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闇から光へ

作者: うみちか

目がほとんど見えない少女と、戦争で国を失った騎士は旅に出る。

目的は彼女の目を治す事。最初はそれだけだった。


なお、この話は勇者や魔王などが関わる大きな話ではなく

何処にでもいるような旅人の話です。


世界は主に4つの大陸に分けられる


その中で最も大きな大陸は、イストロン大陸。

その大陸内には、数国の国が互いに持ちつ持たれつの関係を築き上げ平和を維持していた。

しかしその平和は5年前に確立したもので、それまでは国同士の争いが絶えず

多くの死者を出していた。


そんな中、戦場で精霊を駆使して戦いに終止符をもたらした国がある。名はルフォル大国。

他の国々に比べ小さなこの国には、戦力となる兵士が少なかった。

代わりに、地形の関係からか山々に囲まれた環境の為か、精霊の力が強いとされていた。

少しずつ、小国から大国へと勢力を上げていったのも精霊のお陰によるものだろう。


終戦後、精霊は神聖な存在とされ崇められ、ルフォル大国は大陸一の精霊国として名が知れ渡った。





「リンも一緒に城に行こうよ~。僕が案内するよ!」


ここルフォル国の国境より村4つ分程離れた場所から、子供特有の甲高い声が聞こえる。

今現在、甘えた声を出して少女の後ろから抱きついて離さない少年はシェルという。

リンと呼ばれた少女の隣には騎士らしき男も一緒で、リンから離れようとしないシェルに

呆れた視線を送っている。


「シェル君、気持ちは嬉しいんだけどね・・」

ちなみに、このやり取りは3回は繰り返していると思う。


シェルの身長はリンの胸辺りまであり、容姿は短い銀髪に淡い緑色の瞳をして

利発そうな顔立ちをしている。将来女性から騒がれる事になりそうだ。

服は中世の貴族に近くスカーフが襟元に折り込まれ、宝玉をあしらった装飾品を

首から下げていた。


一方のリンは肩まである薄い水色の髪に漆黒の瞳、年は15、6歳に見えるが

その落ちついた仕草や話し方をみると、もっと上なのかもしれない。

リンは、目尻を下げて困った様に隣に居る騎士に視線で助けを求めた。


騎士らしき男は、肩から赤黒いマントを羽織り鎧等の装備はない。

腰に剣が吊るされているだけだ。髪は赤茶色に近く、双方の瞳も同様に赤い

そして強面だと思わせるキツイ眼光と、不機嫌そうに曲がった口元からして

性格は陽気ではなさそうだ。


視線に気づいた騎士は、軽く溜息をもらす。


「おい、あんまり困らせるなよ。俺達は急いでるんだ」


国に続く道とは反対の方向を指し示した騎士に、シェルはリンに向けていた表情が

嘘のように冷たい目で騎士を睨みつける。


「お前には聞いてない、ひとりで先に行けばいいではないか」


「あ、こら。お前じゃなくて、レオンだよ。仮にも年上なんだから」


リンはシェルの方へ振り返ると、シェルの頬に手を添えて目線を合わせて注意した。

何事にも礼儀を忘れちゃ駄目だよ?そう優しく促すと、シェルはバツが悪そうに

顔を伏せながらも、「ごめん」と僅かに聞こえる声でリンに謝罪する。


こいつ・・謝るならこっちだろうが。

頭を撫でられ嬉しそうに年頃の笑みを浮かべるシェルにレオンは毒づく。


押しに弱く、情にもろいリンの事だ。恐らくは城まで同行するに違いない。

まるで姉弟のように仲睦まじい2人のやり取りに、何度目かの溜息を吐き出しながら

レオンはこの先の旅を思い頭を抱えた。


リンと手を繋ぎ、先に歩き始めたシェルは、考え込んでいたレオンへ振り向くと


「何をしている、さっさと行くぞ。言っておくが僕の足手纏いにはなるなよ」


そう言ってのける。随分と教育が行き届いているらしいな。


‥このクソガキ・・


「ガキじゃない!僕はシェル=エレメリュウト=ルフォルって言う立派な名がある!」


今の俺の呟きが聞こえていたのか、シェルは気にしていたらしく顔を赤くして怒鳴った。

そう、この子供はあのルフォル大国の第2皇子でもある。


元々、リンとレオンは2人旅だった。

旅をする道中、他国の刺客に攫われた皇子を偶々居合わせた2人が助け出したのだ。


精霊使いでもあるシェルは、城へ無事だと伝える為伝達を精霊に頼んだ。

数日して帰ってきた精霊によれば、迎えを国境付近に待機させておくとの事。

お礼がしたいので、是非とも本国へと招待したい。そう書かれたいた。

そして今いる場所は国境を越えた村のふもと。


レオンは、さっきから視界の端に映る王族の警備兵が気になった。

わざわざ俺たちが本国にシェルを送らなくても大国には優秀な部下が大勢いるらしい。

だから送ってやる必要はないとリンに言ったのだが、シェルに気に入られ丸めこまれた。

それに、嬉しそうなリンを見ると何も言えないリオンだった。


和気あいあいと(レオンを除く)雑談しながらルファル国へと向かう一行。

賑やかになったはいいが、シェルとレオンは仲が悪く2人だけだと大体が険悪な

ムードを漂わせていて会話も少ない。どうやらシェルが一方的にレオンを敵視して

いるようだ。俺が一体何をした。



ピィーーッ!

