ナポレオンの国民軍
フランスの英雄ナポレオン。彼の征服業は類まれな軍事的才能とフランス革命によって齎された国民国家の兵士が原動力だと言われています。前者については客観的な評価は不可能ですが、後者については些か説明が必要になります。
教科書的には国民国家の兵士は情熱に満ち、高い士気を持った志願兵から為ると書かれています。だから強いのだと。確かにそういう一面も無くはないでしょう。しかし、国民国家型軍隊の最大の強みは士気の高さでも、ナショナリズムへの情熱でも有りません。それは数です。圧倒的な兵力数こそが一番の強さでした。
革命が起きるまで、フランス軍は20万人程しかいませんでした。絶対王政期のフランス軍は貴族・志願兵・徴兵・外人部隊など様々な構成員からなりたっていましたが、飽く迄も軍隊は国王の私設軍隊という扱いでした。この点に関しては他国も殆ど変わりありません。
しかし、それが革命時の総動員で兵力数は50万人に膨れ上がります(最大時におけるフランス軍の人員数は150万人とも言われています)。長い革命戦争やナポレオン戦争で消耗して行きますが、その後も動員を続け、それでもこの圧倒的な兵力があったからこそ四方を敵に囲まれてもフランスは戦い続けられたのです。
兵力数の増加はそれぞれの会戦での兵数にも如実に現れています。初期の革命戦争では大抵は二万人、多くても五万人程度の軍勢であったのにナポレオン戦争時には十万人単位で兵力が投入されています。皇帝であるナポレオン自身が率いているというバイアスはあるでしょうが、それを差し引いても軍隊の肥大化は明白ではないでしょうか。
では何故これだけの兵を集められたのでしょうか。それこそが国民国家の魔力なのです。
国民国家は、構成員である国民に権利と同時に義務を背負わせます。戦時に於いては戦争に加わる義務が発生します。フランス共和国の指導者達はこの点を大いに利用して大規模な徴兵を行ったのです。特にナポレオンが支配権を握るまでのフランス共和国はギロチンの恐怖政治が猛威を振るっており、逆らえば処刑されるという状況でした。或いは処刑されるよりは戦場に行った方がマシと考えていたのかもしれません。
この強引な徴兵はヴァンデの反乱などで見られるように民衆からの反発も産んでいます。
勿論、革命思想を信じた熱心な志願兵もいました。特に動員の初期はそう言った人々が多くを占めました。しかし、彼らも使い潰され戦争で果てていくと、後に補充されたのは徴兵された若者達でした。
つまり、"フランス共和国・フランス帝国は国民国家の力を背景に大規模な徴兵を行い、大軍を作り上げた。そして、その大兵力が征服の原動力だった"と言えるでしょう。
膨大になった軍隊を支える為には相応の兵站システムが必要でフランス軍はこの点も整備されていましたが、これはまた別の機会にお話ししましょう。