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異世界で参謀総長になった話  作者: 膝栗毛


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4/5

東部戦線

引き継ぎお楽しみください


1

東部戦線への総攻勢準備は、三ヶ月を要した。

全国から部隊が集結する。

戦車師団、十個。

機械化歩兵師団、二十個。

航空部隊、五百機以上。

そして――総兵力、五十万。

「……これだけの兵力を動かすのか」

俺は集結地点の司令部で、窓の外を見ていた。

地平線まで、軍のテントが広がっている。

「参謀総長閣下」

シュタイナーが入ってきた。

「補給計画の最終確認です」

「ああ」

俺は書類を受け取った。

食糧、弾薬、燃料――全ての物資の輸送計画。

「これで足りるのか?」

「計算上は、三ヶ月分です」

「三ヶ月で決着つけないといけないのか」

「はい。それ以上は、国家の経済が持ちません」

俺は深呼吸した。

三ヶ月。

それが、タイムリミット。

「分かった。この計画で行く」

「了解しました」

シュタイナーは敬礼して去っていった。

一人になった俺は――

地図を広げた。

バルトリア王国。

面積は我が国の二倍。

人口も二倍。

国力も――おそらく上。

「……勝てるのか?」

その疑問を、声に出すことはできなかった。

2

作戦会議。

将軍たちが集まっている。

「諸君」

俺は立ち上がった。

「これより、東部戦線総攻勢作戦――コードネーム『業火作戦』の詳細を説明する」

地図が映し出される。

「我が軍の目標は、バルトリア王国の首都、ノヴォグラード」

俺は地図を指差した。

「距離は、国境から約八百キロ。途中には、三つの防衛線がある」

「第一防衛線――国境沿い。敵の主力部隊が展開」

「第二防衛線――中央平原。戦車戦に最適な地形」

「第三防衛線――首都周辺。最も強固な防衛網」

俺は将軍たちを見回した。

「我が軍は、この三つの防衛線を突破する」

「どうやって?」

一人の将軍が聞いた。

「まず、第一防衛線は――電撃戦で突破する」

俺は説明を続けた。

「夜間、航空部隊が敵の後方を爆撃。指揮系統を麻痺させる。同時に、戦車師団が集中突破。敵が反応する前に、防衛線を突き破る」

「第二防衛線は?」

「ここが最大の難関だ」

俺は中央平原を指差した。

「敵は、ここで戦車戦を挑んでくる。我が軍も、全戦車部隊を投入する」

「戦車戦……敵の戦車数は?」

「情報部の推定では、約二千両」

「我が軍は?」

「千五百両」

ざわめきが起きた。

「数で劣っている……」

「だが、質では勝っている」

俺は断言した。

「我が軍の新型戦車は、敵の旧式戦車を上回る。さらに、戦術で優位に立てば――勝てる」

「どんな戦術だ?」

「包囲殲滅戦だ」

俺は地図上に矢印を描いた。

「中央で敵を引きつける。同時に、両翼から回り込む。敵を包囲して、殲滅する」

「……リスクが高い」

「高い。だが、成功すれば敵の戦車部隊は壊滅する」

俺は続けた。

「そして第三防衛線――首都周辺」

「ここは、どうする?」

「包囲する」

「包囲?」

「そうだ。首都を正面から攻めない。周囲を包囲して、補給を断つ。敵が降伏するまで待つ」

「それでは時間がかかりすぎる」

「いや、かからない」

俺は説明した。

「敵は、第一、第二防衛線で主力を失っている。首都に残るのは、予備役と民兵だけ。士気は低い。包囲されれば、すぐに降伏する」

将軍たちは――黙って聞いていた。

そして――

一人の将軍が立ち上がった。

「参謀総長閣下。この作戦――成功率は?」

「……七割」

「七割?」

「ああ。全てが計画通りに行けば、だが」

