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1.それは始まりの朝

僕の名前・・・。僕の名前は、いつの間にか決まっていた。誰が決めたか分からないがその名を名乗っている。僕はその名前に好きだとか嫌いだとかそんな感情を持ち合わせたことがなかった。あるから、それを名乗る。ただそれだけのこと。でも、そこに意味を持たせてくれた人がいた。

「いい名前だね。」

その言葉が名前を持つことの意味を教えてくれる気がした。そしてようやくその名前を持つことを誇ることができる。


僕の名前は、信田(しのだ) 智哉(ともや)


そしてその名前を誇りを持って言えるそのきっかけを彼女はくれた。


彼女の名前は、皆瀬川(みなせがわ) 深月(みつき)


彼女との出逢いは、僕の世界を変えた。そう――――大きく大きく――――――


その名前を告げた時、彼女は、嬉しそうに、

「いい名前だね。」

そう言ってくれた。おばあさんもうなずく。僕はそれだけで胸が熱くなった。

「私はね、皆瀬川深月。んで、こっちが、私のばぁちゃん。」

「それじゃ自己紹介にならないじゃろ。晴枝(はるえ)と申します。」

おばあさんは丁寧にお辞儀する。僕も合わせてお辞儀した。

「私のことは深月って呼んでくれていいから、智哉って呼んでいいかな?」

彼女は僕にそう求めてきた。僕は別に気にならなかったので、

「分かりました。」

とだけ言い、了承しておくことにした。深月はまた屈託のない笑顔で、

「よろしくね、智哉。」

と握手を求めてきた。僕が少し恥ずかしそうに、手を差し出すとその手をさっと掴まれぶんぶんと腕を大きく振って握手した。僕と違って元気な人だという印象を改めて感じた。

「立ち話もあれなので、中にどうぞ。」

おばあさんに促され、僕は靴を脱いでお邪魔することにした。最近改装したような木製のきれいな床が敷き詰められた廊下を抜け、僕は部屋に通された。そこは団欒という言葉がよく似合う畳にちゃぶ台が置かれた部屋だった。

「その辺に荷物を置いて下さいね。」

おばあさんの言葉に甘え、僕は部屋の端に荷物を置かせてもらう。そして、待つこと数分で、二人は夕食の食器をちゃぶ台へと運んできた。僕はそれが自分の世界にはなかったので、ただ見ていることしかできなかった。

「はい、んじゃ食べましょうか。」

「は~い。いただきます。」

「い・いただきます。」

こうして、唐突に夕食の時間が始まった。



「智哉ってほんといい名前だね。」

深月がその台詞を言ったのはこれで4度目だった。あの衝撃の出会いから2時間後、僕は、皆瀬川家で、夕食を御馳走になっていた。

「ごくありふれた名前です。珍しくもないですから。」

僕は淡々と言ってのけるが、内心、少し嬉しかった。こんなに何度も名前を呼んでもらったことがないからだ。深月は一品を食べては僕を見て、微笑む。僕は正直非常に食べづらかった。すると、

「これ、智哉さんが、食べにくそうにしておられるじゃろ。そんなにじろじろ見るでない。」

おばあさんは深月を諌めてくれた。少しは落ち着いて食べれそうだ。というか人の表情を良く見ておられる方だと少し尊敬していた。その気遣いも僕にとっては嬉しくもあった。それからは深月は静かに食事を始めたので、穏やかな夕食が過ぎていった。

「して、どうしてここにきなさった?」

夕食後、おばあさんはそう僕に尋ねてきた。深月は今奥の台所で夕食の食器を洗っている。どうやら、役割分担をしているようだ。僕はそれを思うと同時に全てを話そうか迷っていた。おばあさんは僕がためらっていることに気づいたのだろうか、

「まぁなにがしかの訳がありそうじゃな。深く詮索はせん。話したくなった時に話してくれたらええ。」

とそれ以上深入りしないでくれた。

「すみません。」

「いいんじゃよ、それまでゆっくりしていけばいいんじゃよ。」

「いえ、今日はお世話になりますが、明日には失礼します。」

僕はこれだけは決めていた。いくら泊まる所がない身とはいえ、人様の家に居候するわけにはいかない。甘えるわけにはいかなかった。もし、お世話になれば、その生活が良すぎて抜け出すことが出来なくなってしまう。僕には今日一日だけでも生きていて良かったと思える日があれば本望だった。

