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不可死の魔王  作者: ネコノ
第一部「不可死の魔王」
19/30

6-4 「魔王ツヴァイ」

 すっかり廃墟へと変わった街を走り、二度ほどの大きな爆風が襲った。

 たぶん、爆発の起きた場所で二人は戦っている。そう確信した。

 

 その場所へはやく――

 大きな爆発の起きた場所へと走った。

 次の瞬間。

 レイナーの手で掴まれ宙づりになった女性の姿が目に映る。地面には彼女が愛用する剣が折られ転がっていた。

 

 …………リメリ……ア?


 無残なほどに傷だらけとなった姿。それは紛れもなく彼女だった。

「リメリア?」

「意外にはやかったな。二人とも殺してお前に見せつけてやるつもりだったんだがな」

 

 両手足は脱力したままで返事はない。そして、レイナーはリメリアを放り投げ、それを両腕でしっかりと受け止めた。

 リメリアの額からは血が流れ意識はない。かすかに動く胸と吐息の音。

 

 ――よかった。息がある。

 

 彼女を運びそっと壁に寝かせた。

「ツヴァ……イ……さ……ん?」

 すぐそばに横たわる傷だらけの女の子。声を聞いて直ぐに彼女だと分かった。

「シャディ?」

「よかった……。無事だったんですね」

 彼女は血を流し、壊れた瓦礫によっかかっていた。


「シャディ、手当をしなきゃ……」

「ツヴァ…………イ……さ……ん……は……にげ…………て」


 痛々しいほどに傷つきながらも僕の事を……

 二人がこれをほど傷を負わされるほどの相手。僕なんかが相手になるわけはない。

 でも――


「二人を置いて逃げたりはしないよ」

 彼女の頭にそっと触れ、やさしくなでた。そして――


「ちょっとだけまっててね」

「ツヴァ……イ……さ……ん?」

 二人ににこりと笑いかけ、振り返ってレイナーの元へと歩いた。


「やぁ、ツヴァイ君。ずいぶんと遅かったじゃないか」

 皮肉の交じった言葉に彼を黙って睨みつけた。


「レイナーさん。何でこんなことをしたんですか?」

「魔王の仲間を殺すことに何の疑問がある?」

 レイナーははっきりと『殺す』と言った。彼に対する憎しみが体の中で増し、それを必死でこらえる。

「あなたは……魔王軍の人間だ」

「お前のではなく先代のな」

「何でシャディ達を狙ったの? 魔王が狙いなら僕を直接狙えばいい」

「別に俺はお前ら魔王に好き好んで忠誠を誓っていたわけではないのはわかるな?」

 プレイヤーは職業を選べない。僕だってそうだ。


「だからといって俺達魔王軍のプレイヤーはお前達魔王にとって単なるコマか? 魔王のために犠牲にならないといけないのか?」

「…………」

 僕が狙われる定めなように、犠牲になるような部下もいるだろう。そんな事を考えたことがなかった。

「最初の魔王軍はな、アインと俺、それともう一人、今のシャディの先代の3人で結成されたものだったんだ。3人でこの地獄を抜け出そうとがんばったよ……」

 レイナーの姿に自分の姿が似かよる。

「彼女は勇敢だった。当時の俺でも勝てないぐらいの強さだった。ある日、アインと彼女は二人で討伐隊を追いに行った。そして、帰ってきたのはアインだけだった。血だらけでな。問い詰めた奴はただごめんというばかりだった」

 どことなく悲しそうにレイナーは話していた。どこに居ても命を狙われる。魔王の宿命。

「わかるか? 彼女はアインの犠牲となる。そういう役職だったんだ」

 そんな……。シャディの役職がその人と同じ――


「シャディはそんなこと――」


「現にシャディを貴様のわがままに巻き込んでいるのだろう?」

 シャディを巻き込んでいるのは事実。レイナーの言うことは正しい。

「俺はお前ら魔王が嫌いだ。貴様らは全てのものを不幸にする」

 魔王の宿命なのかもしれない……。でも――


「その事が分かっていたなら……、何で……。彼女達が一体何をしたの? 直接僕を狙えばいい」

「魔王を守ろうとするやつに容赦する気はない。それにアインの妹だからな。俺にとっては憎い血縁だ」


「――――――!!」


 怒りは限界に達していた。気がつけば地面を思い切り蹴る。剣を抜き、怒り任せにレイナーに斬りかかった。しかし、レイナーの闇が盾となりあっさりと剣は防がれる。

 

 そして――

 

 レイナーの闇が襲いかかった。


「ぐっ――」

 闇を体に弾丸のように撃ちこまれ、体の骨が軋む。そして、二撃目――

 成すすべもなく大きく宙を舞い、そのまま落下した。


「かはっ……」


 吐血し、体全身に痛みが走った。骨がいくらか逝ったかもしれない。やっぱりまったく歯が立たない……


「どうした? もう終わりか?」


 レイナーは歩いてきて目の前で立ち止まる。憎しみの目を向け見下ろした。

 今……な……ら。


 痛みをこらえて剣を――――


 ぐあぁ……。


 剣を振るおうとした瞬間――――レイナーは蹴りを繰り出し、数メートルほど吹き飛ばされた。意識が途絶えそうなほどの苦痛。

 でも……たち……あがら……なきゃ……

 意識が朦朧とする中、ふらつきながらも再び立ち上がる。


「ほぉ、まだ起き上がる気力があるのか」


 レイナーは手を翳す。そこに闇が集約されていく。

 そして――

 闇は圧縮され、弾丸のように僕を襲い、大きく吹き飛んだ。


「う……ぁ…………」


 両手両足を撃ち抜かれ、もう手足の感覚はなかった。もう意識が途絶えてもおかしくない。でも……、今僕が気を失うと……だめだ……。僕が二人を助けなきゃ……

 起き上がろうと力を入れるが入らない。

 ゆっくりと僕に近づく足音が聞こえる。レイナーだろう。


「もう……、もうやめて……くだ……さい」

 ――シャディ?


