと、うっとりとした目でお鍋を食べる。


「菖蒲様のご飯は、相変わらずの美味(びみ)です。そして、いい感じの熱さですぅ……」


 幸せそうな表情で言う白雪に真司は疑問を感じ、口の中の物を飲み込むと、あることを白雪に聞いた。


「あの……ちょっとした疑問なんですが、白雪さんは雪女ですよね? 熱いのは、どうして平気なんですか?」

「ふふ、溶けると思いましたか?」


 微笑みながら言われた真司は図星を突かれギクリとなる。真司の中での雪女のイメージは、熱さに弱く陽のあたる場所に行けば溶けてしまうという想像をしていたからだ。


「ま、まぁ……」

「昔と言っても、初代に近い雪女は熱いのが苦手で真司さんの言う通り、温かい所に行くと溶けた事例もあるらしいです。でも、それも雪女という存在が時代と共に繁栄してくると体質も変わり、溶けない身体になったんです。ふふふ」

「へぇ~」


 真司は雪女の生体を知り、お鍋を食べながら深く頷いた。

 白雪は食べていた手を止め、真司にさらに説明する。


「もちろん、体質が変わった今も本質的に"苦手"という雪女は多いです。私は例外ですが……私は、昔から温かい物に興味があったんです。それこそ、他の雪女からは変わり者と言われたりもしました」


 〝変わり者〟という言葉に真司の胸が刺さる。真司も、この目のせいで周りと孤立し、やがて真司自身が孤独を選ぶようになったからだ。

 白雪はガスコンロの火をジッと見つめながら話を続けた。


「私は、いつしか願ってしまったんです」

「願い、ですか?」

「はい。故郷(ふるさと)を出て、色んな場所へ行き、温かいものに触れたいと……」


 黙々と食べていた菖蒲が突然会話に入り、白雪の代わりに話し出す。因みに、お雪はひたすらお鍋を食べていた。

 それはもう菖蒲以上に黙々と真剣に食べ続けている。菖蒲はお雪を見てクスッと笑う。


「雪女の里は、ちと特殊でな。人と関わり合う事を禁じておるのじゃ。なにせ、昔から雪女の数は少なかったからの。つまり、人間で言う『稀少価値がある』ということじゃな」

「そうだったんですか」

「これでも、数は増えたんですよ? 二桁までいきましたから。ふふっ」


 思っていた以上の数の少なさに真司は驚き「えっ?!」と、大きな声を上げた。


「二桁?! じゃぁ、以前は一桁の……その……ほんの数名しかいなかったんですか?!」

「はい」

「言ったじゃろ? 稀少価値やと」


 真司は驚きのあまり言葉を失っていた。


(数人って……人間でも何千……ううん、何億と存在するのに……)


 口をあんぐりと開けポカンとしている真司を見て白雪は微笑むと話を続けた。

「私の"外に出たい"という願いは……」と、言いながら白雪は菖蒲を見る。


「菖蒲様によって、叶えられました」

「菖蒲さんが?」

「はい」


 真司も菖蒲を見る。当の本人は、当時のことを思い出すように目を閉じ微笑んでいた。


「たまたま雪の国に行くと、願いが聞こえてきたのでな」

「ふふっ。……願いが叶った私は、その()、人間の町で色んなことを知り、見て、触れ……そして、雪芽に出会いました」


 名を呼ばれたお雪は、白菜を中途半端に口に含んだまま白雪を見る。


「ふぁ?」

「ふふっ。実は、雪芽との出会いも菖蒲様のおかげなんですよ?」

「そうなんですか?」


 真司は菖蒲を見るが、菖蒲はそ知らぬ顔で静かに笑った。


「私は何もしとらんよ」

「ふふふっ」


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