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不可死の魔王  作者: ネコノ
第一部「不可死の魔王」
13/30

5-2 「魔王の指輪」



 木造の建物が大量にそびえたつ街。中央には巨大な木がそびえたつ。


「ここがフヴェルゲルミル?」


 エリックと出会ってはや1日。ようやく目的地に到着した。

 道中はエリックがいたおかげもあって、戦闘は非常に楽なものだった。

 まぁ、シャディの機嫌はずっと悪かったけど……


「ありがとな。おかげで助かった」

「こちらも助かった所だ。礼を言うぞエリック」


 リメリアとエリックだけで大抵のモンスター片付けていたからなぁ……。意外とこの二人は気が合うのかもしれない。


「おう。俺はもう行くわ。じゃあな」

 その場を立ち去ろうとした時、声をかけた。


「エリック!!」

「ツヴァイ、どうした?」

「ありがとう」

 感謝を込めてお礼を言った。偶然だったが、結果的に出会えてよかったと思う。


「あぁ、また会おうぜ」

 そう言って手を振り、エリックは立ち去った。


「さてと、別れを名残惜しむのもいいが、私たちにはすることがあるだろう?」

 釘をさすようにリメリアが言う。そして、今置かれている現状を思い出した。

 所持金は3人合わせてほぼ0に等しい。このままでは、野宿どころか飯抜きもありえる。


「お金を稼がないとね」

 大きくため息をついた。これは指輪の手掛かりを探すどころじゃなかった。


「とりあえず、ギルドへ行こうか」

 宿代ぐらいは稼がなければ野宿確定だ。

 3人でギルドへ向かう。


 向かう途中で出会った黒マントの男を見てシャディが驚嘆した。

 年齢は30ぐらいだろうか? 熟練者のような貫禄。


「シャディ、どうしたの?」

 シャディは震えていた。そして


「レ、レイナーさん。無事だったんですか!?」

 そう言った。男はシャディの声に気づき振りかえった。


 そして、男の表情は次第に緩んだ。


「シャディか? 久しいな」

 口ぶりからするとシャディの知り合いだろうか?


「音沙汰もなかったので、私はてっきり……」

「悪いな。どうしても大事な用事があってだな。城にはもどれなかった。それよりあいつらはまだ元気か?」

「それが……、皆城をでていきました」

「そうか。お前にも苦労をかけたな。ところで―――」

 レイナーはこちらに視線を向けた。シャディもそれに気づく。


「あ、紹介します。こちらは今一緒に旅をしている現在魔王のツヴァイさん。そして、騎士のリメリアさんです」


「ほぉ、こいつが現在の魔王か」


 まじまじと眺められ、鋭い視線にびくついた。貫禄のオーラ。じっくりと見られるだけで緊張してしまう。

「リメリアとツヴァイさんにも紹介します。こちらはおにぃ……、初代魔王の右腕だったレイナーさん。暗黒騎士です」

 暗黒騎士…………なんだか強そうだ。


「暗黒騎士か。手合わせ願いたいものだ」

 リメリアは彼を睨みつけていた。


「ちょ、ちょっとリメリア……」

 リメリアの挑発に慌てた。


「ははは、機会があったらこちらよろしく頼むよ」

 軽く笑いながらリメリアの挑発をかわしていた。なんというかこの人は大人だ。


「ところで――――君たちはこんな辺境の地に何しにきたのかな?」

 当然の疑問だろう。おそらくチャットは聞いているはずだ。支配すると言った魔王が何食わぬ顔で旅をしているのだからさぞ驚きだと思う。


「それが――――――」

 

これまでの経緯を話す。といっても魔王の指輪関連の話だが。


「君もか…………」

 意味深なレイナーの言葉。


「君もって……どういう……?」


「実はアイン、先代の魔王もその指輪を追っていた。それはあるダンジョンにあるんだが、かなり危険なモンスターや罠が多くてね。奴ほどの魔王でも手に入れることは叶わなかったほどだ。おかげで俺はここにいるんだがね」

