補給線について2 水上輸送
前回の補給話に関して追加のお話です。
前回は物を運ぶという事に対して馬車で考えました。つまり道の上をゴトゴト運ぶという前提でした。
ですが、他にも物を運ぶ方法はあります。それは船です。
船を利用した水上輸送は馬車による陸上輸送より、圧倒的に効率が良いのです。
陸路では馬等が引っ張る以上、運べる量の限界がありました。
しかし水上では船に物を載せさえすれば、後は帆を張って風が勝手に運んでくれます。重さで沈まない限り、運べる量に制限が無いのです。クレフェルトの「補給戦」では100トンの小麦を運ぶ時、馬車600台が必要になるのに対し船ならばたった9隻で足りた、と説明されています。
おまけに運ぶ家畜の維持費を考慮する必要もありませんし、輸送速度も陸路より遥かに速いという良い所どりです。
基本的には水路による輸送は効率で言えば完璧です。これは現代でもほぼ変わりません。
但し、水路輸送も欠点が無い訳ではありません。
一つは船を造るという専用の初期投資が必要であると言う事です。
船は単なる板ではありません。造船という技術の粋を集めて作られたものなのです。
僅かな距離を運ぶなら急造の筏やはしけでも十分でしょうが、例えば海や大河を運ぶにはちゃんとした船で無いといけません。そして、ちゃんとした船ならちゃんとした水夫が必要です。これまた水夫とは専門職で、その辺の兄ちゃんに任せる、という訳にはいかないのです。
もう一つは当たり前の事ですが水が無い場所には行けないという事です。
水上輸送に頼るのならば、どうしたって水辺に近い所しか移動できなくなります。
水路の有る無しで戦略が左右されることも決して珍しい事ではありませんでした。
古代・中世の中国でも戦争では川や運河の通る場所を狙って経路に選んでいます。
オランダ独立戦争ではオランダ軍は運河を輸送路として使っていたため、川沿いから離れた所ではスペイン軍に敗れることが多々ありました。
水という優れた補給路を優先するか、無理してでも陸路に切り替えて自由に活動するか、という選択は歴史上の将軍達の常に悩みの種でした。
名将の条件にはこのジレンマを上手くやり過ごす事も含まれていました。