「そうか・・・残念じゃのぅ・・・。」

「明日帰っちゃうの?」

台所にいたはずの深月が戻って来ていた。僕はうなずくだけにしておいた。

「どうして?ねぇ、どうして?」

「どうしてって、学校がありますから。」

「あっそうか、もう少しあるもんね。でもそれだったら夏休みになってから来たらよかったのに。」

「来たかったんです。」

関係ないともおばあさんの前で言うこともできず、無理のある返答になってしまった。しかし、深月は、

「そっかぁ・・・。また夏休みになっても来てね。んじゃお風呂行ってきます。」

「ゆっくり入っておいで。」

深月は、そのまま風呂へ直行したようだ。しばらくしてから、

「無理のあるウソじゃな。」

おばあさんは見抜いていたようだ。僕は観念した。少し話そうと決めた。

「そうですよね・・・。」

「少し話す気になったようじゃね。」

「僕は、家を出てきました。」

少しどころか、いきなり核心から話してしまった。そういう雰囲気に持っていくのがおばあさんは上手いようだ。

「そうじゃったか・・・。」

「突発的に出たので、無計画で、とにかくあの街から遠くへ行きたかった。それだけだったんです。それでここに着きました。駅で休んでいる時に、深月さんに会ったんです。」

とりあえず、説明した。簡単ではあるが、大筋はこれで説明できた。おばあさんは寂しそうに僕の顔を見て頷いてくれた。

「しかし、縁じゃね。智哉さんに会えたのは。」

「えにし・・・ですか。」


人の出会いには意味があるという話は聞いたことはあった。しかし、僕は、今までその縁でいい出会いをしていない。因縁などいい結びをしないという考えだった。でも、縁と言えば、何か違った感覚にとらわれる。因縁ではない。何か新鮮な響きにも感じられた。意図することは同じでも、表現によって良くも悪くも捉えることができる。僕は、外の世界に出てまた一つ学んだ気がした。


「では、これからどうするつもりじゃ?明日で失礼すると言ったが、明日はまた違う家に泊めてもらうつもりなのかぇ?」

「いえ、住み込みで働かせてもらえる所でも探すつもりです。」

正直僕はまだその辺りは今から考えるつもりだったので、咄嗟に考えて出てきた言葉なので、言いながらできるのかなんて疑問を持っていた。

「ほんとにそんなことできると本気で思ってるのかい?見つからない場合はどうするつもりかね?」

ほんとこのおばあさんは鋭い。僕も確証がないので、何も言えなかった。

「今のご時勢、そんな所はないじゃろうて。さっきも言ったが、いて構わんのじゃよ。」

ここで居候することになれば、何かの小説やドラマやアニメにありそうな展開と似たような展開になりそうなものだが、

「それは・・・できません。」

「なぜじゃ?いいと言っておるのに。」

「僕は・・・。」

そこまで言って止めた。これ以上は言えない。このおばあさんになら全てを言ってしまいそうだが、それをすれば、ますます僕という存在を認知させてしまう。意識させてしまうと思った。

「いいんです。ご好意には感謝します。」

僕はそう言って回避することにした。僕の裏とも言うべき、その深層をさらしてはならない。誰にも。決して・・・。

「分かった。何度も聞いて済まなんだ。じゃが何かあればまたここへ来て構わんからな。」

「ありがとうございます。」

僕は深くお辞儀をした。おばあさんは笑顔で僕の顔を見てくれた。ここには今までにない世界が確かに存在する。これがきっと当たり前の日常になるべきはずであったのだろう。

「んじゃ、寝る部屋にでも案内しようかね。」

おばあさんが立ち上がる。僕も荷物を持っておばあさんに続いた。


案内された部屋は、一人部屋としては丁度いい間取りの部屋だった。6畳で押入れがあって、小さなテーブルが中央に置いてあった。僕はどこかの旅館に来た。そんな感覚だった。

「ここは誰も使ってないから、いつでもこの部屋を使っていいからね。」

暗に居候してもいいいよという含みを持たせながら、僕にそう言ってくれた。僕は言って頂いたその厚意に感謝した。

「ありがとうございます。」

「いいんじゃよ。命の恩人じゃからな。出来ることがあったら何でも言って下さいな。」

そう言い残しておばあさんは部屋から出て行く。僕はその背中を少し見つめていた。

「ありがとうございます。ほんとうに・・・。」

僕は閉められた襖ごしにそうつぶやいていた。そして、荷物の中から、着替えを取り出して、深月が風呂から上がってくるのをここで待つことにした。


家を出て一日目。どうして外の世界に出た途端にこんな希望が待っていたのか、僕は不思議でならなかった。上手く行き過ぎているとも感じたが、今は外の世界に出て本当に良かったと思える。後悔は全くなかった。でも僕という存在はやはり居ないほうが良いと反面思っていた。自分という存在が人に影響を与えるが、それがいいのか悪いのか自分ではよく分かっていないからだ。おばあさんを救えたことはいい影響と言える。しかし、ここに来たことで、何がしかの影響を与えてしまったはずだ。それが良い方向に転ぶのか悪い方向にシフトするのかはこれからとも言えるが、少なくとも僕の中では良い影響とは考えにくかった。だから僕はここを明日朝早くに出ることにする。いや、二人が寝たら早急に―――――。


