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不可死の魔王  作者: ネコノ
2部「血塗られた騎士」
24/30

1-2「砂漠の果てに」



 翌日。シャディの具合は相変わらずだった。まぁ、1週間だからゆっくりしてもらおう。リメリアは相変わらず早朝になるとどこかへと出かけていく。僕は――


 シャディと話をして過ごす。そして気がつくと昼を過ぎていた。そして、気分転換に外へと出る。

 昨日に訪れた泉のほとり。ここは人が少ない事もあり、すごく居心地が良かった。


 そう言えばあの子……。昨日の女の子を思い出した。


 行ってみようかな……

 昨日教えてもらった屋敷へと足を運んだ。


「って――――、でかっ!?」


 辿り着いた屋敷の城門。そこから見える広大な敷地に唖然とした。この大きさは異常だ。魔王の城の数倍はあるだろうか?


「そこを動くな!!」


 後ろから声をかけられびくっっとする。そして、首元に槍を突きつけられている事に気づき硬直した。槍を突きつけているのは鎧を着た兵士。僕の正体がばれた?


「貴様。旦那様の屋敷に何の用だ?」

「へっ――!?」

「私はこの屋敷の警備員だ。何の用だと聞いている」

 なんだ、びっくりした……。

「僕はリアさんに呼ばれたから遊びに来た」

「少し待て」

 何やら兵士は会話をしていた。通信のような連絡手段があるのだろうか? しばらくして兵士は寄ってくる。


「よし、入れ」

 そう言い、城門が開かれた。

 兵士に案内され、屋敷へとたどり着く。そこには一人の老人。服装から察するに執事だろう。


「リアさまのご友人。あなたを歓迎します」


 そう言って軽くお辞儀をされ、屋敷内に案内された。屋敷内部は洋館といった作りで、地面には赤い絨毯が敷き詰められていた。周りを見渡すと坪やら何やら、いかにも貴族の洋館というイメージ。そして、執事の男は呟く。


「しかし、最近では外に出ることもできなくなったリア様にお会いに来ていただけるとはさぞ、お喜びになるでしょう」

 最近外に出ていない? あれ――――!?

