騎士と槍と銃と
騎士(重装槍騎兵)の時代の終焉は銃によってもたらされたというのが世間一般的な見解です。それは必ずしも間違いではありませんが、正しくもありません。
重装槍騎兵の一番の任務とは人馬一体となって敵陣に突撃を掛け粉砕し蹂躙することです。陣形、特に中核となる歩兵陣形を力づくで打ち砕く事が目的なのです。言い換えれば、騎兵突撃に耐えられるだけの堅固な歩兵陣形が組み上げられてしまうと重装槍騎兵はその役目を終えさせられてしまうのです。
中世初期では猛威を振るった重装槍騎兵ですが、その翳りは意外と早く訪れています。1302年のクールトレーの戦いではフランドル市民兵が槍兵を主体とした強力な歩兵陣を築き、地形防御も利用してフランス騎士を散々に打ち破っています。1314年のバノックバーンの戦いではスコットランド兵が同様にしてイングランド騎士を追い散らしています。
その後は重装槍騎兵は喰らい付きながらも頂点の地位から転げ落ちていきます。スイス・パイク兵はオーストリアやブルゴーニュ公の騎士軍団に圧勝しています。さらにイングランドは地形防御と堅固な歩兵陣に優れた投射兵科を組み合わせる事で重装槍騎兵への対抗策を完成させました。クレーシーやアジャンクールでの戦果の程は誰もが知るところでしょう。
つまり、重装槍騎兵の時代が終わったのは堅固な歩兵陣形、特に馬の動きを阻害出来る槍を主体とした歩兵陣形の存在が大きな要因を占めているのです。
後に槍兵が廃れたナポレオン戦争の時代にウーランと呼ばれる槍騎兵が復活し大きな戦果を挙げた事もその事を裏付けていると思われます。
では銃が終わらせたのは一体何なのか? それは馬の時代では無く、鎧の時代でした。
この話はまた次回に回します。