「ともや~、上がったよ~。」

深月の声が聞こえたので僕は着替えを持って立ち上がり部屋を出た。そして少し家の中を探索しながら風呂に向かうことにした。僕がいた部屋から右手が家の奥になる。僕は奥に向かって歩く。長い廊下が続いていた。突き当たりまでとりあえず歩いてみる。その間に3つか4つほどの同じような部屋が並んでいた。昔本当に旅館でもしていたかのような雰囲気だ。突き当たると、T字路のように左右に廊下が分かれていた。僕は急いで風呂に入る必要もなかったので、適当に右へと曲がってみた。すると大きな扉が目に入った。その奥はさすがに行くのはマズイと思ったので、来た道を戻ろうと回れ右をしようとした。

「その先はね・・・。」

声が聞こえたので振り向くとそこに深月が立っていた。

「その先は仏間なの。おじいちゃんの。」

僕はもう一度扉を見る。どう見てもホールの入り口のような扉にしか見えなかった。

「ごめんなさい。風呂に行きますので。」

僕は深月がいるその先を目指して歩き出す。深月とすれ違うぐらいの距離になって、

「見たい?中。」

「えっ?」

「いいよ。気に・・・なるでしょ。」

と深月は言ってきた。気にならないと言えば嘘になるだろう。しかし、今日でこの家とも関わることはないから余計なものを自分の心に留めたくはないという思いと見るだけ見ておきたいという思いがせめぎ合う。

「また・・・の時でいいです。」

前者の思いに沿って僕は深月にそう返答して、風呂へと急いだ。しかし、彼女の顔が少し切なそうに見えたのは僕の気のせいだったのだろうか―――――


風呂も広かった。ほんと旅館の大浴場といった感じだ。お湯の流れる音が聞こえる。僕は体を洗うと大きな浴槽に浸かる。少し癒されていた。体の疲れが取れる。寝てしまうぐらい心地が良かった。しかし、そうしてもいられない。明日からのことを考えなくてはいけなかった。僕は寝静まってから家を出た後、どこに行こう。やはりここを離れるべきだと考えていた。電車はもちろんまだ動いていないし、電車が来るまではこの町に居なくてはならない。駅にいては深月のことだ、もしかしたらすぐに探しに出て真っ先に駅を探すかもしれない。それでは早くに出る意味がない。しかしこっちの土地に詳しくないので山などの舗装されてない道に入ってしまうと駅にはたどりつけない可能性が高くなる。今考えても答えは出ない。出てから考えることにしよう。僕はそれよりも行き先のことについて考えることにした。


「ともや。」

そんな時だった。深月が風呂の脱衣所に来ていた。声に昼間の明るさほどの明るい雰囲気がしなかった。

「今からあがりますから、部屋にでも行ってて下さい。」

僕はあがる旨を伝えて、急いで浴槽から出た。深月は分かったと言って脱衣所を去る。僕は風呂から出て、着替え、そして自分の部屋に戻った。そこには深月が茶菓子とお茶を用意して待っていた。

「用意、ありがとうございます。」

僕は部屋の真ん中にある小さなテーブルの前に座り、丁度深月と真正面で向き合う格好となった。

「で、何か用ですか?」

「少し話がしたくて。」

僕にとってはもう話すことなんかなかった。彼女とも今日でお別れと決めていたからだ。

「昼間話したのにですか。」

「うん。だってまだ智哉の具体的な理由聞いてないもの。」

やはり嘘だとバレていたのかと思い、観念しようかとも思ったが、ここで自分の決意を曲げるわけにもいかず、

「具体的といいますと?」

僕がそう尋ねると、

「そのね、一人旅しようと思った理由っていうか、きっかけをね、ちょっと知りたいなって思って。私一回も一人旅とかってしたことなくて。だから、興味あるんだ。」

深月は笑顔で僕にそう言ってきた。その真意は分からないが純粋に尋ねているのかなとも感じる。なので、当たり障りのない範囲で話すことにした。

「ちょっと学校とかで忙しくて疲れが出てたんです。だから気晴らしに。」

「学校大変なんだ。でも楽しそうだね。」

「そうですね。それなりには。」

この辺りは嘘をついておかないと。極力バレないように平静を装って、会話をするように心掛けた。

「で、明日のいつ帰るの?」

僕は少し考えを読まれているのかもしれないと思った。しかし、こんなことは聞かれて当然なので、深読みをする必要はないと思い、

「午前中には失礼するつもりです。」

とだけ答えた。あながち間違いではない。二人が寝る頃なら必然的に日はまたぐだろう。それを聞いて深月は、

「ふ~ん。」

と興味なさそうに聞きながら、茶菓子を食べる。僕はお茶を一気に飲みほすと、

「では僕は寝ますので。」

そう言って立ち上がると、深月は、

「ねぇ。」

と少しトーンを落とし気味で、

「ほんとのこと・・・話してくれないんだね。」

そう言ってお茶と茶菓子をお盆に乗せて、顔を俯き加減にしながら部屋を出て行った。僕はその出て行った部屋の入り口を少しばかり見つめていた。彼女は気づいていた。しかし、彼女に本当のことを告げることはやはりできない。それは僕に甘えを生んでしまうと思ったからだ。外の世界に出る時に甘えてはいけないということはずっと銘じていた。だから、周りにどんな思いをされてもそれだけは貫き通したいと思っていた。それも悪い影響になるのかもしれないと思いつつも・・・。


