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不可死の魔王  作者: ネコノ
第一部「不可死の魔王」
16/30

6-1 「魔王ツヴァイ」

 


                   ―――Shaddy side―――



 部屋の外から聞こえる騒がしい音に目を覚ます。

 ベッドからゆっくりと体を起こし、辺りを見渡した。

 ここは……、宿? それに体がやけに重い……。

 

 ようやく思い出す。

 私達、魔王の指輪と探しに行って……、その後、私……、帰ってきて疲労からそのまま寝ちゃったんだ。

 

 部屋には私一人。ツヴァイさんとリメリアは出かけているのかな?

 

 ふと、時計に目が行く。

 そんなに時間は経っていない。

 静かな部屋をしばらく眺めた。

 ちょっと部屋が暑いかな。

 

 立ち上がり、窓を開ける。

 密閉された部屋に一気に空気が流れ込んだ。

 その新鮮な空気を肌で感じ、大きく深呼吸をする。

 

 眠気も覚め、夜景を眺める。窓から見える人影。

 男の人……、ツヴァイさん? ううん。あれは――――――


 見知る人物を見つけ、慌てて部屋を出て、後を追いかけた。

 その人は宿をでてすぐの広場に立っていた。


「レイナーさん」

 すっかり人通りのない広場。そこにレイナーは物思いにふけるかのように、何かを見上げている。


「シャディ……か」

 レイナーはこちらに気づき、視線を落とす。


「あの……、ありがとうございます」

「なにがだ?」

「いえ、その……、今日助けてもらったので」

「いや、気にするな。たまたまだ」

 あの時、レイナーさんが現れていなかったら、おそらく私たちは……。


「シャディ。君は理不尽なこの世界をどう思う?」

「どう…………とは?」

「この世界は入った瞬間、その者の運命はほぼ決まってしまう。その者の大半はあらがえずに全うするしかない」

 魔王や敵プレイヤーが瞬時に頭によぎる。


「それにだな。もう現実の感覚がないのだよ」

「それはどういう――――」

「1週間に1日だけ現実に戻れる。だが今の私にとっては曖昧なものだ。現実は今の私にとって夢みたいに思えてくる」

 レイナーさんの言いたいことは良く分かる。この世界にいる時間に比例して、どんどん私たちを浸食してくるのは感じていた。


「この世界で人を手にかければ現実で死ぬ。それは倒すではなく、実際に殺すということだ。現実ならそれはできないだろう。モラルや法律もある。だが、私はこの世界なら迷わず人を殺せるだろう」

「………………」

「それももうすぐ終わる」

「レイナー……さん?」


 いつもの厳格でいて、やさしいレイナーさんではないことに戸惑った。

 そして、彼の手に握られていたものに気づく。


「レイナーさん……それ…………」

 魔王の指輪……。ツヴァイさんが持っているはずのものを、なぜレイナーさんが持っているのか分からなかった。まさか――――


「ツヴァイさん達は……、どこ……ですか?」

「そう怖い顔をするな。俺は何もしていない」


 レイナーは指輪を空にかざして何かを呟く。


 やがて、指輪から闇が溢れだし、レイナーを包みこんだ。


 指輪から解放される膨大な魔力。封印が解かれたのだと理解した。でも――――


「なぜ、レイナーさんが封印を……」

 やがて闇はレイナーの体内に入り込み消えた。


「簡単な事だ。初代魔王アインは私が封印した」

「れ、レイナーさん……、何を言って――――」


 急に聞かされた事実に状況が飲み込めずに混乱していた。

 レイナーさんがお兄ちゃんを!? な、なぜ…………。


「魔王の定義は何だと思う?」


 定義――――


「お前が来る前の話だがな、魔王軍を裏切り聖騎士軍に入ったやつがいた。だが、自分で裏切ったからと言って、役職が消えるわけじゃないのはお前もわかるだろう?」

 魔王をやめたと宣言しても魔王はやめることはできないことは誰もが分かっている事だった。


「魔王軍を抜けたとしても魔王を殺すことはできない。敵キャラクターとして配置されたわけだから当然のことだ。だが、そいつは裏切り、再び顔を合わせた時は敵となっていた。そして、魔王アインに傷を負わせた。これはどうしてだと思う?」


「………………」


「単純にそいつは職業が変わっていた。何が起こったのかは俺も知らん。何かのイベントがそうさせたのか、はじめからそういう筋書きだったのかもしれない。だが、私にとってそれがこの世界の抜け出す一部の望みとなった」

