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不可死の魔王  作者: ネコノ
2部「血塗られた騎士」
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2-2 「奇跡の砂」



 街の北に位置する洞窟。道中は熱帯砂漠、そして多くのモンスターが待ちうける。地元の者どころかプレイヤーすら敬遠するほど危険な地域。

できればそんな場所へ行きたくない。でも奇跡の砂――

リアを助ける宛てがあるとすればこれぐらいしかない。


 意を決し、街の北へと向かった。


 できればシャディやリメリアにもついてきてもらったけど、シャディはまだ回復していない。そんな彼女を連れ出すわけにはいかない。リメリアは相変わらずどこへ行っているかわからないし……


 もちろん彼女達に行くことを伝えていなかった。シャディに言えば、彼女の事だ、きっと無理してでも一緒に来るだろう。


 シャディにこれ以上負担をかけるわけにはいかない……


 それに時間はあまり残されていなかった。


「武器、食料、そして水は良しっと……」


 村の出口をくぐり砂漠へと出る。


 日も暮れ始め、若干肌寒く感じる。夜になれば極端に冷え、昼間の薄着では風邪をひいてしまうほどの温度差。


 もちろん防寒対策も万全だ。ただ問題は――

「何も見えないなぁ」


 辺りを見渡すと果てしなく広がる砂漠。方向がわからなくなれば、無事で済まなくなる。

まぁ、それは地図に方位を調べてメモしていけば問題ないかな。幸いなことに前の街で方位が分かる魔法具を買っている。これで心配は一つ減った。


 まぁ、モンスターに出会うだけでアウトなんだけどね……

 北へ――



 砂に足をとられ、体力は徐々に奪われていく。もう何時間あるいただろうか? 洞窟の詳しい場所を知っている人間がいなかったのが悔やまれる。


 うん――?


 砂を踏む感触、そして、砂の流れに微妙な違和感を感じた。まずい――

 その場を走って全力で離脱した。


 砂が渦を巻き、巨大な岩を地下へと引きずり込む。まるで蟻地獄。これは流砂? いや、何かが違う――


 流砂と思われたそれは、まるで生きているかのように僕の方へと向かってきた。


 に、逃げなきゃ――!!


 流砂の勢いは到底逃げ切れるものではなかった。

 ま、まずい――

 しかし、流砂は僕を引きずり込むことはなく、寸前でおさまった。


 た、助かったのかな……


 次の瞬間――

 砂から突き出る巨大な刃。とっさに横へと跳び、それをかろうじて避けた。これはモンスター? 砂の中から僕を狙ったそれは砂を巻き上げて姿を現した。


「さそり……?」


 巨大なサソリ。ただ、尾の部分が剣のような鋼の刃を備えている。モンスターはまずい……。

 そもそも、僕に戦う選択肢など存在していない。逃げよう!!

 サソリの尾は確実に狙いを定めて僕めがけて――


 避けようと足を踏みしめるが、地盤の固まらない地面に足をとられて転ぶ。


 まずい――

 しかし、転んだおかげでかろうじてサソリの尾は逸れて、砂の地面に突き刺さる


 このままじゃ逃げ切れない。あれを使うしかないか……。


 腰に下げるポーチに手を伸ばし、紙を丸めたような小さな球をとり出す。

 もうちょっと……、あのサソリが近づいてきたら……


 今だ――


 そして、それに火を付けて投げつける。


 サソリの手前で、小さな球は破裂を起こし、大きく爆発して煙を巻き上げた。


 別に殺傷能力があるものではない。僕が逃げるために用意した煙幕。しかも視覚だけじゃなくて聴覚も嗅覚も奪うというすぐれものだ。


 煙幕の中を全力で走り、その場を離脱した。



           ◇



 はぁ、一人でこうやって出歩くのって城を出て以来かな……


 モンスターに何度も襲われ、逃げ回った結果――


「完全に迷子だ……」


 相変わらずの無策ぶりに自分でも呆れてくる。モンスターが出ると当然こうなることぐらい予想がついていたのに……


「あ……」


 目の前には洞窟――


 それは偶然だった。モンスターから逃げているうちにいつの間にか洞窟に辿り着いていたわけだ。よし、入ろう――



 洞窟の中は外よりも温度が低く、寒いぐらいだった。


 ゲームなせいか、現実にあるような洞窟と違って、なぜか明るかった。僕にとっては都合がいいんだけど。


 洞窟の中は砂漠以上に慎重に進んだ。もし、こんなところでモンスターと出会えば逃げる場所がない。

 そして、大きな空洞へとたどり着いた。

 辺りを見渡してみるが、何もない……


 ――うん!? あの石は……


 見覚えのある紋章。確か、魔王の指輪があった場所にも同じ紋章が……

 そっと触れた瞬間――


『汝は封を解くもの』


 またあの時の声……


 紋章は青白く光り、巨大な洞窟の空間を覆った。そして、巨大な壁が音を立てて崩れていく。


 ひょっとして、ここも魔王と関わりのある場所?


 息を飲み、洞窟の奥へと進むことにした。


 幸いなことにモンスターはいなかった。しばらく進むと再び開けた場所へとたどり着く。

 そして、その中央に飾られるようにして、手のひらサイズの石が置かれていた。


 石は青白い輝きを放ち、それを眺めると不思議と落ち着く。石の置かれた台を覆うように光のオーラが囲われていた。これがひょっとして奇跡の砂?


