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補給線について


 今回はちょっと抽象的なお話。


 よく歴史の戦争場面では補給線を遮断して敵を飢えさせ撃退した、という記述が出て来ます。確かに餓死寸前になったら戦いどころではありませんよね。そこで気になるのは「補給線を遮断する」とはどういう事なのか、という点です。


 そもそも補給線とは何なのでしょうか。お手元にマーチン・ファン・クレフェルトの「補給戦」がある方は参考書として開いていて下さい。

 皆さんの補給線と言うものに対するイメージとしては「拠点から延々と連なる馬車の群れ、荷車には大量の物資が載せられている」という、「軍隊に栄養を補給する一本の臍帯」のようなイメージだと思います。

 ある時代では決して間違ってはいませんが、多くの場合は別の形態を撮っていました。


 考えやすくする為に少しモデルを出しましょう。ここに1万人の兵隊がいるとします。


 彼らの食事量を分かり易く、おにぎりで換算することにします。兵隊は紛うことなき肉体労働者ですから1日3000キロカロリーは摂取が必要です。

 これはおにぎり(1個100g)が15個分です。1万人ですと15万個で1500万グラムつまり15トンになります。

 西部開拓時代で一般的な二頭匹コネストーガ幌馬車は一台6~7トンの積載量だったので、少なく見積もって馬車2台分ということになります。


 それなら大したこと無いじゃないかと思うかもしれません。ですが、これは1日分です。1週間分なら28台、1か月分なら60台分になります。


 そして、この馬車の数は食料しか考慮に入れていません。水、工具、その他の生活必需品も考えたら幾ら必要になるのでしょうか。

 更にこの馬車を引く馬の食い扶持も考えなくてはなりません。

 馬は道端の草を食べていればいいというものでは有りません。少なくとも軍事行動に追随させるためには専用の食料が必要になってきます(なくなれば道端の草を食べて食いつなごうとするでしょうけれど)。馬は1日10Kgは食事を取ります。


 更に更長くなった馬車列を守ろうとすると護衛の為の兵が要りその分の食料も必要になり……と、幾ら馬車があっても足りないという事が分かると思います。

 後方から物資を運び続けるという方法は現実的で無いと御理解頂けるでしょう。


 では、どうすればよいのか。それは現地調達、早い話が略奪すればいいのです。

 カエサルの「ガリア戦記」でも頻繁に兵を徴発に向かわせたという記述が出て来ます。軍隊の本能は略奪、なんて事も言われたりしますが、これは略奪によって食料を確保しなければそもそも軍隊が維持出来なかったという理由があるのです。

 但し、基本的には略奪は近場しか出来ません。遠くまで兵を派遣してもやられてしまうだけです。代わりに入れ替わり立ち代わり、何人も何人も兵を略奪に派遣するのです。

 余談ですが教科書ではナポレオンは補給を現地調達に切り替えたから軽快に動くことが出来た、と言われていますがこの点は余り正しく有りません。むしろ、熱心かつ正確に略奪した為軍隊を維持出来た、と言うべきでしょう。


 つまり、補給線とは「長く連なる一本の臍の緒」ではなく「軍隊から何本も突き出るアメーバの足」というイメージなのです。



 さて、では補給線を遮断するにはどうすればよいのでしょうか。

 1つはこのアメーバの足を一つ一つ叩く方法。もう1つはそもそも略奪するべき物を残さない、焦土作戦です。

 前者は城に押し込めての包囲戦も含まれます。後者は第二次ポエニ戦争のファビアン戦術が有名ですね。

 補給線は遮断出来れば非常に高い効果が上がります。何と言っても自軍の兵を失うこと無く一方的に敵兵を消耗させることが出来るのです。

 だったら最高じゃないか普通に戦うなんて馬鹿のすることだ、と思われるかも知れません。ところが、これらの戦法にも欠点はあるのです。

 それは、兎に角時間が掛かるという事、そして戦場となった地域が荒れると言う事です。


 前者の徴発隊を叩く方法をとっても全てを叩ける訳では無く、略奪を完全に防ぐ事は出来ません。

 何よりも忘れてはならないのは飯を喰うのは敵も味方も変わらないという点です。

 侵略者から領土を守るべき自軍もまた、軍隊を維持する為には食料を掻き集めて来なくてはならないのです。先程説明した補給線の重荷は防衛軍にも全く平等に振りかかるのです。

 戦場には大量の食料を必要とする2体の巨大なアメーバが存在し、誰彼構わず食べてしまうのです。

 後者の焦土作戦に関しては改めての説明は必要ないでしょう。第二次ポエニ戦争ではローマ軍の焦土戦術にハンニバルよりもイタリア同盟市民が先に根を挙げています。

 そして、これらは敵軍が引いていくまでずっと行われるのです。戦場となった土地に住む人々にとってはたまったものでは有りません。

 

 国を荒れさせたくない、短時間での戦いで決着を着けたいと思えば一か八かの会戦という博打に打って出るしか無いのです。大軍同士の戦いが生起する大きな理由の一つがこれでした。



 "補給線を攻撃する戦法にはメリットとデメリットがあり、時と状況に応じて他の方法と使い分けていかなくてはならない"というお話でした。





 と、ここで終われればいいのですが、これは近代までの事情です。銃とエンジンが支配する現代以降の戦場では食料以上に砲弾と燃料が無くては戦いになりません。しかし砲弾・燃料は現地調達では手に入らず、後方の集積地から運んでくるしか方法が有りません。補給線、兵站の重要性は以前の時代よりも飛躍的に高まっています。

 だからこそ、現代型の軍隊では戦闘部隊よりも兵站部隊の方が比率が高く、敵軍を蹴散らす事よりも戦略目標の奪取による補給線の遮断が重要視されるのです。

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