僕は布団の中にいた。布団に入ってから3時間。夜もそれなりに更けてきた。頃合いと思い、布団から静かに出た。荷物は準備できている。後はこの家から出て行くだけだ。ゆっくりと部屋の戸を開ける。真っ暗な廊下はやはり不気味で、いい思いがしない。ゆっくり、そっと歩くが軋む音だけはどうも隠せるものではなかった。しかし、人の気配はない。どうやら眠っているようである。僕はこの策でよかったと思い、玄関までたどり着く。玄関はなぜか明かりが点いていた。僕は消し忘れたのだろうと思い、そのまま玄関を出る。外は少し日中の暑さが残っていた。僕は門まで走る。急いでこの家を出よう。この家に迷惑をかけるわけにはいかない。僕の中ではそれが先行していた。焦燥に駆られていた。そして門を出る。これで二人に何も起こることはない。僕が悪影響を与えることもない。安心して、皆瀬川家から少しづつ離れて行こうとした時だった。

「おや?君はどなたかな?」

後ろから声を掛けられたので、僕は振り返った。そこには、一人の青年が立っていた。僕に対して笑顔を漏らしている。僕は今になって気付いた。玄関の明かり。あれは消し忘れではなく、まだ帰ってくるであろう誰かの為に点いていたものだったのだと。

「その・・・少しお世話になっていたんです。」

僕は、適当にそう答える。するとその青年は、

「ではなぜこんな夜更けに夜逃げのようにして家を出たんだい?何かわけありだね。」

おばあさんもそうだが、なぜかこの家の住人はやたらと勘が鋭い。いや、人間をよく見ていると言ったほうが正しいのだろう。

「僕がいると・・・迷惑がかかるので・・・。」

僕は少し本音を漏らしていた。すると青年は笑顔のままで、

「そうやって逃げるのかい?現実の自分から。」


―――逃げる。


僕が逃げている――――


現実から――――


でも逃げなければ、現実をそのまま受け入れていれば、僕は――――


「はは、ごめん、ごめん。そんなこと人に言われなくても分かってるよね。悪かったね。引き止めてしまった。」

青年は笑顔を僕に惜しげもなく振りまいてくる。僕も少し笑う。人から見れば苦笑いに等しかったかもしれないが。

「では失礼するよ。」

青年が丁寧にお辞儀して、門に向かい取っ手に手をかけた時だった。

「おにいちゃん!!」

深月が門の前まで、走ってやってくる。そして門が開くとすぐおにいちゃんと呼んだ青年に抱きついた。

「元気にしていたかい?深月。」

「うん。おにいちゃんも元気だった?」

「そうだね。病気はしなかったからね。元気だったんだろうね。」

そんな会話の後、深月が静かにその場を去ろうとしていた僕に気付いてしまった。

「あっ!!夜逃げだ!!」

「えっ・・・。」

深月は僕に向かって走ってやってくる。僕は走ろうとも思ったが、なぜか足が動かなかった。深月は、僕にすぐ追いつくと、

「捕まえた!!もう逃げられないよ。」

なんて軽いノリで僕の腕をつかんだ。僕は降参した。

「分かりました。戻ります。」

そのやりとりを見ていた深月の兄は、深月と共に近づいてくる僕に対して、

「君の名前は何と言うんだい?」

と尋ねてきた。しかし、僕が答えるよりも先に、

「智哉って言うんだ。」

なんて横の深月が言った。深月の兄は、

「では智哉君を少し借りようかな。」

と深月に言ってきた。

「いいよっ。」

なんて深月も軽く返事。いつの間にか僕は彼らの所有物になっていた。正確には深月のであるが・・・。



僕は深月の兄の案内で皆瀬川家よりもさらに道を上がったところにある少し開けた場所に来た。日中見ていた所よりもさらに高い場所なので晴れた日にはいい眺めなのだろうと僕は思っていた。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は、皆瀬川陽介。智哉君が深月と同じ年なら2つ上になるのかな。よろしく。」

彼は僕に握手を求めてくる。僕はとりあえず握手をしておく。その手は冷たく、しかし、柔らかみのある手だった。

「で、僕が君をここに呼んだのはね。先ほどの話の続きをしようかなと思ってね。」


先ほどの話―――――


そう――――


僕は逃げている―――――


何から?


