二度目の訪問-六-(終)
お雪の言葉に、真司の頭の中はクエスチョンマークが沢山飛び交っていた。
それを見かねた菖蒲は、真司の肩に手をポンッと置いた。
「真司や。お前さんが聞こえた声の主はの、全て、ここの骨董達ぞ」
「…………えぇっ?!」
「以前に言ったやろう? 物には生命が宿ると」
「そ、そうですけど……」
すると、周りの骨董達がクスクスと笑い始めた。
菖蒲は思い出したかのように両手を合わせる。
「おぉ、そうじゃそうじゃ。これは言うてなかったが、お雪もその一人じゃぞ」
「えぇっ?! お雪ちゃんも?!」
「はーい♪ 私も、ここの皆と同じだよ~♪」
真司は、元気に手を上げるお雪を見る。失礼なのは承知な上で、お雪の頭のてっぺんから足のつま先までジッと見た。
(どこからどう見ても、人間の女の子に見えるのに?!)
お雪は真司に見つめられ「えへへ~」と、言いながら照れる。
「そんなに見られると恥ずかしいよ〜」
「妖怪……なんだよね……?」
「うん、そうだよ♪」
隣にいる菖蒲がカウンターの傍に飾られている陶器を指さす。
「ほれ、真司。あれを見んしゃい」
「へ?」
「あれが、お雪の本体じゃ」
「……これが?」
真司は菖蒲が指さした物をジッと見る。それは以前、目にしたことのある物だった。
湯呑みの陶器なのだろうか? 少しだけ端が掛けていたが、相変わらず真っ白で綺麗な陶器だった。
そして、その陶器には雪兎の絵が描かれている。真司はお雪を再び見る。
(着物も雪兎、髪飾りも雪兎……)
そして、真司は自分の前髪を留めてある髪留めにそっと触れる。
「確か、これも雪兎……なんだよね? お揃いって言っていたし」
「そうだよー♪」
「ふふっ、納得したかえ?」
「は、はい。と言っても、少しだけですけど……。でも、どうして人の姿に?」
「ふむ。お雪は強い想いから作られ、それと同等の想いから大事にされている。前にも言うたが、年月が経つと生命が宿るのじゃ。そして、強い想いから作られた物や大事にされた物は、時には実体化も出来るんよ」
真司は菖蒲の言うことに、ふと、その妖怪の名前が頭に浮かんだ。
初めて菖蒲から聞いたときはその名前が浮かばなかったが、今の真司はそのことを考えることも、疑問に思うこともなかった。
「物に生命が宿る妖怪……。それって、もしかして、付喪神ですか?」
「うむ。ここにいる物も所謂、付喪神に入るがお雪は別じゃ。あぁ、がしゃ髑髏と同じやねぇ。がしゃ髑髏は、怨念の塊……しかし、お雪はその逆――想いの塊なのじゃ」
そう言って、菖蒲は優しい眼差しで、他の骨董と楽しそうに話しをしているお雪を見た。
「ふふっ。まだここには人間に化けることが出来る物もおるから、楽しみにしているとええ」
「え、他にもいるんですか?!」
驚く真司に菖蒲はニコリと笑う。
「何せ、ここは私の店やからねぇ。縁は既に紡がれておるから、自然と他の者にも会えるさ」
菖蒲はそう言うと、袖口を口元に当てクスクスと笑ったのだった。
(他にもお雪ちゃんみたいなのがいるんだ。なんだか……これからどうなるか想像つかないなぁ。それに少し大変そう……?)
「あ、あははは……」
(終)
next story→第二幕
[あらすじ]
秋とは違い冬の匂いが感じる中、菖蒲と真司は鍋の買い出しに行っていた。
やけに多い量に、真司は菖蒲に理由を聞くと「雪女が帰ってくる」と言われる。
真司は、まだ見ぬ雪女がどんな妖しなのか少し興味があった。
あかしや橋のあやかし商店街 第二幕は挿絵付きです‥!!