 などと笑っていた。そっか、シャディのお兄さんもここに…………


「あまりお勧めはしないがね。どうしてもいくつもりかな?」

 先代の魔王でも手に入らなかったほどの高レベルダンジョン。でも――――

「はい……」

 迷うことなどなかった。これしか今は脱出する手掛かりがない。


「まぁ、奥に行けば行くほど強くなるダンジョンだから、入口付近はさほど問題じゃないだろう。自分の目で確かめてみるといい。いざとなれば私も駆けつけるよ」

 彼も一応心配してくれている。


「ありがとうございます」

 レイナーに深々と頭をさげた。


「ツヴァイ君。シャディをよろしく頼むよ。俺にとっても妹のようなものだ」

「はい!!」

 実際はその真逆でシャディに守られている。なんてとても言えない……。

 そして、レイナーが去るのを見送り、ギルドへと向かった。


「なんだと!! なぜ私がクエストを受けられない!?」

 リメリアはテーブルを大きな音を立てて叩いて抗議していた。


 以前にも見たような光景。


「ねぇちゃん、悪いが、ギルドにとってもクエスト完遂は信用に関わるんだ。どこの誰とも言えない新参者に受けさせるわけにはいかない」

 やっぱり……。おそらくどこのギルドもこのようなものなのだろうか?


「どうしてもって言うならルーキーとして迎え入れてやるぜ?」

「ふざけるな!!」


 ルーキーとしてというのは至極普通だが、リメリアのような熟練者にとっては屈辱なのだろう。ルーキーの仕事はせいぜい探し物の手伝いや皿洗いといったもので、時給銅貨5枚がいいところである。一泊一人あたり銅貨40枚するこの街の宿泊費には到底届かない。


「ずいぶん騒がしいけど。何事?」

 後ろから声をかけられる。やる気のない声。振りかえると、その姿に見覚えがあった。さきほど別れたエリックだ。


「エリック?」


「いよう! ずいぶんはやい再会だったな。それより何か揉めているみたいだがどうした?」

「それが――――」


 場所を移し、エリックにギルドでの事を話す。


「なるほどな。まぁ、大抵のギルドはいきなりでかいクエストはやらせないだろうなぁ」

「しかしだな――――!!」

「まぁ、名が通ったような奴なら別だがな。何か肩書とかあるか?」

 まさか、魔王…………なんて肩書を言うわけにはいかないよね。


 それよりも今夜どうしよう……

 このままではダンジョンどころではないよね。


「しかし、困りました……」

 シャディも悩んでいた。シャディはほとんど旅をしたことがないらしく、山道での野宿でも抵抗を感じていたほどだ。

「売るものもないし……」

 3人で大きくため息をつく。


 その時だった。


「別に宿代ぐらい俺がだしてやってもいいぜ?」

「え――――!?」


「ただし、明日付き合ってほしい場所がある」


 やっぱり。とはいえ当然か。

「とりあえず、話を聞こう」


 食堂へ行き、食事をとりながら話を聞いた(もちろん食事代はエリックに貸しだが)

「――――っということだ」


 その交換条件は、洞窟についてきてほしいというものであった。なんでもこの街の近くに隠しの遺跡があって、そこに大量の財宝が眠っているとか、いかにも金の亡者であるエリックらしい。

 本来、面倒くさそうな依頼だが、その遺跡の事を聞き、受けようと思った。


 これは偶然だろうか? 遺跡の名は――――


『魔王を封印せし遺跡』


 言い伝えだと初代魔王を封印した墓ということだった。

「分け前は7対3でどうだ? 俺は7、お前らが3だ」


 ただの財宝発掘なら受けるはずもない条件。しかし、僕たちにとって破格の条件だった。宿、食事代を出してもらって、魔王の指輪を探しに行ける。だが、レイナーさんが言うには相当危険な場所のようだった。3人で相談して、いろいろ論議したが、結局、食事と宿の欲に勝てず