 所謂、転職イベントと言えばいいのだろうか? そんなものがあるなんて考えたこともなかった……


「まぁ、あの当時、私が魔王を倒せる立場に立てたとしても、殺すことはできなかっただろうな。あいつはそれだけ強かった」

 兄の強さは常軌を逸していた。


「そんな時だ、魔王の指輪の存在を知ったのは。伝承では、どんなものでも魔王を封印して打ち倒すことができた――と書かれていた。これほど好都合なものはないだろう?」

 

「奴をだまし、あの遺跡で魔王アインの力を封印することに運よく成功した。そして、無力となった奴を手にかけ、晴れてクリアのはずだったんだがなぁ」


 レイナーは大きくため息をつく。


「私はアインを殺した。しかし、何も起こらなかった。後から調べて分かったんだが、魔王そのものを吸収する指輪だったらしい」


 レイナーさんが……兄を……。気がつくと手は震えていた。必死に怒りを堪える。


「兄は……指輪で……」


「あぁ、魔王アインは指輪でただの人に戻った。うざいことにあいつはとっさに悪あがきをしやがった。力を奪い取られる寸前、魔王にしか解けないような封印を指輪にこめやがって……」


 レイナーさんがここにいる理由。おそらく、封印を解ける人物を待っていたんだ……。


「でも……、どうしてですか? レイナーさんはお兄ちゃんとあれだけ仲良かったじゃないですか!」

「仲が良い? 笑えない冗談だな。俺たちは立場上、一緒にいただけだ。それに、あいつの事は大嫌いだ」

 レイナーさんは恐らく本心だろう。言葉に殺意がこもる。

 会話の流れから、彼の目的は明白だった。


「目的は……、ツヴァイさんですか……?」


「あぁ、そうだ」

 彼ははっきりと答えた。


「なぜですか……。レイナーさん……」

「魔王を倒さなければ終わることはない」

 彼を睨みつけた。


「ツヴァイさんに手を出させません。それに――、あなたは魔王を殺すことはできない」

「シャディ見落としていないか? 魔王の指輪を解放した今なら殺せる」

 魔王の指輪を解放――――


「私は魔王アインの力を得た。今の私は魔王の力と立場を得たのと同義だ」

 レイナーの体からまがまがしく黒いオーラが溢れだす。


「それにだな、魔王もその仲間も吐き気がするほど嫌いだ」

 レイナーは手を建物に向けてかざす。

 莫大な魔力の放出。それは、一瞬にして街は火に包みこみ、大爆発を起こした。


「なんてことを……」


 まだ街にはツヴァイさんやリメリア、それだけじゃなくてもっと人が……。それにこの魔力……。血の気が引いた。

「シャディ。絶望に満ちた良い顔だ。アインに見せてやりたいな」

 レイナーの手は私の方へと向き、手のひらからは魔力を感じる。


「君の死は魔王ツヴァイの絶望を生むだろう。彼の泣き叫ぶ顔も楽しみだ」


「もう悪趣味を通り越して完全に外道ですね……」


「何とでも言え。私の憎しみはこの程度では済まない」

 すさまじい魔力が凝縮していくのが分かる。

 やがてレイナーの手から―――――

 

 ツヴァイさん、リメリア……、ごめんなさい……


 死を覚悟した。しかし、レイナーの魔法は大きく逸れ、違う場所に着弾する。

 何が起こったのか分からなかった。


「大丈夫か?」


「リメリアさん?」


 リメリアが直前でレイナーに剣を振るって、魔法を妨害していた。

 しかし、刃はレイナーに届かず、寸前で体からにじみ出る闇が止めていた。


「貴様は騎士団の人間だろう? これは我々の問題だ。手を出さないのであれば、逃してやる」

「我々の問題? 街にこれだけのことをしたのはあなただろう? それにだな……」

「私の友に危害を加えるすべて敵だ!!」

「魔王軍でもないのに友か……、ふふ、くだらないな……」


 レイナーから溢れだす闇は刃の形となり、リメリアを襲う。

 リメリアは後ろへ飛びそれを避けた。


「リメリアさん。ツヴァイさんは?」

「む? シャディと一緒じゃないのか?」


 ツヴァイさんはどこへいったのだろう? レイナーに捕まっていたのなら、私たちに接触する必要はないはず……。


「なんとなくだが、恐らく無事だろう。それよりも奴だ」

「そ、そうですね……」


 勝てるとは思えなかった。だけど――――、どのみち逃げ切れない。戦うしか道はなかった。


「シャディ、いくぞ!!」

「はい!!」


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