2-4 「奇跡の砂」
壮絶な力のぶつかり合い。それは辺りを巻き込み、周辺をさら地へと変貌させていた。
何とか生きている……?
2発の発動。ほとんど力は残っていなかった。気を抜けば意識を失うほどの消耗。
リアは……?
彼女は――――無事だ。
彼女の元へとゆっくり歩み寄り、彼女を抱えた。
彼女はゆっくりと目を開ける。
「ツヴァイ……さん?」
「よかった……。意識が戻ったんだね」
奇跡の砂が効いたのだろうか? 彼女の意識は戻り、いつものリアだった。
「うっ……、ごめんなさい……」
「リア、大丈夫? すぐに手当てを――」
リアは僕の手をそっと握り――
「来てくれたんだね。本当にありがとう」
「それは気にしなくていい。運ぶよ?」
あの医術師さんならなんとか――
「ツヴァイさん……」
「うん?」
「私のお願い……、聞いてもらえますか?」
「お願いって?」
「私を……」
「殺してください」
予想すらしていなかった言葉。それを聞き、思考が停止する。なんで……
「なんでそんな事を――」
「私は……、もう助からない」
「僕は……、リアを助けるよ……」
「ありがとう。でも分かるんです……。だって――、私はそのために存在するキャラだから……」
彼女はにっこりと笑っていた。それが逆に痛々しく感じ、胸が痛む。
「それに……、私の意識が魔物になっちゃったら……、現実でもきっと――」
「そんな……、だって奇跡の砂で――」
「無理ですよ。私は……、ただの病気じゃないから……」
そんな……、じゃあ、僕のやった事っていったい……
「もうはじまっちゃったみたい……」
彼女の周りにたくさんの文字が浮かび上がりリングのように彼女を囲んでいた。そして、そのリングの数は徐々に数を増し――
「こ、これって……」
リングが彼女の周りを周る度、リアは悲痛な叫びを上げていた。
「リ、リア!?」
「あ、ああ……。バ……グ、修正です……。以前にも……、ありましたから……」
バグ修正――これが彼女の天命とでも言うのだろうか……
「そんなことって……」
「だから……、わた……し……の意識があるうちに……」
「そんなの無理だよ……」
「お願……い……。私が魔獣化し……たら……、人を……傷つけ……たく……ない……」
「リア……」
リアの手は再び魔獣のようにまがまがしい獣のものへと形状を変え――
「人のままで……死なせて……」
すでに自我を保つのが限界だった。リアの手は首へと伸び、首を――
「ぐっ……、リアやめて……」
「もう……、自我を保てない……。せめて……ツヴァイさんの手で……」
「リア……、ごめんね」
腰の剣をとり出し――――、彼女に突き立てた。
彼女手は離れ、そのまま崩れ落ちた。そんな彼女をそっと抱える。
「ごめん……。ごめんなさい」
「ツヴァイさん……。ありがとう。泣かないで……」
「助けるって言ったのに僕は……」
彼女を助けるどころか、この手で傷つけてしまった……
「ううん。いいの……。辛い事頼んでごめんね……」
彼女はにっこりと笑っていた。そして、ゆっくりと目を閉じていく。
彼女は最後に僕にこう言った。
私――――、ツヴァイ……さんの事…………好き……でした。
うまれ……かわった……ら……次こそ……は―――
最後に……出会え……て……よかった。ありが……と……う。
かすれた声だったけど、僕は彼女の言葉がはっきりと聞こえた。
彼女は必至であらがおうとしていた。だからこそ、最後まで頑張り続けていた。僕が彼女を殺した――
彼女は僕が助けるのを待っていた。なのに僕は――
僕は人も救えない……
「愚かだな。救うと言っておいてこのざまか」
後ろから聞こえる男の声。そこにはさっきシャディとリメリアが足止めしたはずのディーがいた。
「二人は……?」
もう声すらかろうじて出せるほどに無気力だった。
「安心しろ。軽くあしらってきただけだ。時期にこちらへ向かってくるだろう」
「そう……」
「ひとつ教えておいてやろう。貴様が彼女を殺した」
そんな事は分かっている……。僕がこの手で……
「知っているか? 彼女はプレイヤーでありながら、時制イベントのキャラだったんだ?」
「時制……?」
「あぁ、貴様がそのイベントのフラグを立てた。まぁ、俺にはどんなフラグかは分からんがな」
ひょっとして……、僕がフラグを踏んだから……?
「気づいたようだな。そうだ。貴様が殺したんだ。貴様が踏まなければ彼女は死なずにすんだかもしれない。分かるか? 低俗な奴は安易に行動を起こす。それがこの結果だ」
「さぞ不幸だっただろうな。こんなところで閉じ込められて」
「やめろ……」
「こんな小汚い盗人にフラグを立てられてこの無様な死に方だ。この女にとって最低の人生だと思わないか?」
「だまれ……」
「まぁ、所詮。この女も同じクズの仲間ってことか」
「だまれぇえええええええええええええええ――――っ!」
胸に込み上げた怒り、気がつくと地面を蹴りディーに斬りかかっていた。
しかし、それも長く続かず――
ディーに届く前に、地面へと倒れた。
「連戦で無理をしたのだろう当然の結果だ。いますぐ殺してやろう――」
ディーはそっと剣を抜き――
殺される……。そう思ったが――
「――といいたいところだが、それでは俺の気が収まらない。それにもうじきここにあの二人も駆けつけるだろうからな」
どういうことだ? なぜ……、僕にとどめを刺さない?
「リメリアがいるんだ。貴様らはアヴァロンを目指しているのだろう? 来るがいい。そこで相手をしてやろう。せいぜいそれまで苦しめ。貴様が殺した女の事でな。くくく」
そう言い残し、この場をディーは去った。
そして、しばらくの静寂。
『俺はお前ら魔王が嫌いだ。貴様らは全てのものを不幸にする』
レイナーが言った言葉が胸に突き刺さる。
僕は……、魔王だから彼女もきっと――
「うわぁああああああああああ」
僕はその場で崩れ涙した。