僕の中では答えが出ない。


「どうやら言ってる意味を分かりかねているようだね?」

彼は僕に近づくと、僕の前に立ち、そして・・・。


衝撃――


僕はその瞬間何をされたのか全く分からなかった。ただ、頬に若干の痛みとそれによって、地に倒れている自分に気付いた。僕は今、彼に殴られた・・・。

「こんな時、君ならどうするかな?」

彼はそう言って、僕の出方を見ているようだった。僕は立ち上がりはするが、何もする気にはならない。それに彼に殴られた理由、思い当たるふしはそれなりにあった。勝手にお邪魔した。彼に対して素っ気ない態度を取ったなど、挙げればいくつか思い浮かぶ。

「反撃しない。そう、君は偽善だ。」

「ぎ、ぜん・・・?」

「そう、君の考え、行動は偽善そのものだね。君があんな時間に家を出なければならない理由。それは、周りに悪影響を与えてしまうから、自分なんて消えてしまえばいい。そう考えているんじゃないかな。」

この兄妹は何なんだ。人の心が読めてしまうのか。しかも、兄の方がより深層を見透かすことができるようだ。

「・・・・」

「黙っているということはどうやら図星のようだね。人は影響を与えるものだ。存在している。それだけで大きな影響を人に与える。それは当たり前のことで、何も悲観的に・・・。」

そこまで言って、彼は何かを悟ったように少し驚きの表情で僕を見つめてきた。

「君は、まさかその存在を消そうとまで考えていたのか。この家を、いや、君の実家を出る時にすでに・・・。」

僕は彼には全てお見通しなのだと分かり、

「その通りです。僕は、生きていても同じ、ぬけ殻そのものです。存在そのものが否定される人生でした。いてもいなくても、その存在に気付いてさえもくれない。そして、気付いてもらう必要もないことを自分で悟りました。ですから、その存在を消してしまおうと、あの世界を出るまではずっと考えてました。でも、少し変わりました。外の世界、今まで見たことのない世界に出た瞬間に僕の中で、大きな安堵と解放を感じることができたんです。ですから今は自分の存在を否定しようとは思っていません。今は、ただ存在を否定してくる世界に居たくないという程度にまでなれたと思ってます。」

僕は、彼に思いのたけを少しずつ打ち明けていく。彼はそれを黙って聞いていた。そして、僕が一通り話し終わると、

「では、最初に僕が言ったことは謝罪しなくてはいけないね。僕は君がそこまで楽になっていたことを知らずに逃げだと批判してしまった。」

「いえ。実際に逃げているんですから言われても当然です。」

僕はその時、彼が逃げていると言った意味が自然と分かっていた。


そう・・・。


僕は逃げていた・・・。


今の現状に、そして何より自分自身の本当の思いから―――


本当は僕は―――


僕は――――――


「それじゃ、その逃げに立ち向かってみるかい?」

彼は僕にそう言うと、僕に向かって頬を差し出してきた。

「自分を責めるだけじゃいけない。ちゃんと立ち向かわないといけない時もあるんだ。君は殴られた。だからやることは分かってるよね。」

僕はすごんでしまったが、彼のその気持ちに応えなくてはと思い、自分の手を拳に変えて、


―――立ち向かうことを誓う


その一撃を――――



「お兄ちゃんおか・・・ってどうしたの!?血が出てるよ!!」

深月は帰ってきた最愛の兄の顔を見て、驚きの声を上げていた。陽介の口が少し切れ、そこから血が出ていた。深月は兄にそのような顔にさせたであろう人物の顔を怒りの表情で睨みつけていた。すなわち僕だ。