「ツヴァイさんは……、ツヴァイさんは何も関係ないじゃないですか!! 兄を――魔王アインを恨んでいたなら、その妹の私を――――」


「だまれ」


 レイナーはシャディを睨みつけると彼女に向けて手をかざす。手から打ち出された、闇の塊が彼女に襲いかかった。


「――――――ッ!!」


 彼女の体は闇を受け、瓦礫の壁に強く打ちつけられた。


「シャディ……!!」

 意識は朦朧としているし、すごく痛い。でも、そんなの関係あるか!!


 渾身の力を振り絞り、大地を蹴った。一歩歩くたびにどんどん力が抜けていくのが分かった。でも――

 シャディを守らなきゃ!!

「シャディに手を出させない!!」

 剣を構え、レイナー目がけて斬りかかる。


 しかし――

 目の前には大きな闇の壁が現れ行く手を遮った。だけど――

「そんなの関係ない――――ッ!!」

 そのまま闇に剣を振るった。策があったわけでもない。どうせ、考えたってこれをどうにかすることなんてできっこない。無謀な行動。でも、シャディを助けなきゃ――

 ギンッっと金属にぶつかる音。弾かれた反動で大きく体も後ろによろけた。もう力なんて残っていない。だけど、まだだ――――


 必死に力を振り絞り堪える。そして、2撃目。

 何が起こったかはわからない。だが、先ほどまでの堅い壁はそこにはなく、剣の刃が闇を通し、そして、それを切り裂いた。

 一太刀で斬られてできた直線の小さな空間――――そこから亀裂が広がり、やがて闇は霧散した。


 ここで気を抜くわけにはいかない。少しでも力を緩めると立ち上がれなくなってしまう。レイナーに向かって斬りかかった。


 一太刀――――

 レイナーの体に通る。だが、左肩に少し致命傷を与えた程度。もう一回――


「あれ――――!?」

 レイナーに刃は届く前に、急に力が抜け、そのまま崩れ落ちる。


「闇を破ったのは驚いた。さすがは腐っても魔王か……。だが、お前はもう限界だ。常人なら出血多量で死んでもおかしくない傷だ」

 レイナーの蹴りを腹部に浴びせられ大きく吹き飛んだ。


「ぐ……ぁ…………」


「さっきも言ったが、俺は魔王が大嫌いだ。この私が貴様のような奴に傷つけられるとはな。不愉快だッ!」

 レイナーから繰り出される闇。もう立ち向かうだけの力は残っていなかった。

 闇を受け、大きく吹き飛ばされる。


「ぅ……」


 無意識にゆっくりと立ち上がった。


「もういい……。お前は目障りだ。消えろ!! これで俺はこの世界ともおさらばだ」

 レイナーが剣を拾い上げた。

 そして――


 その剣をこっちへと勢いよく飛ばした。


 一歩も動けないほど疲労しきっている。避けられない――


 僕が死ねば、二人は助かるかもしれない。それに、もう痛覚なんて感じないし、楽に死ねるだろう。すべてを諦め、目をゆっくりと閉じた。



 剣の体を貫く音――――

 


 もう僕は死ねたのだろうか?


 ゆっくりと瞼をひらく。



「え――――」



 目の前の光景に目を疑う。



「シャディ? なんで……」


 目の前には僕を庇って立つシャディの姿。体には剣が突き刺ささっていた。


「ツヴァイさ……ん……。よか……た……」


 彼女は崩れ落ち、それを僕は懸命に支えようとした。しかし、支える力は残っておらず、一緒に崩れ、座り込むような体勢で彼女を抱えた。

「なんで……、なんで僕なんかを……」

「だ……って……、ツ……ツヴァイさ……ンは……よわ……い……か……ら…………。私が……まもら…………ないと……」

 彼女はにっこりと笑った。その笑顔が痛々しかった。


「シャディ……。ごめんね…………」

 涙が出てくる……。僕は――この子一人守れない……。情けなかった。

「泣か……な……い……でくだ……さ……い」


 シャディはゆっくりと手を伸ばす。しかし、彼女の手は――――

「シャディ? まさか、目が――」

「だいじょ……う……ぶ。へい……き……で……すから……」



 彼女の眼は視界を宿らせていなかった。宙を彷徨う手をそっと手繰り寄せ握った。


「シャディ、すぐに助けるから」

 シャディは再びにっこりとほほ笑みかけた。


「ツヴァ……イ……さ……ん……。わた……し……は……、いい……で……す……から、に……げ……て……」


「絶対に助けるから……、ぜったい――――」


 彼女は首をかすかに横に振り、何かを口にする。そして――――

 ゆっくりと目を閉じた。


「シャディ? シャディ!?」

 強く呼びかけても反応はなかった。


「シャディ!!」

 体を揺すった。きっとちょっと疲れただけかもしれない。しかし、それも空しく、彼女の体は揺さぶられるがまま動くだけ。


「ずるいよ……」



 彼女が口にした言葉。



『ツヴァイさん、生きて』



 彼女を抱え涙した。




「安心しろ、お前も直ぐそっちに送ってやる」

 レイナーの言葉に耳を傾ける力も気力ももはやなかった。レイナーの発した闇が迫り、そして、シャディを抱えた体はレイナーの発する闇に包まれた。


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