聞きなれた高い鳴き声に、レオンは思考を戻して上空を見上げれば

青い鳥が円を描くように空を舞っていた。


「あ!ヒューイが帰ってきたんだね」


「あぁ」


鳴き声にパッと嬉しそうに顔を綻ばせたリンは袋から肩当てを取り出して

それを右肩に装着する。

着けたと同時に、上空を飛んでいたヒューイは、リンの肩当てに羽を

バタつかせながら降り立った。


「おかえりー、ヒューイ」


ヒューイと呼ばれた鳥は、鷹に良く似ている精霊の一種で色は全体的に青だが羽の

所々に黄色い羽が混じっていてとても綺麗なのだ。

ヒューイは撫でてくれと言わんばかりに親に甘える仕草で頭をリンにすり寄せる。

可愛い仕草に胸踊らせつつ、リンは左手を上げて何度か探る動作をすると

手に柔らかい羽の感触が当たり、それをゆっくりと撫でていく。


リンは、目がほとんど見えていない。


完全に見えない訳ではないが、色は既になく、世界は全て薄暗く染まっていた。

夜になると視界は深い闇が支配し、音だけを頼りに今まで過ごしてきた。


2人の旅の目的は、リンの目を治す事。

情報を頼りにこの国まで来たがほぼ手掛かりはなかった。


リンは強い。

表情が豊かで笑っている顔がほとんどだが、時折見せる切なげな瞳を

レオンは忘れられない。


レオンは昔、リンに命を助けられた。戦争に敗れた国の騎士は深い傷を

負いながら懸命に森まで逃げ込んだ。

目が覚めると、拙いながらも一生懸命手当しているリンと出会った。

そして恩を返したい。最初はそう思いリンを旅に誘ったが数年が経つ頃には

後悔し始めていた。


この旅はただの気休めで、時間を無駄に浪費しているだけではないだろうか、と。




「後半日くらい歩けば、国境にたどり着く。夜明け頃に出発するぞ」


レオンの言葉に、2人は頷く。

夕暮れ時、村を抜け後1つ山を越えれば国境という所まで来たリン達は森で

野宿する事になった。そして食事が終わる頃になると、シェルは疲れたのか

リンに寄り添うように倒れ、寝息を立てていた。


「‥寝ていれば可愛いんだがな」

あどけない寝顔に苦々しく呟いたレオンは、静かに薪をくべる。

リンは自分のマントをシェルの背中にそっとかけた。


「ここ数日、夕食前にレオンが稽古付けてたから。フフッ、悔しがってたねシェル君」


「あぁ。立ち筋はいいが、無鉄砲に突っ込んでくる癖があって困る」


何度も再戦を求めて奮起するシェルは、やはり男の子だ。

負けて悔しそうに、眼に涙を浮かべ泣くのを耐えるシェルを思い出したレオンは

もし子供が居たら父親はこういう気分なんだろうなと、ふと思う。

レオンは剣の鞘を抜き取り、専用の道具で丁寧に手入れをしながら続ける。


「・・長居してよかったのか。実際は望む情報、なかったんだろ?」


「それがね、シェル君が城の地下に長生きしている精霊が居るって聞いたの。

 その精霊は色んな知恵を授けてくれるそうなの。・・だから私の目は絶対に治る

 って言ってくれて・・・・・とても優しい子だね」


少し泣きそうな笑みを浮かべ、リンはシェルの癖のある銀髪を優しく撫でる。

だからあの時、俺達を引き留めていたのか。


「治るに決まってんだろ。何諦めモードに浸ってんだっ」


レオンは手元にあった長い棒をリンの頭上に軽く落とすように叩くと

コン、と小気味いい音がした。


「ぃたっ!・・そう言う訳じゃないよ。うぅ、木で叩いたわね?」


「いや、鞘で」


理不尽だ。と呟きながら頭をさすり小言をもらすリンを気にするでもなく

手入れを続ける。どうやらこのやり取りは初めてではないらしい。



「もう寝ろ。明日は早い」


「うん。でもこの国に来て良かった。だってシェル君やヒューイに会えたんだもの」


実は、誘拐事件やヒューイとの出会いはどちらもリンが関わった結果だ。

厄介事を引き受ける体質なのか、人を惹きつける何かがあるのか。リンはまず疑う事を

