騎士について
歴史上、"騎士"とは一般の作品で用いられているような兵種や特定の戦闘集団を指すものではありませんでした。騎士とは殆どの場合に於いて社会の階層を示すものでした。
古代ローマではエクイテスが騎士と訳されていますが、このエクイテスは軍馬を養い騎兵として従軍出来る程の財力を持った階層の事を指しています。エクイテスという名称もラテン語の馬から来ています。
共和制末期や帝政時代には騎士は騎兵としての任務から解放され、騎士階層という富裕階層を形成していきます。
中世でも、時代によって幾らか差はありますが、騎士とはやはり騎兵として従軍出来る財力を保有する人々の総称ないし身分の事でした。フランス語やドイツ語で騎士(chevalier、Ritter)を意味する言葉も馬という言葉から来ています。ちなみに英語のナイトは古語のcnihtから来ており、これは従者を意味しています。従者とは大雑把に言うと騎士見習いの様な存在です。
つまり、"騎士"とは"軍馬に乗り戦えるだけの財力を持つ人々"であり、一般的なイメージの様に重装騎兵のことを指すのではありません。殆ど被りはしても、イコールでは無いのです。
また"騎士団"という存在も、漫画や小説に多く登場するような"王に忠誠を誓う指揮系統の整備された戦闘集団"ではありませんでした。
歴史上、騎士団と呼称されるのは大別して"騎士修道会(修道騎士団)"と"世俗騎士団"に分かれています。
前者の修道騎士団は基本的には文字通り、戦う僧侶のことです。聖ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団、テンプル騎士団、サンティアゴ騎士団等が存在していました。
特定の宗教組織に属し、彼らの信仰する神の為に戦うのです。指揮系統は整備されており、強力な戦力でありますが飽く迄も宗教組織の一部門であり、国家体制に含まれるものではありませんでした。
後者の世俗騎士団は戦闘集団ではありません。ガーター騎士団や羊毛騎士団が存在していました。これらは王侯貴族も含めた騎士達が結束と誓約と名誉に憧れ作り上げた、言ってみれば唯の同好会です。目的は戦う事ではなく、大掛かりな騎士道ごっこをする為のクラブみたいなものでした。
戦う力を持たない高貴な婦女子も稀ですが騎士団に加盟したということからも分かるとおりでしょう。
纏めますと、"騎士とは身分の事"で、"歴史上、騎士団は僧兵か遊びかしかない"ということになります。