俺は正直に言った。

「だが、戦争に絶対はない。敵も馬鹿じゃない。必ず想定外のことが起きる」

「では――」

「その時は、臨機応変に対応する」

俺は微笑んだ。

「それが、参謀の仕事だろ?」

将軍たちは――笑った。

「……面白い」

「参謀総長閣下に賛成だ」

「私も賛成だ」

全員が、賛成した。

「では、業火作戦――承認」

3

作戦決行は、一週間後。

その間――俺は、前線を視察して回った。

各部隊の士気を確認するため。

最初に訪れたのは、戦車師団。

「参謀総長閣下、ようこそ」

師団長が敬礼した。

「部隊の状況は?」

「良好です。全車両、整備完了。いつでも出撃できます」

「兵士たちの士気は?」

「高いです。みんな、この戦いに勝ちたいと思っています」

俺は兵舎を見て回った。

若い兵士たちが、戦車の整備をしている。

その中に――見覚えのある顔があった。

「……お前」

「あ、ハルト先輩!」

クラスメイトの後輩、一年生の山田ショウタだった。

「お前、なんでここに?」

「俺も転移したんですよ。で、IDが『戦車兵』だったんで」

ショウタは笑った。

「先輩が参謀総長だって聞いて、びっくりしましたよ」

「……お前、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。訓練、結構楽しかったです」

「楽しい、って……」

「だって、戦車かっこいいじゃないですか」

ショウタは無邪気に笑った。

俺は――複雑な気持ちになった。

この子は、戦争の恐ろしさを知らない。

「ショウタ」

「はい?」

「戦場では、絶対に無理するな」

「え?」

「命が一番大事だ。戦車なんて、壊れてもいい。お前が生きて帰ってくることが、一番重要だ」

「……先輩」

「分かったか?」

「……はい」

ショウタは真剣な顔で頷いた。

「分かりました」

次に訪れたのは、航空部隊。

飛行場には、何十機もの戦闘機が並んでいる。

「参謀総長閣下」

パイロットたちが敬礼する。

その中に――

「ハルト!」

クラスメイトの声。

振り返ると――女子生徒の一人、橘アヤだった。

「アヤ!? お前、パイロットなのか!?」

「そうよ。IDが『エースパイロット』だったの」

アヤは自信満々に笑った。

「訓練でも、トップの成績だったわ」

「……お前、飛行機なんて乗ったことあったっけ?」

「なかったわよ。でも、乗ったら――分かったの」

アヤは空を見上げた。

「私、空を飛ぶために生まれてきたんだって」

「……そっか」

俺は心配になった。

「アヤ、無理すんなよ」

「大丈夫よ。私、死なないから」

「死なないって……」

「だって、ハルトが作戦立ててくれるんでしょ? だったら、大丈夫」

アヤは笑った。

「ハルトの作戦、信じてるから」

「……プレッシャーかけんなよ」

「プレッシャーじゃなくて、信頼よ」

アヤは真剣な顔で言った。

「私たち、全員ハルトを信じてる」

4

作戦決行前夜。

俺は、一人で執務室にいた。

明日――全てが始まる。

五十万の兵士。

その全ての命を、俺が預かっている。

「……重すぎるだろ」

コンコン。

ノック。

「入れ」

入ってきたのは――総統だった。

「総統閣下」

「座っていろ」

総統は椅子に座った。

「明日、だな」

「はい」

「緊張しているか?」

「……してないと言えば、嘘になります」

「そうだろうな」

総統は窓の外を見た。

「結城ハルト。お前に、一つ聞きたい」

「何でしょう?」

「お前は――なぜ、ここまで戦える?」

「……どういう意味ですか?」

「お前は、この国の人間ではない。異邦人だ」

総統は俺を見た。

「それなのに、なぜこの国のために戦う?」

俺は――考えた。

なぜ?

本当に、なぜだろう?