「いいんだ。これは男同士の友情というものだから。智哉を責めないでくれ。」

いつの間にか陽介は僕のことを名前で呼んでいた。それは友情の証の表れと言ってもいいのだろう。

「でも、でも・・・。」

深月は相当心配しているようだった。

「すみません。あなたの大切なお兄さんを・・・。」

僕は深月に謝る。

「智哉だから・・・。」

「・・・え?」

僕が聞き返すと、深月は少し怒鳴り気味に、

「智哉だから許すんだからね。」

そう言って、先に家に上がった陽介の後を追って家の中に入っていく。そのやりとりを僕の横で見ていたおばあさんは、

「智哉さんには甘いんじゃなぁ~深月は。」

なんてことを言っていた。

「そうですか?いつもあれぐらい元気なのではないんですか?」

「いいや、あの娘があんな笑顔で家に帰ってきたのは久方ぶりじゃからのぅ。」

「そうなんですか。」

「それにしても、智哉さん明るくなったのぅ。先ほどまでは真っ暗な洞窟をさまよっているような顔をしておったのに。」

おばあさんが僕の心境の変化に気付いて、そんな話をしてくる。

「いえ・・・まだこれからですから。少し前を向いてみよう、そう思えただけです。」

「それが大きなことじゃよ。何事もこれからじゃ。若いうちから重く考えるでないぞ。」

おばあさんのその忠告が僕には心の深いところで響き渡ったように感じた。

「はい。ありがとうございます。」

僕はおばあさんにお辞儀してお礼を言った。

「いい顔に少しづつなってきたのぅ。」


少し前向きになれたのかなとも自分で思えるぐらい心が狭苦しさから出ようとしていることを感じていた。しかし、僕の心の荒廃と繋がれた鎖はそう簡単に壊れることはないだろう。今までの15年間の人生全ての重みと淀みはそう簡単には綺麗にはならないだろう。でも僕は少しそれを解いていこうと、綺麗にしようと思えるようになった。


偽善と逃避。


そう、僕はそれに気付けただけでも外の世界に出たことの収穫としては充分すぎるぐらいだった。


「それで、これからどうするつもりじゃ?」

おばあさんがこの質問をするのは二度目。僕は、おばあさんには包み隠さず、本心を吐露しておこうと思った。

「家に帰ります・・・と言いたいところですが、僕は家には帰りたくないです・・・。ですからしばらくの間ここに住まわせて頂けませんか?」

今の現状を考えれば、おばあさんの言ったことは正論で、僕一人でどうにも出来ないことは明白だった。それに今は存在を消そうなどと悲観的には思わなくなっている。だから何とかして生きていこう。どの道影響を与えるならいい影響を与えていこうと思うようになってきていた。どれぐらいこの気持ちが持続するかは分からないが、そうなっている内は精一杯もがいておきたい。


もうあんな世界に身を沈めたくない・・・。


「まぁ細かい話は朝になってからじゃな。とりあえずまだ深夜じゃから、寝なさい。」

「はい・・・。」

僕は家に入る。おばあさんに言われた通り、そのまま寝ることにした。僕が使わせてもらっていた部屋に戻るとバッグを置いてそのまま布団に入る。布団に入ると体が休みを欲しているのかすぐに夢の世界へと落ちていった―――



「ちょっと邪魔。どいてくれない?」

ここは・・・。

「どうして?お母さんが遊んでいいって・・・。」

「気が変わったの。だからどいて。あとお母さんなんて呼ばないでくれる。」

母と子どもの会話。母は5つになろうというぐらいの子どもに対して冷めた口調で突き放す。

そこに愛情は存在しない・・・。

「それと、今から人がくるから、1時間ほど外に出てくれる?」

外は大雨・・・。どう考えても外へ出るようなときではなかった。だから子どもは中で遊んでいたのに・・・。でも、そんなことは言えなかった。言えばご飯をくれないことを子どもは知っていたからだ。

「早くしてくれない?」

子どもは渋々外へ出る。ドアを開けて出るとそこに男がやって来た。

「どけ!!」

子どもは蹴られた。そのまま、廊下で泣き叫ぶ。すると母が出てきて、

「うるさいわね。泣くとご飯抜くわよ。」

脅し・・・。子どもは痛みに耐えて泣き止む・・・。

「それでいいのよ。じゃぁうろうろしてきてね。」

そうやってドアを閉めようとする。子どもは必死にそのドアに向かうが、無情にも何の躊躇もなくすんなりとドアを閉められた。子どもはドアを叩きながら泣き叫ぶ。それは立ち向かっても越えられないものだった。どれだけ主張しても変わらない世界だった。


僕は、逃げるしかなかったのじゃないか・・・。


陽介は逃げだと批判したことを謝罪してくれた。しかし、僕は逃げていたことをその場で認めた。けれどもあの世界からは逃げることしかできなかったのではないか・・・。


陽介の言ったことも僕が行ったことも正しかったのだろう。


僕にはそこから先の考察はできない。今はその解放が僕という存在を生きながらえさせているのだから。だから僕は今のこの状況が良かったのだと認めるしかなかった――――



僕は静かに目を覚ました。外は明るい。視覚が朝であることを認知する。そして僕は頬が濡れていることに気付いた。


泣いていた――――


僕は頬と目の水をぬぐい脳を覚醒させようと起き上がる。そして―――


「おっはよ~!!」

大声で一瞬にして脳が覚醒した。僕は驚いて、声のする方から後ずさる。

「起きた?」

そこには笑顔があった。眩しすぎるぐらいの笑顔が。

「・・・起こし方を考えて下さい。」

「あっ、驚いちゃったか・・・ごめん。」

深月は自分の行った行為を謝った。

「でも、ありがとうございました。おかげで完全に目が覚めました。」

「でしょでしょ。だから明日からもこのやり方で起こしていいかな?」

「・・・それは勘弁して下さい。」

そう言ってから気付いたが、僕は深月が起こしに来ることを軽く容認してしまっていた。まぁ拒否してもしてくることは明らかだから放置しよう。僕はそう思って布団から出ると、顔を洗いに洗面所に向かう。深月には僕の後に続いて洗面所までついてくる。

