6-3 「魔王ツヴァイ」
―――Rimelia side―――
街は崩壊して形を成さなくなっていた。燃える瓦礫。
たったの一撃でこのありさま。ツヴァイが無事でいてくれるといいが……
この惨状。街に一体どれほどの被害がでただろうか?
次第に体の底から怒りが込み上げる。
怒りから、自然と剣を握る力が強くなる。
「さっさとこい」
レイナーは言った。どこか見下した表情。一切の罪悪感すら持ちあわせていない。
これだけのことをしておいて……。この男は許せない―――――
「貴様ぁあああああああああ!!」
地面を踵で思いきり蹴り、正面から斬りかかる。
しかし、剣はレイナーの闇にあっさりと受け止められた。
「どうした? 何を怒っている? 怒りは判断を鈍らせるぞ?」
「貴様は……、何故、罪もない人間を殺した!? 彼らが貴様に何をした?」
「罪もない人間? ああ、この街の者の事か。そいつは運が悪かったな」
「運が悪かっただと? ふざけるな!! 巻き込まれたプレイヤーはどうなる?」
「さあな」
レイナーの闇が刃となり襲いかかる。
これを後ろに退き避けた。
すかさず闇の刃がそこへ二撃目、三撃目の追撃――――――
これを剣で弾いた―――――― が、これは囮だった。
目の前に迫るもう一つの隠れた闇の刃。
――――しまった!!
「――――視界の闇よ、すべて凍りなさい!!」
目の前に巨大な氷の柱が出現し、闇の刃もろともレイナーを凍てつかせた。
「リメリアさん、大丈夫ですか?」
背後を振り返ると氷の結晶を浴びて、美しいほどに輝く銀髪の少女の姿が目に入る。
「すまない、シャディ」
氷に包まれるレイナーに目を向けた。
氷の柱の中心でうごめく闇。やがて氷の柱は闇に飲み込まれ粉々に砕ける。
「やっぱり……、全然効いていません」
「シャディ、次は全力で行くぞ。援護を頼めるか?」
これをシャディは黙って頷く。
そして、剣を握り再び対峙する。
「驚いたな。攻撃が無駄だと分かっていて立ち向かうとはな」
レイナーを睨みつけ、ゆっくりと間合いを詰めた。
「すぐに分かる。まぁ、それまで生きていられればいいがな」
レイナーは手をこっちにかざし、手に闇が手のひらに凝縮し、球体のようなものを作り出す。それは徐々に大きくなり――――――
――――――これは!?
球体はやがてレーザーのような闇の閃となり、こちら目がけて打ち出された。
――――だがこれは避けれる!
とっさに横へ跳びこれを回避して、一気に踏み込んだ。
剣を鞘に納めて構える。
その動作は現実世界の居合いそのもの――――――
レイナーとの間合いにはわずかに届いていなかった。だが――――――
「――――はっ!!」
気合の一言と共にこの間合いから剣を抜き、横一閃――――――
剣から繰り出される剣閃はレイナーを襲う。
――――だが、レイナーは余裕の表情。この程度の攻撃なら、あっさりと纏う闇で防いでしまうだろう。
しかし、これなら――――!
足に力を溜め、地面を蹴り踏み込む。
そして、剣を思い切り振るった。
振るった剣は剣閃と重なり一つの形を成していた。
「――――これならどうだ!」
剣閃は十字を描き、レイナーを襲った。
「ちぃ!」
レイナーは闇を前方に集め、剣閃をあっさりと受け止める。
――――これでも無理か……。だが―――――
「シャディ、今だ!」
「――――紅蓮の業火、すべてを燃やせ!」
大きく後ろに退いたところに、シャディの繰り出した特大の炎がレイナーを襲い、大爆発を起こした。
さすがに防ぎきれなかっただろう。これなら攻撃は通るはず。
しかし、炎の中を動く一つの影。
一瞬で炎は闇に飲み込まれかき消された。
そして、姿を現す。
――――これでも駄目か…… しかも無傷。
「正直がっかりだよ。この程度だとはな」
レイナーは先ほどまでとは比べ物にならないほどの闇を作り出す。そして、それは徐々に広がり迫ってくる。
分かっていたが、ここまで差があるとは……
「リメリアさん……、私に案があります」
「どうした?」
「この力差ではレイナーさんを倒すどころか傷一つ負わせれません。だから……、今から全魔力をぶつけます。なので――――」
「分かった。私に任せろ」
彼女の言おうとしている事は全て聞かずとも理解した。それに――――
「私もやられっぱなしというのは癪だからな」
シャディは後ろへ下がる。シャディが魔力を込め終わるまでの間は命に代えても喰い止めよう。
剣を構え、刀身に意識を集中した。
「いくぞ、アシュケロン……」
そう呟いた。剣に力を込めると、剣は赤いオーラを眩しく放つ。
刀身は燃え盛り、実態のない炎のようなものとなっていた。
迫る闇に踏み込み、剣を思い切り振るった。
振るった一撃は、さきほどの剣閃とは比べ物にならないほどの巨大な衝撃波となり、炎を纏いながら、迫る闇を燃やして切り裂く。
そして踏み込む――――
レイナーに迫り、刃を振り下ろした。
纏った闇の防御を物ともせずに刃はレイナーに向かう。
よし、いける!
