騎士と槍と銃と 次
前回の続きです。銃が終わらせたのは騎兵ではなく重装兵だというお話です。
銃は強力な武器です。火縄銃でさえも50mの距離から厚さ2mmの鉄板を貫通出来ました。それまで投射兵器の主流であったクロスボウや弓などとは比較にならない威力です。ちなみにフルプレートアーマーを撃ち抜く程の強力なクロスボウも開発されましたが、今度は弦の張力が強すぎて人間には扱えなくなりました。
鎧も銃に対抗するべく材質を強化させ、厚みを増していきました。しかし、弾丸を防げるほどの鎧となると厚さ2~3cmは必要となりました。厚さ2mmの鎧でさえもその重量は30kgに及びます。それが10倍の厚みを必要としたら、どれだけの重量になり、どれだけのコストがかかることでしょう。しかも、そこ迄努力して防げるのは火縄銃でしかありません。進化を続ける銃の威力に実用的面を損なわずに付いて行く事はとても出来ませんでした。
更に銃は数週間程度の訓練で新兵でも扱えるという特徴があります。鉄板でも簡単に撃ちぬいてしまう武器も持つ兵士をあっという間に集められるのですから、鎧サイドにはたまったものではありません。
とは言え、銃兵にも弱点はあります。それは再装填に時間がかかるという点でした。特に俊足で距離を一瞬にして詰めてしまう騎兵は天敵でした。幾ら威力があっても撃てないのでは意味がありません。
ここで活躍するのが既に説明しました槍兵の防御陣です。槍兵が騎兵の攻撃を抑え、その間に銃兵が釣瓶撃ちにするという黄金パターンが生まれました。この戦法をpike and shotと言います。
さてここまで追い詰められた重装槍騎兵ですがまだ絶滅とまではいきませんでした。何故なら強力無比なpike and shotも所詮は歩兵。馬の機動力を活かせば一発逆転のチャンスは残されているのです。
が、そんな重装槍騎兵に追い打ちを掛ける存在が現れました。それがピストル騎兵です。
ピストル騎兵は鎧を身につけずピストルだけを装備した軽騎兵の事です。機動力は遥かに重装槍騎兵に勝り、攻撃のリーチはピストルと言えど騎槍より上です。更にピストル程度でも鎧兜を撃ち抜く事は可能と、重装槍騎兵にとっては大変な難敵でした。
そしてピストル騎兵は数を揃える事が出来ました。彼らは安かったのです。
重装槍騎兵は分厚い鎧兜、槍、剣、それらを支えて走れる頑健な軍馬が必要でした。兎に角、目玉が飛び出る程に高価な兵です。一方のピストル騎兵は武具はピストルを数丁、馬は走れればいいだけです。ぐっと安かったのです。
纏めますと、"重装槍騎兵は槍と銃で追い詰められ、安いピストル騎兵に止めを刺された"と言えるでしょう。
騎兵は頂点の座から引きずり降ろされ、軍隊は重い鎧を捨てる事になりました。
重装騎兵・槍騎兵・ピストル騎兵にはこの後にまた新たな運命が待ち構えているのですが、それはまた別の機会にお話しましょう。