「あの・・・。どこまでついてくる気ですか?」

「どこ行くのかなって思って。」

「どこでもいいでしょ。それに、部屋に勝手に入らないで下さい。」

「私の家なんだからどこの部屋に入ってもいいでしょ。」

「あのですね・・・。一応僕にもプライバシーってものがあるんですから。」

「え~。それじゃぁ起こせない。」

「そうですね。」

素っ気なく言って洗面所へ向かう。深月はその場に留まっていたが、すぐ洗面所に入ってくる。

「あ・あのね・・・。」

深月が僕に話しかけてくる。僕は顔を洗ってタオルで顔を吹きながら、

「何ですか?」

少し不機嫌そうな顔をして応えた。

「昨日言ってた仏間、見る?」

深月はやはり少しトーンを落として僕に言ってくる。その表情の変化が少し気になった。寂しさが少し感じられる表情だった。僕は彼女のその表情の原因を知りたかった。

「はい。」


僕と深月はあの仏間の入り口に来ていた。来る度になぜか重苦しい雰囲気を感じるのはなぜなのだろう。

「開けるよ。」

深月はその扉の取っ手をつかんでゆっくりと引いた――――


そこに広がる光景は荘重な拝殿のようだった。

少なくとも50人は入ろうかというぐらいのスペース。その奥には大きな仏壇がそびえ立っていた。

「これは・・・。」

「うちのおじい様の仏壇。」

深月のトーンは依然として低く重い。そしておじい様という表現に僕はいささかの疑問を持った。しかしそれを指摘できないほどこの仏間は圧巻であった。この部屋の空気に押しつぶされそうなぐらいだった。

「なんでこんなに大きいんですか?」

「おじい様は大企業の創設者だったから。それとおじい様の遺言なの。仏壇は大きいのが欲しかったみたいで。」

お墓が大きいのがいいというのは聞いたことがあったが、仏壇が大きいほうがいいという話はあまり聞いたことがなかったので僕にはその驚きがさらに増している。大企業の創設者・・・。それを思わせる屋敷とこの仏壇。僕はなんという世界に迷いこんだのかと思った。そして僕の横にいる少女。彼女はその令嬢ということになるのだろうか。


「ということはあなたは・・・。」

「あなたって他人行儀過ぎる。深月って呼んでって言ったでしょ。」

深月は少し頬をふくらませながら、僕にそう言ってくる。

「み・深月は・・・。その・・・。ご令嬢みたいな立ち位置にあたるんですよね?」

そう僕が聞くと彼女の表情はすごく暗いものになっていく。

「あ・あの・・・。」

僕がどうしたらと思いながら深月を見ていると、

「そんなんじゃ・・・ないよ・・・。」

深月は暗い表情で小さくそう言った。そこに込めた思いは僕には分からないが、いいものではなかった。僕はそれ以上は聞くことができなかった。

「それより朝ごはん食べよ。ほら、行くよ。」

深月の顔はいつもの笑顔に戻っていた――


「いただきます。」

朝食。僕はこれも新鮮だった。今までは朝食を食べることなんてほとんどなかったからだ。そんなものは家のはなかった。存在しなかった。メニューはこれも純和風の白ごはんに味噌汁、焼き魚、これは鮭だろう。

「ん?どうしたの?」

深月が過去の記憶を思い返していた僕の顔を覗き込んでくる。

「い・いえ・・・。い・いただきます。」

さすがに初めての経験とは言えず、黙って頂くことにした。

「深月は智哉のことになると何でも気になるんだね。」

僕の右隣りに座っている陽介が深月に嬉しそうに言った。おばあさんもそれを見て嬉しそうに微笑む。

「そ・そんなことないって。」

少し頬を赤くしながら深月は朝ごはんへと向かった。

「それで、今日は学校なんだが、智哉君も行くかい?」

陽介が話題を深月から僕に移す。そしてその内容は学校に行くかという話だった。しかし、家出してきた身。何も手続きとか出来ていないし、それに学校には・・・正直行こうとは思えなかった。

