冬の訪れと雪女-二-
二人は商店街の表通りを歩きながら、菖蒲の店である骨董屋へと向かっていた。
その途中に、次から次へと魚や野菜などを買ってもいないのにお裾分けしてくれる親切な妖怪達に会い、真司の両手はさらに塞がってしまった。
もちろん、それは菖蒲も同じである。なんとか店に辿り着くと、二人は店頭の入り口ではなく裏口の玄関へと回った。
「はぁー、重いですねぇ」
「ふふふっ」
菖蒲が嬉しそうに笑いながら、玄関の戸を横に引く。ガラガラ……と、引き戸らしい音が鳴った。
「「ただいま」」
お互い無意識に声が重なってしまう。それに可笑しく思い、二人はクスッと笑い出した。
「お帰りなさーい!」
引き戸を開けた途端、陶器の付喪神である雪芽こと、お雪が真司に飛びつくようにギューっと抱きしめる。
「うっ!」
またもやお雪の鳩尾に頭が当たり、真司は軽く呻いた。
その衝撃で、抱えていた荷物を落としそうになったが、真司は何とか持ち直す。
(もう、慣れたからいいんだけどね……)
そう。お雪は真司が商店街に来訪する度に、いつもこうやって突進されるのだ。最早これは、お雪の恒例行事だ。
真司はそんなお雪を見下ろし苦笑いしながら「た、ただいま、お雪ちゃん」と、言った。
「えへへー♪」
真司に抱き着きながら顔を上げ、ニコリと笑うお雪。
「これ、二人とも。はよう中に入りんしゃい」
「はーい♪」
「はい」
先に下駄を脱ぎ玄関に上がる菖蒲が言う。真司とお雪は菖蒲の言葉に返事をすると、お雪は真司が持っている買い物袋の一つを手に取った。
「私、一個持つ~!」
そう言って荷物の一つを抱えるお雪に、真司は優しく微笑みかける。
「有り難う、お雪ちゃん」
真司のお礼が嬉しかったのか、お雪は花のような笑顔を浮かべ「うん♪」と、言うと、真司の隣に行き二人は店の中へと入ったのだった。
真司は居間に着くと持っていた荷物を全てテーブルに乗せ深い溜め息を吐いた。
「重かったぁ~……」
「今日は一段と多いね! 全部貰い物なの~?」
リスのように首を傾げるお雪は、真司と菖蒲を交互に見る。菖蒲はそんなお雪にクスリと笑うと、お雪の小さな頭に手を乗せ水色の髪を撫でた。
「今日は違うぞ? いや、貰い物も確かにあるがな。お雪や、そろそろ感じぬかえ?」
「ん〜??」
お雪は首を傾げながら、つぶらな瞳をパチパチと瞬きさせる。そして、やっと気づいたのか「あ!」と、大きな声を上げた。
「もしかして、もう帰ってくるの?! くるの〜?!」
菖蒲の袖を引っ張るお雪を、菖蒲は優しい手つきで頭を撫でると深く頷いた。
「うむ。帰ってくるえ」
「やったぁ!! 白雪お姉ちゃんが帰ってくる~ぅ♪ わーい! わーい!」
お雪は着物の柄や髪飾りの雪兎みたいに、菖蒲と真司の周りをピョンピョンと跳ね歩く。その様子を見て二人は微笑ましく思い、目を合わせるとクスクスと笑った。
「さて、と」
菖蒲は細長い紐をどこからとも無く取り出すと、あっという間にたすき掛けをし着物の袖をまとめる。
「白雪が帰ってくる前に、鍋の用意でもしようかねぇ」
「お鍋~♪」
「でも、白雪さんって雪女ですよね? お鍋とかって、大丈夫なんですか?」
学校の授業が終わるとそのまま菖蒲と買い物をしたので、真司の格好は学ランのままだ。真司は、上着をハンガーに掛けながら菖蒲は言った。
「そこは問題ないぞ。むしろ、熱いものは白雪の大好きなものやからね」
「うん♪」
『雪女』は熱いのが苦手というイメージを持っていた真司は、意外なことを知り「へぇ~」と、言いながら頷いた。
「てっきり、雪女は熱いのが苦手だと思っていました」
「ん? そうじゃの」
「え……?」
真司は上着を襖の木の枠に掛けようとした手を止め、再び菖蒲に聞き直す。