「その条件を飲もう」

 という結論に至ったのだった。


「おーけい、じゃあ明日の朝9時に村の入り口集合だ。よろしく頼むわ。あとこれだったな」

 エリックの手から投げられる物体。それを手でキャッチする。

「これは鍵?」

「あぁ、ここの2階の宿の鍵だ」

 鍵がひとつ――――


「――って、ええええええ!?」

 思わず驚愕した。


「んだよ。約束だったろ?」

「だって、一部屋しか……」

 シャディとリメリアは女性だ。そんなところで寝られるわけが……


「まぁ、約束は果たした。あとは何とかしろ」

「そんなぁ……」


 食事を終え、大きくため息をつく。結局僕だけ野宿かな……

 

 部屋へ向かい、ドアをノックする。

 シャディの「どうぞ」の一言を聞き部屋に入った。


「あれ? リメリアは?」

 部屋にはシャディ一人。彼女は窓をあけて夜風を浴びながら外を眺めていた。


「リメリアさんならさっき、どこかへ出かけて行きました」

 散歩だろうか? そういえば前の街でも散歩にちょくちょく出かけていた。


「そ、そっか」

 シャディは外の景色を眺めていた。彼女のエルフという姿が際立ててより美しく映った。


「ツヴァイさん。夜って幻想的ですよね。街の雰囲気は昼間とは違う」

 彼女の横へ行き、一緒に外の景色を眺めてみた。

 街の明かりが反射して、中央の大木を照らしていた。こんな美しい夜景は見たことはなかった。

 それに見入ってしまい、しばらく眺めていた。


「ありがとうございます。こんな景色を見られたのはツヴァイさんのおかげです」

「僕は何もしていないよ?」

「いいえ、ツヴァイさんが出て行かなければ、きっと見ることはありませんでした。大変な旅ですけど」

 彼女を危険な目に遭わせないために旅だったはずが、結果的にシャディに迷惑をかけてしまっていた。


「うっ……、ごめん」


「ふふふ」

 しかし、怒っている様子もなく、彼女はにっこりと笑っていた。


「私、城をほとんど外に出たことがなかったんです。ずっと兄にすがっていて――、そして、兄が死んでからもずっと……、せいぜい近くの街に物を売りに行く程度でした」

 心なしかすごく寂しそう顔をしていた。やっぱりお兄さんの事を今でも悔やんでいるに違いない。


 再び静寂が訪れる。幻想的な夜景をただ眺めながら時間が過ぎた。そして


「シャディ、指輪を手に入れよう。そうすれば君のお兄さんも生き――――」

「それは無理です」

「どうしてそう言いきれるの?」

「兄は現実世界で死んでいます。たとえ、封印から兄が復活することがあってもそれは兄ではありません」

 そうだった。この世界で死ねば、現実世界でも死ぬ……。彼女は兄の死を目の当たりにしていた。


「そっか。その……ごめん」


「いいえ、気にしていません。こちらこそ、気を遣ってもらってありがとうございます」

 彼女が強がっていることは明白。心が痛かった。しかし、何も言えずただうなづく。

「うん……」


 しばらく、沈黙が続いた。

 

「そうだ。これを貸してあげます」

 首にかけられた十字架の首飾り。彼女はそれをはずし、手渡してきた。


「これは?」

「兄からもらったお守りみたいなものです」

 この世界でお兄さんにもらったものだろう。おそらくは形見の品……


「こんな大切なもの、借りられないよ!!」

「いいんです。それに、ツヴァイさんは危なっかしいから」


 うっ……。確かに僕が一番迷惑かけている。

「ははは」

 笑ってごまかすしかなかった。

 それを見て、シャディはにっこりと微笑む。


「じゃあ、お言葉に甘えて借りるね」

 そう言って、首から掛けた。


「魔王の指輪見つかるといいですね」

「うん」

 ただ静寂な時間を二人で眺めていた。


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