知らない。そこがリンのいい所の一つではあるが、せめて警戒心は抱いてほしい。


「お前その何でも受け入れる緩んだ性格何とかしろよ。‥ったく、その内シェルみたい

 なのがどんどん増殖するんじゃねぇか?」


からかいを含んだ憎まれ口を叩きつつ、レオンは言い返すであろうリンを見ると

予想に反してリンの表情は、暖かく包み込むような優しい笑みを浮かべていた。


いつもの底抜けに明るく笑う笑顔とは違うそれがあまりに綺麗で、思わずレオンは

見惚れてしまう。リンは、目の前のレオンが居るであろう場所をじっと見つめ静か

に口を開いた。


「あのね・・・レオン、いつも助けてくれてありがとう。レオンには悪いけど

 私ね、今凄い幸せ。逆に怖いくらい・・こんなに幸せでいいのかなって。

 時々目の事なんか忘れちゃうくらい、ちっぽけに思えるの。・・あ、でも

 諦めてる訳じゃないからね?治ったら今度は私がレオンに守る番。嫌がってでも

 世話しに行くから。・・・あなたに会えて良かった。だから、ありがとう。」


言い終えたリンに、レオンは瞬時に顔に熱が集まるのを感じた。顔を伏せて

片手で顔を覆い隠す。この時ばかりは、目が見えなくて良かった。

こんな情けない顔は見られたくない。


「礼なら目が治ってからいくらでも聞いてやる・・・」


「・・・見えなくても今、レオンが照れているのは分かるよ」

「さっさと寝ろ!!」


からかわれている事に気付いたレオンは、咄嗟に怒鳴り声を張り上げてしまった。

その声に、ビクッとシェルの体が反応し不機嫌で眠そうな半眼をレオンに向け、2人は目が合った。


『・・・・・』


この後、寝起きで機嫌が悪いシェルと、動揺がまだ抑えられず赤い顔をしたレオンの

口喧嘩は、リンが止めるまで続いた。




リンは思う。私は本当に恵まれ過ぎているのではないだろうか。

彼に会う前、視界いっぱいに広がるのは灰色と黒の世界だった。

それでも目を治そうとも思わず、そういう運命なのだと軽く受け止めてきた。


彼と出会ってから、自分の目から見える世界を色で表すなら、白。

レオンは私に光を与えてくれた。


レオンとの旅路。彼は私に色々な事を教えてくれた。

それからの私は、まるで視界に色が付いてきたかのように

心が弾んでいくのが分かった。


旅をしてると、私の中で色んな色が生まれる。それはとても心地よくもあり

悲しい事も、嬉しい事も、たくさんの色があるけどどれも明るくて暖かい。





「何、ボケっと呆けた面してる。準備できたか?」


「わっ!はい、できました!!」


夜が明けて太陽が昇り始めた頃、身支度を整えたレオンは石の上に座って身動きせず

にどこか遠くを見つめているリンに話しかけた。突然話しかけられ、リンの上半身が

ピンっと反り返る勢いで真っ直ぐ伸びた。


「なんだその返事。ほら」


レオンはその過剰な反応の仕草に、可笑しそうに口を緩ませリンに手を取って立たせた。

ちなみにシェルはヒューイを連れて近くの川で飲み水を確保しに行っている。


「もう、自分で立てるのに・・。夜以外はボヤっとだけど見えるんだから」


「それは悪かったな」


不貞腐れた子供みたいに拗ねるリンに、悪びれた様子もなく答えるレオン。

いつものやり取り。そこには2人の今までの旅で摘むんだ絆が見えた気がした。








その後は、リンの目が完治したのかどうかは分からない。

ただ1つだけ言えるのはこれからの旅路の途中、個性的な面々が彼女に集い

更に賑やかな旅になっていくのは少し先の話だ。



三人称の練習用に書いてみました。

書いた後、ほぼレオン視点だったっていう結果に。

そして砂を吐きまくりました。


もっと精進したいと思います。最後まで読んで頂いた人は神様です!

ありがたや~!(土下座)



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