――――しかし、刃は鈍い金属音を鳴り響かせて弾かれた。
一体何が!?
「かの魔竜を倒したと言われる武器、魔剣アシュケロンか……。だが、残念だったな。俺の剣も同類だ」
レイナーの右手には剣が握られ、その剣の刀身は漆黒に包まれていた。
「ネイリング。君の竜殺しと同じだよ」
レイナーはその場で剣を一太刀振るう。
剣から振るわれた闇の剣閃――――
反応できずにその場に立ち尽くす。
それは轟音を上げ、地面をえぐりながら突き進み、爆発を起こす。
――――しかし、それは直撃することはなかった。
いや、わざと狙わなかったのだろう。それははっきりとわかった。
「闇を切り裂いたことは褒めてやろう。だが、今の俺を誰だと思っている?」
さっきとは比べ物にならないほどの威圧感――
「俺は魔王だ」
睨まれるだけで折れてしまいそうなほどの殺気。
そして、レイナーの頭上に闇が集まり、それはやがて巨大な球体へと変わる。
「なっ!?」
こんな巨大な球体を撃たれたら――――
「リメリアさん、お待たせしました」
シャディの体からほとばしる白い稲妻。
「伏せていてください」
シャディの腕から全魔力の籠った、白い閃光が放たれる。
それと同時に闇の球体も打ち出され、二つは衝突――――
やがてそれは大きな爆発を起こした。
ものすごい突風――吹き飛ばされないように必死で地面にしがみつく。
街を飲み込むほどの爆発――――
やがてそれは収束する。
何とか生きている……。立ち上がり、辺りを見渡した。
そこには座り込むシャディの姿が見え、慌てて駆け寄った。
「シャディ、大丈夫か?」
「大丈夫です……、ただ、魔力が空で力がでないだけです……」
そう言って座り込んでいた。
「よくやってくれた。すごかったぞ」
これだけの魔力を放出したんだ。体への負荷も相当なものだろう。
しかし、これほどの攻撃を受ければ、いかに奴といえども――――――
瓦礫を吹き飛ばし、それは立ち上がった。
「――――な!?」
その姿を見て驚愕した。多少の傷は受けているとはいえ、先ほどの攻撃でも致命傷とは程遠い。
「さすがに今のは厳しかった。魔王の力を解放していなければ死んでいただろうな」
シャディの全魔力を使ってこの程度――
「――――ということだ。お前らにも死んでもらおう。そうすれば、あの小僧もさぞ、ショックを受けるだろう」
「ほざけ!」
――――とはいえ、シャディはもう戦えない。それにこれほどの相手だ。気を抜けば、足すらもすくんでしまいそうなほど圧倒的な強さ。
「どうした? 逃げたいなら逃げるがいい。まぁ、逃がさないがな」
私が負ければ、シャディとツヴァイが危ない。それにこの男は平然と人を大量に殺めた。絶対に許すわけにはいかない!!
「貴様を倒さねば、二人に危害が及ぶ――」
アシュケロン頼む――――二人を守る力を!!
生命を燃やして――!
全の力をアシュケロンに込め、地面を思い切り蹴り、速度をブースト――
そして、大きく振るった一振りが自分を巻き込み、巨大な爆発を起こした。