「……最初は、生き延びるためでした」

「最初は、か」

「でも、今は――」

俺は言葉を探した。

「今は――守りたいものがあるからです」

「守りたいもの?」

「クラスメイトです」

俺は続けた。

「みんな、この国で必死に生きてる。だから、俺も――みんなを守るために戦ってます」

総統は――微笑んだ。

「……そうか」

「変ですか?」

「いや」

総統は立ち上がった。

「それでいい」

そして――

総統は俺の肩に手を置いた。

「結城ハルト。お前は、良い参謀総長だ」

「……ありがとうございます」

「明日――勝て」

「はい」

総統は去っていった。

俺は――

窓の外を見た。

満天の星空。

明日――全てが変わる。

5

作戦決行日。

午前四時。

まだ暗い中、全軍が動き出した。

「全部隊、配置完了」

無線が入る。

俺は司令部で、地図を見つめていた。

「航空部隊、離陸準備」

「戦車師団、スタンバイ」

「歩兵部隊、前進準備完了」

全ての部隊が、俺の命令を待っている。

五十万の命が――俺の言葉一つで動く。

「……参謀総長閣下」

シュタイナーが声をかけた。

「命令を」

俺は――深呼吸した。

そして――

「全軍に告げる」

俺はマイクを握った。

「これより、業火作戦を開始する」

「我々の目的は、バルトリア王国の制圧」

「戦いは厳しいだろう。犠牲も出るだろう」

「だが――」

俺は声を張り上げた。

「我々は勝つ。必ず勝つ」

「なぜなら――」

「我々には、帰るべき場所がある。守るべき人がいる」

「だから――戦え」

「生きて、帰ってこい」

無線の向こうから――

「「「了解!」」」

何万もの声が響いた。

「作戦開始!」

6

午前五時。

航空部隊が、敵の後方を爆撃した。

指揮所、通信施設、補給基地――全てが炎に包まれた。

「爆撃成功! 敵、混乱している!」

アヤの声が無線から聞こえた。

「よし、次は戦車師団――突撃!」

地響きとともに、千五百両の戦車が前進を始めた。

敵の第一防衛線に到達。

砲撃。

爆発。

敵の陣地が、次々と破壊されていく。

「第一防衛線、突破!」

「よし、そのまま前進!」

計画通り――いや、計画以上に順調だった。

敵は完全に混乱している。

「参謀総長閣下、これは――」

シュタイナーが興奮した声で言った。

「完璧です!」

「まだ油断するな。本当の戦いは、これからだ」

7

午後二時。

我が軍は、中央平原に到達した。

そして――

敵の戦車部隊と遭遇した。

「敵戦車、二千両!」

「こちらも全戦車部隊、展開!」

地平線の彼方まで、戦車が並ぶ。

史上最大の戦車戦。

「全車両――砲撃開始!」

轟音。

大地が揺れる。

砲弾が飛び交う。

戦車が爆発する。

敵も、味方も。

「第三中隊、全滅!」

「第五中隊、敵を撃破!」

「左翼、敵の包囲を受けている!」

「右翼部隊を回せ! 左翼を支援しろ!」

俺は、次々と指示を出した。

地図上の印を動かす。

これは――チェスじゃない。

一つ一つの駒に、命がある。

「ハルト先輩!」

無線から、ショウタの声。

「こちら第七中隊! 敵に囲まれました!」

「ショウタ! 位置を教えろ!」

「座標、B-15!」

俺は地図を見た。

まずい――敵の真っ只中だ。

「ショウタ、そこから撤退しろ!」

「無理です! 退路が塞がれてます!」

「くそっ!」

俺は考えた。

どうする?

見捨てるか?

いや――それはできない。

「第九中隊! B-15に急行しろ! 第七中隊を救出しろ!」

「了解!」

数分後――

「第七中隊、救出成功!」

「ショウタ、無事か!?」

「はい……何とか」

ショウタの声は、震えていた。

「先輩……仲間が、死にました」

「……すまん」

「いえ……俺が、未熟だったんです」

「違う。お前は、よくやった」

俺は続けた。

「今は、生きることだけを考えろ」

「……はい」

8

戦車戦は、六時間続いた。

結果――

我が軍の勝利。

敵の戦車部隊は壊滅した。

だが――

我が軍の損害も甚大だった。

「戦車、約五百両喪失」

「人的損害、死傷者一万」

シュタイナーが報告した。

「……一万」

俺は拳を握った。

一万人。

一万の命が――失われた。

「参謀総長閣下――」

「分かってる」

俺は立ち上がった。

「作戦は続行する」

「ですが――」

「今止まれば、今までの犠牲が無駄になる」

俺は地図を見た。

「第三防衛線――首都まで、あと三百キロだ」

9

二日後。

我が軍は、首都ノヴォグラードを包囲した。

「包囲完了」

「敵の補給線、全て遮断」

「首都内の敵兵力、推定十万」

俺は、首都を望遠鏡で見た。

巨大な城壁。

大聖堂の尖塔。

そして――白旗。

「……降伏か?」

「はい。敵から、停戦交渉の申し入れがありました」

「分かった。交渉団を送れ」

翌日――

バルトリア王国は、正式に降伏した。

条約が締結される。

業火作戦――成功。

司令部が、歓声に包まれた。

「勝った!」

「我々の勝利だ!」

将軍たちが喜んでいる。

でも――

俺は、喜べなかった。

総死傷者、三万五千。

その中には――クラスメイトも含まれている。

「参謀総長閣下」

シュタイナーが声をかけた。

「総統閣下が、お呼びです」

10

総統の執務室。

「結城ハルト」

「はい」

総統は――微笑んでいた。

「見事だった」

「……ありがとうございます」

「お前は、この国を勝利に導いた」

総統は俺に近づいた。

「お前こそ、真の英雄だ」

「英雄なんかじゃありません」

俺は首を振った。

「俺は――ただ、やるべきことをやっただけです」

「謙遜するな」

総統は俺の肩を叩いた。

「お前は、この国の救世主だ」

そして――

総統は、窓の外を見た。

「結城ハルト。お前に、最後の任務がある」

「最後の、任務?」

「そうだ」

総統は振り返った。

「戦争を――終わらせろ」

「……終わらせる?」

「そうだ。全ての敵国と、講和条約を結べ」

総統は地図を広げた。

「西部のグランディア帝国。南部の連合国。そして東部のバルトリア王国」

「全てと、平和条約を締結しろ」

「それができれば――」

総統は微笑んだ。

「この世界に、真の平和が訪れる」

俺は――

息を呑んだ。

平和。

それは――可能なのか?

「総統閣下」

「何だ?」

「もし――平和が訪れたら」

俺は聞いた。

「俺たちは、どうなるんですか?」

「どうなる、とは?」

「クラスメイトたちです。俺たちは――元の世界に帰れるんですか?」

総統は――

少し考えた。

そして――

「分からん」

「……そうですか」

「だが――」

総統は俺を見た。

「お前たちが望むなら、この国で生きることもできる」

「この国で……」

「そうだ。お前たちは、もうこの国の一員だ」

総統は続けた。

「いや――それ以上だ。お前たちは、この国を救った英雄だ」

「だから――」

「この国で、生きていけ」

俺は――

答えられなかった。

元の世界に、帰りたいのか?

それとも――この世界で、生きるのか?

その答えは――

まだ、出ていなかった。

続く


次回もお楽しみに

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