「着きました。こちらでございます」

 執事は扉をあけ、中へと導く。そして、中に入ると扉を閉じられた。

「うわぁ、広い……」

 その広さは宿屋の比ではなかった。そして、天井には綺麗な絵が描かれている。


「ツヴァイさん。来てくれたんですか!?」

 ふと声のする方に目を向けると、彼女はベッドで上半身を起こしてこっちを見ていた。

「リア?」


「あ、えっと……、来てくれると思っていなかったから、つい取り乱しちゃって」

 彼女は笑っていた。喜んでもらえているならよかった。

「えっと、こちらへいらしてください」

 彼女が手招きをする方へと向かい、ベッドの横の椅子へと腰掛けた。

「リアってお嬢様だったんだね」


「うん。といっても強制的になんだけどね」

「そっか」


「ねぇ、昨日の話の続き聞かせてもらえる?」

「あまり面白くないかもだけどそれでいいなら」


 彼女は真剣に聞き入っていた。彼女が決して経験したことのない世界。僕自身の話に興味持ってくれていることが何よりもうれしかった。


 そして、時間は過ぎる――


「あ、そろそろ宿屋にもどらないと……」

「あっ、もうこんな時間。こんなに長く話てもらってごめんなさい」

「ううん、僕も楽しかったし、気にしないで」

「それならよかった。あ、あのね。明日も暇なら来てほしいなぁ――なんて」

 明日――。シャディはまだ回復に時間がかかるだろうし……

「暇があったら行くよ」

「い、いいの!? そっか。えへへ」

「じゃあ、僕はもう帰るね」


 部屋のドアに手をかけようとした瞬間

「あ、あのね……。昨日の事は内緒にしておいて」

「昨日のこと?」

「うん、昨日湖のほとりに居た事。私はね、外に出ることができないの」

 なるほど、執事と話がかみ合わなかったのはこのせいか。

「わかった」

 深くは聞かなかった。僕にも理由があるようにこの子にも理由があるのだろうから。

 そして屋敷を後にした。宿へと戻るとすっかりと日が暮れていた。

「ツヴァイさん。お帰りなさい」

 部屋に入ると同時にシャディは言った。


「ただいま。具合はどう?」

「大分楽になりました。でも、まだ動くのは無理です」

 彼女は申し訳なさそうに俯く。

「無理しないで、僕は待ってるから」

「ごめんなさい」

 彼女は責任感が強い。きっと今回足を引っ張ったことも責任感じているんだろうな。


「いいよ。そんなこと言ってたら僕なんてもっと迷惑かけてるし」

「考えてみるとそうかもですね」

「それはそれでひどいなぁ」

 二人で苦笑した。


「そう言えば、リメリアは?」

「リメリアさんはまだ帰ってきていません。ツヴァイさんはどこへ行っていたんですか?」

「リアってプレイヤーに出会って、その子の家にね」

「リア?」

 経緯をシャディに話した。若干不機嫌そうだったけど……。そして――


「そのリアって人。気をつけた方がいいかもしれません」

「気をつける?」

「プレイヤーがただの村人になるわけがないです」

「じゃあ、彼女は何か――」


「さぁ、私は詳しくは知らないです。でも、用心はしてください。ツヴァイさんにもしものことがあったら……」


 彼女なりの心配だろう。今は彼女に心配をかけるわけにはいかない。

「ありがとう。気をつけるよ」

 そして夜が更ける。



 次の日。

 再び彼女の元へと向かった。そして昨日と同じように警備に連絡して中へと入る。

「また来てくれたんだ?」

 すごくうれしそうに彼女は言ってくれた。僕としても辛いことだらけだった旅の話を聞いてくれる人がいて嬉しかった。


 そして、遂に――

「実は僕は魔王なんだ」

 しかし、彼女はきょとんとした表情。

「魔王って倒せばいいっていうあの?」

「うん」

「そっか」


「それだけ?」

「それだけって?」


「だって僕は魔王なんだよ? 殺されるなんて思わないの?」

「ツヴァイさんはツヴァイさんだよ」


 リアの一言。ものすごくうれしかった。もっとはやくに会えていたら……


「僕の事を知れば、みんな僕の命を狙ってくる……」

「そっかぁ……。魔王って大変なんだね。あ、でも安心して? 私は村人だから魔王を倒すことはできないんだよ」


「リアはそんな人じゃない事はわかってるから……」

「逆はできちゃうんだけどね」

 リアはどこか寂しげだった。

「ぼ、僕はそんな事は絶対しないよ」


「でも――、いっそ殺してくれた方が楽かも……」


 小声だった。彼女は一瞬、ものすごく寂しげな表情を浮かべた。

「――というのは冗談で、大丈夫だよ。全然怖くない。むしろツヴァイさんは可愛いほうだよー」

「それはそれで嫌だなぁ」


「あははは――」