「まぁ、無理にとは言わないが、こうして家に居続けるだけってのもどうかとは思ったんだけどね。」

彼は僕の過去の片鱗に触れ、それで僕の状況をある程度理解しているようだった。鋭い勘の持ち主であるが故なのだろう。

「ってことはここに居ることになったんだ?」

深月はそう陽介に投げかける。その返答は僕がきっちりと

「少しの間だけお世話になることにしました。よろしくお願いします。」

と言って3人にお辞儀した。すると案の定というか

「ほんとに!!やったー!!」

と大喜びの声が僕の左隣りから聞こえて来た。

「まぁ先のことは未定のようだからその間だけでも学校にと思ってるんだが、今日はいくらなんでも急だろうから、明日にでも一度言ってみるかい?」

陽介はそう僕に促してきた。しかし、僕はそれには返答しかねる。

「・・・・。」

「ま・まぁ、今日一日でゆっくり考えてくれ。無理にとは言わないから。」

陽介はそう言ってはしを茶碗の上に置いた。

「では、晴枝さん。行ってきますね。」

「はいはい。いってらっしゃい。陽介さん。」

何事もないような会話。しかし僕には非常に違和感を感じていた。

「んじゃばぁちゃん。私も行ってくるね~。」

「気を付けて行っておいで。」

深月も陽介の後に続いて学校へと向かうために玄関へと走る。

「待って~お兄ちゃん。」

なんて言いながら。


二人が出て行った後、しばしの沈黙が食卓を支配した。僕もおばあさんも黙々と食事をしていた。僕は味を噛みしめたくて食べることに集中していた。

「何か感じたじゃろう?」

その沈黙を破ったのはおばあさんの方だった。僕ははしを置いて、まっすぐおばあさんを見る。

「はい。色々と感じました。」

「その話をする前に智哉さんの話でもしてもらおうかね。結局、具体的な理由を聞いておらなんだからのぅ。」

「そういえばそうですね・・・。」

僕はまだ少し話してしまうことに戸惑いを感じていた。陽介に立ち向かうとは誓ったものの、やはりそこまで言ってしまっていいものかという葛藤が心の中である。

「言いにくいことなのは充分承知しておる。これから話す話も言っていいものやら迷っておる。」

おばあさんも迷っているが話すことにおおむね覚悟を決めているようだ。やはり僕もその覚悟に応えるべきだと思った。

「分かりました。お話します。僕は、生まれてから孤独でした。」

「孤独とはどういうことじゃ?お母さんもお父さんもおるんじゃろう?」

「父は、僕が生まれてすぐに母と離婚しました。母は次から次へと男を家に連れ込んでいたので、かなり虐待に近いことを受けていたこともありました。今まで生きてこれたのが奇跡なぐらいです。物心ついた頃から母は何もしなくなりました。育児放棄ってやつです。僕は自分でするようになりました。誰にも教えてもらえない、学校もあてになりませんでした。母は外面はかなり良かったんです。だから先生に気付かれることなくあの生活を続けてきた。学校に行けば同級生からの執拗ないじめ。その時は逃げるなんて考えられませんでした。それが当たり前になってしまっていたから。でもあの事故でおばあさんを無意識に助けようと思って動けたことが僕の今までの考えを変えました。僕も生きていていいんだと・・・。それが家出の理由です。というか僕の今までの人生の要約ですね。」

それを全部いい終わると俯きがちに話していた僕はおばあさんの方を見る。するとおばあさんは僕を抱きしめてくれた。泣いていることは頭に感じる湿り気で分かった。

「あ・あの・・・。」

「つらかったじゃろう。苦しかったじゃろう。よう耐えてきた。立派な子じゃ。ほんに立派な子じゃ。優しい子じゃな。」

そう言いながら僕の頭を撫でてくれた。僕は始めての感覚にすごく安堵していた。これがぬくもりなのだと人の温かい心なんだと思うと、自然と涙が溢れてきていた。止まらなかった。しばらく二人で流し続けていた。


泣き止んでしばらくして、おばあさんは、

「それで、智哉さんは何を感じなさったのじゃ?」

と僕に尋ねてくる。僕は感じたまま言っていいのか躊躇したが、

「あの・・・。どうして、深月の場合は深月で陽介はさん付けなんですか?」

正直に自分が感じたままを話した。するとおばあさんは、

「智哉さんも鋭い方ですのぅ・・・。」

おばあさんはやはり言うかどうか少し戸惑っている感じだった。

「無理に言って頂かなくてもいいんですよ。人の家のことですし、干渉するのはやはりまずいと思いますから・・・。」

「深月の笑顔・・・。」

おばあさんは唐突にそう言った。そこで僕は昨日の夜おばあさんが言っていたことを思い出す。

「そういえばこの前言ってましたね。笑顔で帰ってきたのが久しぶりとか・・・。」

「そうなんじゃ。あんな笑顔を見るのはほんに久方ぶりでな。じゃから智哉さんには話してもいいと思ったんじゃ。」

おばあさんは少し、間をあけて話し始めた。

「あの娘は、親に必要とされてない娘なんじゃよ。」

「え?」

それって、僕と同じってことなのか?どういうことなのかさっぱり分からなかった。

「それだけでは分かりにくいじゃろうな。実はのぅ・・・。」



そして、おばあさんは話し始める。



そう、それは始まりの朝――――――



全ての始まりの朝―――――


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