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あかしや橋のあやかし商店街① 【続編連載中】  作者: 癒月
第一幕 ~掛け軸のお願い~
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掛け軸のお願い-壱-

第一幕 あらすじ

人間ではないモノ達が見える真司は、地元にある橋"あかしや橋"の噂を知る。

そして、自身の家で泣いていた掛け軸の願いを何とかしてもらう為、噂される妖怪の町『あやかし商店街』へ行くことを決めたのだった。

  子の正刻——数字の時刻に表すと夜中の0時。

 その時刻に例の噂話を密かに聞いていた少年は、家に帰らず学ランのまま、あかしや橋へと訪れていた。


 その少年の名は、宮前真司みやまえしんじ。近隣の宮山台みややまだい中学校に通う中学一年生。


「うぅ…ここまで来るのって、やっぱり怖いなぁ…」


 怖気付いた様子で周りをキョロキョロと見回す真司。


 あかしや橋に向かう為には、街灯が1つしかない真っ暗な公園に電気が消えている小学校、更に生い茂っている林に大きな池の間を通らなければならなかった。

 

 街灯の少なさと夜の静けさ。

 木々が風で揺れ、葉の擦れる音。濁った池が風で微かに揺れる音。

 

 真司にとっては、まるで肝試しをしている気分だった。いや、これは誰もがそう思うだろう。それぐらい、昼と夜の風景の雰囲気が一変していた。


「…………」


 渇いた口の中を無理矢理ゴクリと鳴らし唾を飲み込む。例の橋は、もう目の前にある。

 真司は、あかしや橋の手前まで来ると、その場で立ち止まった。緊張と不安のせいで、掌は微かに汗ばんでいる。


 すると、坂になっている後方の道からチリリン…チリリン…と、突然、小さな鈴の音が聞こえてきた。


「っ!?」


 真司はその音に肩を上がらせ驚いた。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように体が萎縮し硬直する。後ろを振り返るのも怖く、真司は下の道路へと続く石階段に慌てて脱兎の如く逃げ込み身を隠した。

 


 ――チリリン……チリリン……

 


 鈴の音が足音のように鳴り響き、次第に音は近くなる。真司の心臓は、今にも飛び出すのではないかというぐらいドキドキしていた。

 その間も鈴の音は橋に向かって来るのがわかり、真司は自分の居場所がバレないようその場で息を殺す。


 

 ――チリリン……チリリン……

 


 遂に、音は目の前まで迫ってきている。真司の心臓の音も、自分の耳で聞こえるぐらい強く鳴っていた。

 額には薄らと汗が滲んでいる。それでも、目を凝らし音の正体を確認しようとした。

 

(く、暗くてよく見えない……。……嫌なモノだったらどうしようっ!?)

 

 すると、雲に隠れていた月がスーと現れ、月は街灯の代わりに辺りを照らしてくれた。

 暗くて見えなかったものも、今はハッキリと見える。そして、真司は音の正体を知ると、その美しさに思わず目を奪われ驚いた。


 まるで宵闇の如く黒く真っ直ぐな艶やかな髪。陶器の人形のように滑らかな白い肌。大きな黒い瞳と小さな顔。

 ぷっくりとした唇と頬はほんのりと赤く、少し幼い感じがした。

 着ている服は着物で、黒の生地に渋い色の紫と青の薔薇柄が刺繍されている。帯は、赤ピンクに雪の結晶が散らばり、幼い外見に反し大人っぽい雰囲気も出ていた。

 正直、年齢が不明な外見だった。

 

 ――チリリン……チリリン……

 

 鈴の音にハッと我に返り、夢から現実に戻ってくるみたいに頭を左右に振る。美しい女性は真司に気付かぬまま、素知らぬ顔であかしや橋を渡ろうとしていた。


「——駄目だっ!!」


 慌てて石階段から出て、後を追うように自分も橋に向かい女性の腕を掴む。腕を掴まれた女性は、髪をなびかせクルリと振り返った。

 振り返った瞬間、髪から花の匂いがし真司の鼻腔を掠める。大きな瞳で真っ直ぐに真司の顔を見つめるその顔は、少し驚いた様子をしていた。

 しかし、腕を掴んだ真司は目の前の女性ではなく、周りを呆然と見ていたのだった。

 

 ――そう。今、目にしている風景はシン……と、静まり返った薄暗い橋ではなく、ガヤガヤと賑わい様々な店が建ち並ぶ風景だったのだ。

 

 そして、隣を歩く人々もしくは楽しそうに談笑している人々は――そもそも、人ではなかった。


 鬼のような顔をした者。腕が八本ある者。動物の耳が頭に生えている者。

 自分の横を二足歩行で堂々と歩いている猫がいたり、はたまたは、首が長い女性が笑顔で買い物をしていたり。

 長い前髪の隙間からその風景を見ると、真司は魚の口のようにパクパクとさせた。言葉は出てこず、頭の中は真っ白だ。


「…あの、もし?」


 女性は、まだ腕を離してくれない真司に向かって声をかける。真司はぎこちない動きで女性の顔を見ると、突然、体がグラリと傾きそのまま倒れ始めた。


「えっ!? ……こりゃぁ、困ったねぇ〜」


 女性は倒れる真司の体をその細い腕で支えると、困った顔をしながら何気ない空を見上げた。

 倒れている本人はというと、女性の膝の上で目を回し「う〜ん……」と、唸っていたのであった。

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