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ゴミ箱

404号室の手記(修正前)

作者: あきら

「無差別連続殺傷事件。」

テレビで流れている言葉を思わず口にした。最近ではよく耳にする事件だ。最初に起きた時ほどのインパクトはない。ただ、今の自分には、とても印象的な言葉だ。

先月、3年間勤めた会社を辞めた。これと言った理由はない。強いて言えば疲れたからだ。毎日の残業、希薄な人間関係、変わらない日々。見えない将来に絶望することにも疲れた。だから辞めた。

 田舎から東京へ上京して、3年。自分なりに頑張ったつもりだった。その結果は少しだけの貯金。それ以外には何も残っていない。都会の雰囲気にも馴染めず、彼女どころか友人すらいない。会社では必要以上のコミュニケーションは無く、職場が変更になると全てが0になった。新しくアサインされた業務で1から人間関係を気付く気力は残されてなかった。そう、辞めるしかなかったのだ。それ以外の選択肢は自分には見えなかった。

 死にたい。働き始めてからはそう思い続けてきた。でも、死ぬのが怖かった。死んだことを批難されるのが怖かった。

 テレビは未だ無差別連続殺傷事件のことを伝えていた。事件の概要、負傷者の様態に続き、どこぞの大学教授が偉そうに犯人の心理を解説している。床に転がった。天井を見つめる。空虚だ。このまま生きていても希望はない。

子供の虐待死、老人の孤独死。ニュースから流れる言葉が耳に入る。この世は壊れている。死のう。そう思った。しかし、死ぬ前に、この壊れた世界に復讐したかった。この壊れた世界の勝者に。

 アパートから出て20分歩いた。多摩川の土手から辺りを見渡す。ジョギングをしている老若男女、ゴルフの練習をしているオヤジども、そこから少し外れて川辺にボロボロのテントで生活をしている集団が見える。川の近くまで行くと、むせかえる様な臭いがする。

川沿いに歩いてく。自転車が捨てられている。

タイヤから伸びる金属は錆びている。金属を何度か曲げてみる。折れた。

 昔、見た漫画で怪物を産業廃棄物の中に捨ててあった棒で倒したのが印象的だった。この歪んだ世界の勝者を殺すには、ゴミで十分だ。折れた錆びた棒を袖の中に隠す。一本だけ。

 殺す相手は決めてあった。辞めた会社の副社長。会長の息子だ。この歪んだ世界の勝者。会長の息子というだけで、生まれながらの勝者だ。話したこともない。しかし、この世界が歪んでいる事を世間に知らしめるには丁度いい。

 次の日、会社の近くの駅へ出かけた。3年も使い続けた駅だ。袖には錆びた棒を隠してある。会社の裏口から一つ道を曲がった所で待った。副社長は昼になると食事へ出かける。待った。12時を5分過ぎた。年輩の男たちと一緒に40代の男が出てきた。副社長だ。後を付ける。一つ目の角を曲がった。他には誰もいない。副社長。役員と思われる爺さんが二人。殺せる。そして、逃げられる。

 後ろから近づく。袖に入れた錆びた棒を確認する。3メートル。錆びた棒を握る。振りかぶって思いっきり首元に刺せばやれる。2メートル棒を握る手に力を込めた。1メートル。立ち止った。副社長はそのまま歩いて行く。こちらに気付いた気配はない。棒を握っていた手を拭く。汗で濡れていた。息は上がっている。これでは逃げることができない。いや、逃げる必要はないのだ。副社長を殺したら、死ぬつもりだったのだから。今日の所はあきらめ帰ることにした。殺せる。いつでも、殺せる。そう自分に言い聞かせていた。

重い足取りで、アパートに帰る。弟から結婚の知らせが届いていた。涙と笑いが込み上げてくる。

錆びた棒を握りしめた。両手でしっかりと持つ。腹。熱い。鮮血。

床に転がる。内臓まで届いているだろうか。しかし、傷は浅いのだろう。笑いが込み上げてくる。最期の最後まで思い切りが悪い。天井が見える。寝ているせいか高い。こんなにも高かっただろうか。手を伸ばす。何もない。何もなかった。そう、最後まで何もつかめはしなかった。ただ、天井だけが見える。まっ白い天井だけが。


日本では年間3万人以上の人が自殺するそうです。1日で約83人。

なんか間違ってます。そんな思いを書いてみました。

社会に不満を持ちつつも変える力もなく絶望して死んでいく。そんな若者も多いのではないでしょうか?この作品の主人公が本当に死んだかどうかはわかりませんが・・・

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