 彼女との時間は楽しかった。僕を魔王と分かっていても優しく接してくれる。その日の夕暮、昨日と同じように彼女の部屋を後にした。

「あの――、ちょっといいですかな?」

 声をかけてきたのは彼女の執事だった。

「なんでしょうか?」

 ひょっとしたら魔王とばれて騎士団あたりにつきだされるのではないかとひやひやしていた。


「実はお嬢様の事で――」

「リアの事?」

「はい。実はお嬢様は重い病気にかかっております。そのせいもあり、長い事部屋の外にも出ておられません」


 聞かされた事実に驚愕した。彼女が外に居たことを内緒にする理由。重い病気――

「お嬢様はこの屋敷で一度たりとも笑った事はありませんでした。しかし、ツヴァイ様が来られてからは毎日楽しそうです。できれば、明日も来ていただけたら――」


「はい」

「ありがとうございます」

 執事は深々と頭をさげた。


 リアが病気? 彼女は村人としてこの世界に来て、そして重い病気でずっと一人ぼっち。


『プレイヤーがただの村人になるわけがないです』


 シャディの言った一言――。リアはひょっとして……

 そして、次の日。嫌な予感は的中した。屋敷は慌ただしかった。

「こ、これはこれはツヴァイ様!?」

 執事のただならぬ様子に僕は戸惑った。

「どうかしたの?」

「そ、それが……」


 リアの部屋の扉が開き、白衣を着た男が部屋を出てくる。この人は医術師――病気や怪我を術で治療する職業の人達だ。執事はその人に駆け寄った。

「ど、どうでしたか?」

「なんとか発作を抑え込むことはできましたが……、次発作が起こればどうなるか保証はできません」

「そんな……」

 二人のやり取りを聞いていた。そして、唖然とした。彼女はおそらく余命宣告を受けるほどの……

「リア!!」

 気がつけば彼女の元へと駆けよっていた。ベッドまでたどり着くと彼女は発作も落ち着いたのかぐっすりと眠っていた。その安らかな寝顔に少しほっとした。それからどのぐらい経っただろうか?


「見苦しいところみせちゃったね」

 ベッドから声が聞こえる。はっとそっちへと顔を向けると、目を覚まし起きる彼女がいた。

「そんなことないよ」

 お互い会話が途切れ、しばらく沈黙していた。そして――

「いつからなの?」

「この世界に来てずっとかな……。きっとそういうキャラクターなんだ」

「そっか」

「私ね。現実では友達がいなかったの。それでこっちの世界だといっぱい友達ができると思ってきたけど、結局一人ぼっちだった。病気も日に日に酷くなっていくのがわかった。でもね、それはそんなにつらくなかったんだ。一人でいる方が辛かった。一人でいるぐらいならはやくこの病気で死なないかなぁって思ってた……」


「…………」


 彼女の話を黙って聞いていた。きっと彼女は僕以上に辛かったんだ……

「でもね、私はツヴァイさんと出会えて、お友達になれてうれしかった」

 リアはにっこりと笑った。

「僕もリアと友達になれて楽しいよ」


「今になって憎いな……。せっかく友達ができたのに……。楽しいのに……。なんで……なんで……、私だけ……」


彼女の瞳から涙がこぼれ、それを彼女は両手で溢れる涙をぬぐった。


「大丈夫だよ。きっと治るよ」

 彼女が意味もなく村人をさせられるわけがない。きっと何か手はあるはず……

「私って幸せになれないのかな……?」

 彼女の問いかけに答えることはできなかった。僕は……、彼女のために何かできる?




 次の日、昨日からすっかりと落ち着いたリアを訪ねて、いきなり話を切り出した。

「リア!!」

 思わず大きな声を荒げた。びっくりしたのかリアは驚いてこちらを見る。

「行こう」

「え? え!?」


 彼女の手を強引に引き、屋敷を後にした。

「ど、どこにいくの?」

「いいから!!」

 そう言って街を駆け抜ける。そして辿り着いた場所――

「宿屋……?」

「うん。僕と一緒に旅してきた人達と一緒に泊っている場所」

「ツヴァイさんの仲間?」

「うん。紹介しようと思って」

「え? そんな突然――」


 心の準備ができていないという表情の彼女の手を強引に引っ張った。そして、宿泊先の部屋の扉を開けた。

「ツヴァイさん、お帰りなさい」

 帰ると同時にこっちを見てくる女性。そして、驚愕していた。

「ただいま。紹介するよ。こちらはリア。昨日話していたでしょ?」

「は、はじめまして。ツヴァイさんにはお世話になっています」


 彼女は緊張していた。がちがちになりながらお辞儀をする。すぐに打ち解けると思ったが、シャディは怪訝そうな顔を浮かべていた。


「お世話……。ツヴァイさん何をしたんですか?」


 彼女はジロリと睨んでくる。――ってぼ、ぼく!?