 これは、あの時と同じ特定の者以外は触れたら絶命する結界――だと思う。

 しばらくすると


『汝を資格あるものと認めよう。台座に触れるがいい』


 また聞こえるあの声。いずれにしてもリアを助けるには急がなければならない。こんなところで迷っていたら……


 そっと触れた。


 触れた瞬間、ガラスが割れるような音がして、オーラは消えていた。

 そして、置かれている石をそっと手に取った。

 ひょっとしてこの石が奇跡の砂になるのだろうか?


 次の瞬間だった。


 ものすごい殺気――


 一瞬で目の前の台座がばらばらに切り裂かれ、崩れて落ちる。


「よくこんな隠し通路が見つかったもんだな。盗人にしては大した探索能力だ」


 振り返ると一人の男がいた。この男から向けられた殺気だと分かった。


 全身アーマプレートで包まれた男。おそらくはリメリアと同じ騎士の類。当然ながら男の獲物は剣。それを手に握っていた。おそらくこれでこの台座を切ったと容易に想像できた。離れた所からの剣閃。不思議と驚くことはなかった。リメリアがやっているのを目にしている。


「よぉ、盗人。慈悲深い俺からの譲歩だ。その石を置いていけ。そうすれば命だけは助けてやるよ」


 盗人――僕は何か勘違いされている?


「いきなり言われても……。そもそも僕は盗人じゃない」


「アヴァロンの秘宝に手を出す時点で死罪なのは分かっているだろう?」

「アヴァロンの秘宝……?」

「んなことも知らねぇで盗もうとしてたのか? 呆れる奴だ」


 アヴァロンの秘宝? 何の事だか状況がさっぱり飲み込めない。

「それはこの国に伝わる伝説のアイテム『奇跡の石』だ」


「あれ? 奇跡の砂って――」

「なんだ。知っていたのか。それを細かく砕けば砂になるんだよ」

「そっか。でも、アヴァロンはまだここから遠いはず、なんでこんなところにあるの?」


「そりゃあ、今見つけたからに決まっているだろう?」

「――――??」

 状況がさっぱり飲めない。今見つけたものがアヴァロンの所有物?


「これ、今見つけたんだよね?」

「ああ」

「じゃあなんで……」


「アヴァロン領にあるものだ。それをアヴァロンの騎士である俺が見つけた。よってたった今、この国のものとなった」

「な――!?」

 国の秘宝でも所有物でもない。たった今、見つけたからよこせって言う横取りにすぎなかった。


「そんな勝手な――」

「いいさ、渡す気がないなら力づくでとるだけだ」


 男は踏み込む。一瞬で目の前に――

 はやい――


「盗人、死ね!」


 逃げ切れない――!!


 男の剣は確実に急所を狙い――


『アインさん、力を貸して――』


 刺される寸前で剣を往なした。そして、大きく下がった。


「ほぉ、面白い武器もっているじゃないか」


 男の剣を弾いた武器――僕の切り札でもあるアインのロザリオ。レイナーの一件以来、意図的にロザリオから白い刃を実体化させることが可能となっていた。この武器は確かに強い。でも一つだけ大きな欠点があった。一度の発動で長い時間もたないことだ。


 1分も発動できれば良い方。短期戦しか残っていない――

「それも頂くか」


 男は躊躇することなく踏み込む。そして、男の斬撃――

 なんとか往なすが、それが精いっぱいだった。

 まずい……、見えな――


 ロザリオの剣は大きく振られ――

「終わりだな、盗人野郎!!」

 男の剣は確実に僕を捉えていた。


 万事休す――


 しかし、鈍い音を立て、男の剣は届くことはなかった。とっさに、間に入り庇った人物。


「リメリ……ア?」


 男と剣を交えていた。

 二人は大きく一歩下がった。


「貴様……なぜここに居る?」

 リメリアは男を睨みつけていた。


「久しいなリメリア。会いたかったぞ」

「私は貴様などと会いたくはなかったがな」

 二人は知り合い……? どう考えても仲間という感じではないけど。


「そう睨むな。せっかくの再会なのだからな」


「なぜツヴァイを襲った?」

「その男はアヴァロンの秘宝を盗もうとしたからだ」


「盗もうとした? 貴様より先に見つけたのはツヴァイなのだろう?」


「我々の領地にあるものだ。それに魔王がこの地へ侵略を開始したとの情報がある。魔王に先に取られるわけにはいかないのでな」

 魔王というワードにどきっとした。どうやらこの男は、僕の事に気づいていないようだった。


「リメリア、昔のよしみだ。そこの盗人を渡せ。そうすればお前だけでも逃がしてやるぜ?」

「残念だが、ツヴァイは私の大切な仲間だ。それに――貴様のやろうとしている事は盗賊と変わらないと思うが?」


「これは国の意志なんだよ。それにしても盗人の仲間か、これは傑作だ」

「取り消せ……。私の仲間を侮辱することは許さん!!」


「血塗られた紅の騎士にお似合いだ」

「――――――!!」


「あのさ」


「何だ盗人」


「国の都合とか分からないけど、どうしても助けないといけない子がいる。あなたもプレイヤーならわかるでしょ?」

「気持ちはわからんでもないが、それを聞くのは騎士道に反するんだよ!!」


 これを渡すわけにはいかないけど、ここを通してくれる気はない……


「リメリア、ごめん」


「気にするなツヴァイ。誰かを助けたいのだろう? こんなことで人が助かるなら喜んで私は手を貸すぞ。それにお前は仲間だからな」


「うん」


 リメリアは持っていた武器を構え、男に対峙した。

「どうしてもやる気か? しかたねぇなぁ」


 男は剣を2本取り出し――

「アヴァロン王国第7聖騎士ディー・アレクフォード。貴様らを今より殲滅する!!」


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