3-2 「運命」
気がつけば数時間がたっていた。その間、シャディはそっとゆっくりと包んでくれていた。その彼女の優しさは心地よかったと思う。
「シャディ、ごめん……。僕が弱いから……リアも守れなかった」
「ツヴァイさん。まだ言っているんですか……」
「だから、僕は強くなりたい。シャディ達を守れるように……」
「ツヴァイさん……」
僕は魔王だけど、非力だ……。誰かを守れるだけの力なんてない……。せめて……、シャディとリメリアを守れる力がほしい。
僕は……、もう二度と……。君のような人を出さないために……。ねぇ、リア、僕はそうするべきだよね?
「シャディ……、心配かけてごめんね」
「私こそ……、ツヴァイさんの為に何もできなくて……」
「ううん、シャディありがとう」
そうだ、僕は魔王の力を封じて自分が助かる方法を探さなければいけない。そして、みんなが傷つかなくて済む方法を見つけたい。
「シャディ、ちょっと出かけてくる」
「わかりました。でも、自暴自棄はだめですよ?」
「うん、わかってる」
支度を整え、宿を後にした。
◇
「着いた……」
宿をでて間もなく辿り着いた場所――
数日前まで訪れていた大豪邸のお屋敷。僕がリアに会うために通い詰めていた屋敷だ。
屋敷内に入る事に気が引けてなかなか踏み出せない。
それは当然だ。僕が言わば彼女を殺した張本人。そんな人間がのこのこと屋敷へ入るなんて……
「でも……、これはけじめだから……」
そう自分に言い聞かせた。屋敷の人達に真実を伝えるのが義務のような気がした。
「おぉ、これはこれはツヴァイ様ではありませんか!!」
背後から声をかけられ、びくっとのけぞった。そして振り返ると屋敷の執事のおじさんがたっていた。
「こんなところで、どうされましたか?」
「いえ、その……」
なんて言えばいいのだろうか……。まさか、僕がリアさんを殺しましたなんて言えるわけがないし……
言葉に詰まって、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。
「ありがとうございました」
「えっ――――?」
「お嬢様の為にがんばってくれていたようで――」
「あっ……」
そうだった。僕は毎日遊びに来て……、でも僕は――
「お辛いことをさせてしまって申し訳ございませんでした」
執事は深々と頭を下げてきた。そんな態度に僕は戸惑った。
「別に僕は――」
「お嬢様を楽にしてくいただけたので……。あなたにとってはお辛い事だったでしょうが……」
「知っていたんですか……?」
「いえ、詳しくは知りませんでした。ただ、きっとあなたのおかげだと思っていました。お嬢様もそう申されていましたから」
「リアが……?」
「えぇ、病気に苦しみながらも私どもに話してくれていました」
『きっと……、ツヴァイさんが……。私をこの苦しみから救ってくれると思うの。私はたぶん助からない。みんな……、今まで迷惑をかけてごめんね……。もしそうなったらみんな手を貸してあげて、私の迷惑のせいで苦しんでしまうと思うから……』
そう執事から聞かされた。つまり……、彼女はこうなることを予知していたのだ。
「ツヴァイ様。リア様からあなたに渡したいものがある――っと仰せつかっております」
そう言われ、屋敷へと案内された。僕はただ黙ってそれに従いついて行く。
そして、通された部屋。そこは――――数日前まで通っていたリアの部屋だった。執事案内され、部屋の中へと入る。数日前から変わっていない部屋。変わっていることがあるとすれば……
「リア…………」
そこにリアの姿がない事。
執事はベッドの下にある木箱をとり出した。
「これは……?」
「開けてみてください」
そう執事に言われ、箱を開けて中を見た。
中にはアクセサリや食器。おそらくリアが大切にしていたものだろうか? そして、一枚の封筒。
「それはお嬢様からツヴァイ様に宛てられた手紙です。開けてみてください」
封を開け、手紙を手に取った。
『ツヴァイさん、お元気ですか? ――って元気なわけないですよね……、ごめんなさい。
えーっと、ベタかもしれませんが、手紙を残しておきました。この手紙を見ていると言う事は、私はき
っとこの世に居ないと思います。どうせ、死ぬならツヴァイさんに看取られていたらいいなぁなんて』
「…………」
手紙の内容は――僕に残したメッセージ。遺書だった。手紙を読む事に折れそうになった。でも、これは読まなければいけない……。彼女の事を思うなら――
『もし、私のせいで辛い思いをさせてしまったのならごめんね。でも、私はこの数日間ツヴァイさんと
話せて楽しかったです。私はね、現実の世界でも一人ぼっちだったんだ。ツヴァイさんみたいに話せる
友達もいなくて、親もちっちゃい頃に亡くなっちゃっているから本当に辛かった。ずっと死にたいって
思って過ごしていました。この世界にきてびっくりはしたけど、私の周りにお世話をしてくれる人がい
てね、こんな病気でいつ死ぬかわからなかったけど、不思議と現実よりは楽しかった。私はもう死ぬこ
とに後悔はありませんでした。でも、最近はちょっと揺らいじゃっています。そう思わせてくれたツヴ
ァイさんには本当に感謝してるよ。ありがとう。きっとツヴァイさんが魔王になった事は意味のある事
だと思ってるから、悲観しないでね? っと話が長くなっちゃいました。最後に頼みがあります。私の
身につけていたおまもりとこの家の家宝である剣をツヴァイさんに使ってほしいと思います。私がこの
世界で生きていた明かしとして――』
手紙はそこで終わっていた。再び罪悪感が心を大きく刺す。もし……、彼女を救えていたのなら……。きっと違う道が見つかっていたはず。
おもむろに封筒の中に入っている指輪――
それを強く握りしめた。
「ツヴァイ様。リア様からこれを――」
執事が手に握るのは立派な装飾がされた剣。剣には一つの宝石がはめられており、吸い込まれそうなほどの美しさ。
「この剣は我が家の家宝です。そして、リア様の魂そのものがこもっています」
「魂そのもの?」
「先日、リア様がお亡くなりになってからの事です。この剣の宝石は以前、真っ黒にくすんだだけのものだったのですが、燃え盛るように輝きはじめました。私はきっとリア様の魂が宿ったのだと思っています。そして、この剣はあなた以外に持つに値する人間はいるとは思えません。お嬢様の意志もあります。受け取ってください」
そう言って執事は剣をゆっくりと差し出す。
『私がこの世界を生きていた明かしとして――』
「リア……」
彼女は苦しんでいた。そして、このゲームをやり、生きる楽しさを覚えた。でも……、この世界で死ぬために生まれた存在。このゲームは残酷だ……
無言で剣を執事から受け取った。そして――
僕は……魔王だ。
この世界を――、この世界の仕組みを壊してやる!!
剣を眺めた。その宝石はリアの瞳のように――
リア、僕は行くよ。
魔王剣リア――――――一緒に行こう。