冬の訪れと雪女-伍-
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菖蒲の店は、白雪が来てから一段と賑やかなものになっていた。
白雪は他の付喪神達にも帰ってきたことを伝えると居間に戻ってきた。
「菖蒲様」
「なんじゃ?」
「そういえば、星ちゃんやルナが見当たりませんが……?」
「あぁ。あの子達か」
菖蒲はお茶を飲むと、湯呑みをテーブルに置いた。
「あの子達も旅に出かけたよ」
そう言うと、白雪は微笑みながら「そうですか」と、返事をする。
「あのぉ……星ちゃんとルナって誰ですか?」
真司が恐る恐る手を上げながら言うと、隣でゴロゴロしているお雪が代わりに答えてくれた。
「星ちゃんはね、とってもと〜っても可愛い男の子で、ルナはね真っ白な猫さんだよぉ♪」
「へぇ~」
「真司。お雪の本体の隣に置いてあった物を覚えているかえ?」
「え? えっと、確か……」
真司は天井を見上げ、骨董品が並ぶ部屋を思い出す。
「確か……色んな色の石が填められている綺麗な硝子コップでしたよね……? 変わったコップだなぁ〜って思ったんで覚えてます」
「正解です」
白雪がニコリと微笑む。
「星とルナは、そのコップから生まれた付喪神じゃ」
「へぇ!」
「今はいないが、あ奴らも、そろそろ帰ってくるんじゃないかねぇ」
そう言うと、菖蒲はまた湯呑みを持ちお茶を飲んだ。
するとお雪が真司の腕をクイッと引っ張り「他にも、このお店にいない付喪神がいるんだよー」と、真司に言った。
真司なそんなお雪に首を傾げる。
「そうなの?」
「うん♪ えっとね、オールドさんもいないね!」
「オールドさん?」
「うん!」
真司はそれが何の付喪神かわからず首を傾げていると、菖蒲がクスリと笑い答えてくれた。
「オールドは、猫の置き物の付喪神じゃ」
「ということは、やっぱり猫なんですか?」
「まぁ、猫と言えば猫やねぇ」
「ふふっ、そうですね」
菖蒲の言葉に白雪も賛同するように言うと、菖蒲は苦笑いをしながら「あ奴は、猫にしては紳士すぎるゆえ、猫とは言えんがな」と、真司に言った。
真司は『オールドさん』という猫の付喪神のことを想像するが、普通の猫ならまだしも紳士的な猫となると、真司は全然想像出来ないでいた。
(紳士な猫……うーん。やっぱり、想像出来ない……)
ふと、真司はなぜ付喪神達が出かけるのかを菖蒲達に聞く。
「でも、一体どこに何をしに出かけてるんですか?」
そう真司が聞くと、白雪がそれを教えてくれた。
「皆、新しい主を探して色んな所に行くんです。強い想いから作られたり、大事にされると人の姿にもなれる付喪神もいます。そして、自分がこの人のことを幸せにしてあげたいという人を見つけに行くんです。他にも目的がなく旅をしたりする付喪神もいます。故郷に帰ったりも」
「へぇ~。じゃぁ、お雪ちゃんもどこかに行くの?」
真司はお雪に問いかける。いつも元気で可愛らしいお雪がいなくなると思うと、真司は少し寂しい気持ちになっていた。
しかし、お雪はキョトンとした表情をし真司を見ると、ニコリと笑い、その小さな首を横に振った。
「ううん。私はここが好きだから、ずっとここにいるよ! 白雪お姉ちゃんがいる限り、菖蒲さんの所にずーっと留まるつもりだよ♪」
「そうなんだ」
「うん♪」
お雪がいなくならないことにホッと安堵の息を吐くと、それを見ていた菖蒲も白雪も顔を見合わせ微笑んだ。
すると菖蒲が空になった湯呑みを置くと、スっと立ち上がった。
「さて、と。話しはそこまでにして、そろそろ鍋でも作ろうかねぇ。お腹も空いたじゃろう?」
「あ、僕も手伝います」
「うむ。おおきに」
「私も~♪ お腹空いた♪ 空いたー!」
「私は……折角なので、炬燵で温まっています~」
小さく欠伸をする白雪を見て、菖蒲と真司、そして、お雪はクスクスと笑ったのだった。
既に下準備は出来ていたので、菖蒲達がささっと用意をすると鍋はものの数分で出来上がった。
野菜とお肉が沢山入り、グツグツと煮える鍋。白雪とお雪は、目をキラキラと輝かせながら鍋をジッと見ている。
(なんだか、本当に姉妹みたいだな)
内心そう思い、微笑ましい気持ちになる真司。
大人っぽく見えても、白雪にも案外子供っぽいところがあるようだ。
「うむ。もうよい頃合いかの」
「わーい♪」




