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不可死の魔王  作者: ネコノ
第一部「不可死の魔王」
20/30

6-5 「魔王ツヴァイ」

 暗闇の空間。辺りを見ても何もない。ここってどこだろう……

 

 ――――そうか、思い出した。僕はレイナーの闇に飲み込まれたんだ。

 でも、もうそんなことどうでもいい……。

 

闇が体を浸食していくのが分かる。いずれ、僕の体は闇に押しつぶされて消えてしまうのかもしれない。でももう――


 腕に抱える女の子をゆっくりと抱きしめた。

 

 ――シャディ……。

 

 闇を破る力なんて残っていない。シャディ、ごめん……。

 ゆっくりと目を閉じた。


 そこでどのぐらい目を瞑っていたのか分からない。ただ――

 

 少しの夢を見た。男の人二人と女の子が一人の夢。

 

 一人は魔王だった。三人は運命にあらがおうと必死だった。

 ある日、魔王と女の子は手掛かりのきっかけを見つけ、その場所へ出向く。だが、それは罠だった。 二人でも勝てないほど強大な敵。魔王は彼女を逃がすために必死で戦った。しかし、彼女は魔王を庇い、命を落とした。

 

 すぐに目が覚めた。この夢は――、僕とシャディに似ている夢。

 

 え―――っ?

 

 首からかけていたロザリオが淡い光を発していた。これって――


『シャディ、これが君を守ってくれる』

 

 そう言って彼女の首にかける光景が頭に入ってくる。この人はシャディの?

 このロザリオ…………。


『そうだ。これを貸してあげます』


 シャディ…………


『ツヴァイさん、生きて』



 僕は……、彼女に……、まだ何もしていない……



 ロザリオを力強く握った。

 次の瞬間――


 光は激しくなり闇を打ち消した。そして、闇に包まれていたはずの空間に亀裂が入り、音を立てて崩れた。


「なんだと!?」


 レイナーの驚愕する顔。そして、再び闇に襲われた。


 ロザリオを握り、一振り――――

 闇は一瞬で切り裂かれ霧散する。ロザリオからは白い光が伸び、巨大な十字架の武器となっていた。


 魔王アインが込めた力。彼の闇などものともしないほどの……。この力は――


『何かあったらシャディを……、妹を守ってくれ』

 その念が込められていた。


「その力……、奴の力だな」

 レイナーは剣を抜き、構えた。その表情は先ほどとは違い真剣そのもの。


「無駄な抵抗だな。奴の力の大半はここにある」

 そう言って自分を指す。


「僕は……、現実が退屈でこの世界に来たかっただけだった。気がついたら魔王になってて流されっぱなしで……。結局この世界も嫌になって……、シャディにも迷惑かけて、どうしようもないよね」

「それももう終わる」

「はは、あははは……、終わる…………か」

「何が言いたい?」

「僕は……、意思なんて……、人の気持ちなんて深く考えたことなかったんだ。僕は殺されて当然だ。でも――」

 シャディを……。レイナーを睨みつける。


「僕は初めて人を――あなたを殺したいほど憎いと思った。それまでは死ねない」

 レイナーに向かって駆ける。入らなかったはずの力は不思議と湧いてくる。ロザリオのおかげだろうか?


 一歩一歩、地面を蹴る旅に速度が増し、やがて、瞬神と呼べるほどの速度に達していた。


 そして、レイナーに向かって一太刀――

 しかし、レイナーの剣で防がれ。鈍い金属音を辺りに鳴り響かせた。


「いい殺気だ。だが――、目障りだ!!」


 レイナーから発した無数の闇の刃は僕に襲い掛かる。

 全方位――。死角はない。だけど――――

 どうせ避けられないなら、どこにいても一緒だ!!


 レイナーに向かって突進――

「愚かな。我が闇の刃に切り刻まれて死ね!!」

 刃に触れる瞬間――

「耐えてくれ……、アシュケロン」

 大きな衝撃波が闇を消し去った。衝撃波――――

「リメリア?」

 折れた魔剣を構えた彼女の姿。そして、その衝撃波を繰り出し、魔剣は役目を終え、粉々に朽ちていく様が目に映った。


「今だ!! ツヴァイ行け!!」


 今しかない――

 レイナー目がけ大地を駆ける。

「れいなぁああああああああああ!!」

 ロザリオを振るった。一太刀、二太刀――

 剣との応戦。技術の差は圧倒的だった。まずい、確実に圧されている。


 このままじゃ――

 剣を大きく弾かれ、手がロザリオが離れる。隙だらけ。

「魔王ツヴァイ、これだ最後だ!!」

しまった――


『Charge Phase Max』


 レイナーの背後からの大きな衝撃に彼は大きくよろける。助かった――


 衝撃の主は巨大なハルバートを持った長髪の――


「エリック!?」

「こっちのほうが金になりそうなんでな」

「き、きさまぁあああああ」

 今しかない。一瞬で懐まで走り込み――

 地面に転がる光る刃を素早く拾い上げる。それは――折れたアシュケロンの刃。


「リメリア、借りるよ……」

 レイナーが振り下ろす前に大きく刃を突き立てた。


「ぐぁあああああああああああああ」

 突き立てた傷口から無数の闇が宙へと噴き出した。そして、彼は後ろへとよろけながら下がった。

 素早くロザリオを拾い上げ――


『何かあったらシャディを……、妹を守ってくれ』

 魔王アインが妹のためにロザリオに込めた念。

「ごめんなさい。僕はシャディを守れなかった……」


 レイナーにロザリオの光の刃を振り下ろした。



         ◇



『き、君の名前は?』

 頭に声が聞こえてきた。幻聴だろうか?


『私? 私の名前はねー。えーと、イーナだよ』

『俺の名前は――』

 男性と女性の声。一人の男性はどこかで聞いたことのある声。

『あー、知ってるよ。新しい人が来たってアイン君から教えてもらっちゃった』

『そ、そうか……』

『ちなみに私は魔王補佐官。かっこいいでしょ?』

『あぁ、すごい肩書だ』

『悪者役なんだけどねー。何はともあれよろしくね。レイナー君』

『あぁ、こちらこそよろしく』

『ふふふ、レイナー君、私を守ってね』

『まかせておけ!』

『イーナ。一緒に行こう』


 レイナーはイーナに手をひかれ――。そのまま視界から消える。

 シャディ……。ごめんね。僕の我がままで君まで……。僕は世界から出られなくても、死んだってかまわなかった。君さえ生きていてくれたら……。

 頬を伝い涙が流れた。僕も疲れた。もし、君と同じ場所に行ったら怒られちゃうかな?

 僕も眠くなってきた……。

 暗い闇が晴れ、辺り一面が真っ白な世界へと変わった。そして――――


                 『Game Clear』


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