「べ、別にただ、お話してただけだよ!!」

「それで――、その子を宿屋に連れ込んでるっと……」

 何か……シャディの機嫌が悪い!?


「私……、連れ込まれたの?」


 リアの追い打ち――。これで完全に変態のレッテルを貼られ、退路を断たれた。

「誤解だってば!!」

 理不尽な攻めを受け、なぜか最終的に謝るはめになった。いったい、僕が何をしたって言うんだ……



「リアさんはそんなに美味しい料理食べられるんですか。うらやましいです」

「確かに美味しいものは食べれますけど、私はシャディさんのほうがいいかなぁ」


 部屋に来て数時間。シャディもリアもすっかり打ち解けていた。というより僕が連れてきた意図を初めからシャディは理解していたようだ。さっきの理不尽なのはいったい……


「ところでシャディさん。ツヴァイさんと……あの――、その……つ、付き合ってたりするのですか?」

「わ、私は別にっ――!! つ、ツヴァイさんは……、そ、その……、し、親切で優しいですけど……」


 彼女は明らかに動揺していた。そもそも答えになっていない気がする。

「別に僕とシャディは旅する仲間なだけで付き合ってなんかないよ」


 次の瞬間、目の前に拳が見え――

 顔に見事に炸裂した。

「シャディ……、何するの……」


「知りません――!!」

 プイッっと彼女はそっぽを向いた。心なしかさっきより機嫌が悪い?


「そっか……、よかった」


 それに反してリアのほうは機嫌が良さそうだった。そんな中でも話をする二人。どちらも一人で過ごす時間が多く人見知りをするらしいが、思いのほか打ち解けていた。この二人を引きあわせて良かったと思う。


「あ、私はそろそろ帰らないと……」


 彼女は決して許可をとって出てきたわけではないから、そろそろ帰らないと大騒ぎするだろう。下手すれば誘拐犯扱いを受けて……。まぁ、魔王が人を攫うのはおかしい話じゃないけどさ……。彼女自身にも迷惑がかかるし、そろそろきりあげないとね。

「あっ、僕が送って行くよ」


「ツヴァイさん、リアさんに変な事をしないでくださいね?」

 ギロリと睨みつける彼女はいつも以上に気迫があった。

「そんなことしないよ!!」


 リアを連れ、そそくさと部屋を後にした。そして、すっかり夜となり、昼とは印象の違う街並みを眺める。

「ツヴァイさん。ありがとうございます。おかげで二人目のお友達ができちゃいました。えへへ」

「シャディもすごくいい人だから、また話といいよ」

「ぜひ、そうさせてもらいますね」


 リアはどこか楽しそうに周りを物珍しそうに眺めていた。こんな夜の景色を見ることなんてほとんどないだろうから当然かな。

「うらやましいなぁ。こんな景色を見ることができたり、いろいろな街を見て回れて……。私なんて屋敷にただ寝ているだけ……」


 僕は……、魔王なんて嫌だと思っていたけど、リアと比べたら幸せなのかもしれない。

「リアもきっとできるよ」

「ありがとうございます。でも……、私は病気だから……」

 彼女にとって無責任な言葉をかけてしまったと後悔した。でも――

「リア!! 元気になったら、僕たちと一緒に旅をしようよ」

「え――!?」

「シャディと仲良くなれた見たいだし、今日はいなかったけど、リメリアとだってきっと仲良くなれるよ」

「旅かぁ……」

「あ、でも僕は魔王だから大変だから嫌かな?」

「そ、そんなことないです」

 彼女は軽快に前へと躍り出てくるりと回って振り向いた。

「約束ですよ?」

 彼女はにっこりと笑っていた。




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