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異世界で参謀総長になった話  作者: 膝栗毛


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3/5

勝利の代償

引き継ぎお楽しみください


1

南方戦線の状況は、予想以上に厳しかった。

南方連合国――十二の小国が同盟を組んだ連合体。

個々の国力は弱いが、連合すれば侮れない。

特に問題なのは、地形だった。

「山岳地帯、か……」

俺は地図を睨んだ。

南方は険しい山々が連なっている。戦車は使えない。航空支援も限定的。

つまり――歩兵戦になる。

「最悪だな」

シュタイナーが報告を続ける。

「敵は地の利を活かし、ゲリラ戦を展開しています。我が軍は既に三個師団が足止めを食らっています」

「損害は?」

「死傷者、約五千名」

「……五千」

俺は拳を握った。

五千人。

一人一人に、名前がある。家族がいる。

そして――その中には、もしかしたらクラスメイトも――

「結城参謀総長」

シュタイナーが声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「……ああ、大丈夫だ」

俺は立ち上がった。

「前線に行く」

「前線に、ですか?」

「そうだ。現場を見なきゃ、作戦は立てられない」

「ですが、危険です」

「分かってる。でも――」

俺はシュタイナーを見た。

「地図だけ見てても、本当のことは分からない」

2

前線へは、軍用トラックで向かった。

道中、焼け落ちた村を見た。

破壊された家屋。放置された遺体。

「……これが、戦争か」

隣に座っていた大和が呟いた。

「ハルト、お前――これ見て、何とも思わないのか?」

「思うよ」

「なら、なんでそんな冷静なんだよ」

「冷静じゃないと、判断できないから」

俺は窓の外を見た。

「感情に流されたら、もっと多くの人が死ぬ」

「……そっか」

大和は拳を握った。

「お前、辛いよな」

「辛くないわけないだろ」

俺は笑った。

「でも、やるしかない」

前線基地に到着すると、指揮官が出迎えた。

「参謀総長閣下、ようこそ」

階級章を見ると、大佐だった。名前はフリードリヒ・ミュラー大佐。

「現状を教えてくれ」

「はい。敵は山岳地帯に潜んでおり、我が軍が進軍するたびに奇襲をかけてきます」

ミュラー大佐は地図を広げた。

「ここ、ここ、ここ――既に三回、大規模な襲撃を受けています」

「こちらの損害は?」

「死者三百、負傷者八百」

「……敵の損害は?」

「不明です。敵は死体を回収して撤退します」

俺は考えた。

ゲリラ戦。奇襲。撤退。

典型的な非正規戦だ。

「ミュラー大佐、こちらの補給状況は?」

「良好です。後方からの補給線は確保されています」

「敵の補給は?」

「それが――おそらく、地元の村々が支援しています」

「……なるほど」

俺は地図を見た。

「つまり、敵は地元民の協力を得ている。だから、補給が途切れない」

「その通りです」

「じゃあ、地元民を味方につければいい」

「は?」

ミュラー大佐が目を丸くした。

「地元民を、ですか?」

「そうだ。今のままだと、地元民は俺たちを敵だと思ってる。だから、それを変える」

「どうやって?」

「……医療支援と食糧配給だ」

俺は宣言した。

「地元の村々に、軍医と食糧を送る。無償で」

「ですが、それでは我が軍の補給が――」

「大丈夫だ。補給は余裕がある。それより、地元民を味方につける方が重要だ」

ミュラー大佐は困惑した顔をした。

「……参謀総長閣下。それは、軍人の考え方ではありません」

「俺は軍人じゃないから」

俺は笑った。

「ただの高校生だ」

3

作戦は、すぐに実行に移された。

軍医チームが各村に派遣された。

食糧、薬品、医療器具――全てを無償で提供。

最初、村人たちは警戒していた。

「お前たちは侵略者だ!」

「帰れ!」

石を投げられることもあった。

でも――

軍医たちは諦めなかった。

毎日、村に通い続けた。

病人を治療し、怪我人を手当てし、食糧を配った。

そして、一週間後――

「……ありがとう」

ある老人が、軍医に頭を下げた。

「あんたたちは、本当に俺たちを助けてくれた」

「当然のことをしただけです」

軍医は微笑んだ。

「私たちは、敵じゃありません」

徐々に――村人たちの態度が変わっていった。

そして――

ある村の村長が、俺に会いに来た。

「参謀総長殿」

「はい」

「我々は、あなた方を誤解していました」

村長は頭を下げた。

「申し訳ありません」

「いえ、誤解するのは当然です」

俺は村長に椅子を勧めた。

「ところで、一つ聞きたいことがあります」

「何でしょう?」

「南方連合軍は、どこに隠れているんですか?」

村長は躊躇した。

「……それを言えば、村が報復を受けるかもしれません」

「大丈夫です。我が軍が守ります」

「本当に?」

「約束します」

俺は真剣な顔で言った。

「村人たちを、絶対に守ります」

村長は――決断した。

「分かりました。教えましょう」

4

村長の情報は、正確だった。

南方連合軍の隠れ家――それは、山の奥深くにある洞窟だった。

「ここか……」

俺は地図を見た。

「シュタイナー、空挺部隊は使えるか?」

「この地形では難しいですが――不可能ではありません」

「なら、やる」

俺は作戦を立案した。

作戦名『霧雨作戦』

夜間、空挺部隊を洞窟の上空に降下させる。

同時に、地上部隊が正面から陽動攻撃。

敵が混乱したところで、空挺部隊が洞窟内に突入。

敵の指揮官を捕縛する。

「リスクが高い作戦ですね」

シュタイナーが指摘した。

「ですが、成功すれば敵の士気は崩壊します」

「その通り」

俺は将軍たちを見た。

「反対意見は?」

誰も何も言わなかった。

「では、決定だ」

作戦決行は、三日後。

その間――俺はクラスメイトたちに会った。

まず、ケンジ。

「ハルト、今度の作戦――空挺部隊、また使うんだって?」

「ああ」

「……危なくないか?」

「危ないよ。でも、成功率は高い」

「お前が言うなら、信じるけどさ」

ケンジは心配そうに言った。

「無茶すんなよ」

「無茶はしない。計算済みだ」

次に、凛。

「ハルト、最近顔色悪いわよ」

「そう?」

「ちゃんと寝てる?」

「……三時間くらいは」

「全然足りないでしょ!」

凛は怒った。

「あんた、そんなんじゃ倒れるわよ!」

「倒れたら、誰かが代わりやるだろ」

「そういう問題じゃない!」

凛は俺の手を掴んだ。

「あんたが倒れたら――みんな、困るのよ」

「……ごめん」

「謝るくらいなら、ちゃんと休んで」

「……努力する」

「努力じゃダメ。絶対に休むって約束して」

「……分かった」

そして、大和。

「ハルト、俺――また前線に出る」

「……そうか」

「今度の作戦、俺も参加する」

「危ないぞ」

「分かってる。でも――」

大和は笑った。

「お前が立てた作戦なら、成功するだろ」

「……そうだといいけど」

「大丈夫だよ。お前、天才だから」

「天才なんかじゃないよ」

俺は首を振った。

「ただ――必死なだけだ」

「それでも、お前はすごいよ」

大和は肩を叩いた。

「だから、信じてる」

5

作戦決行の夜。

月が雲に隠れている。

絶好の夜襲日和だ。

「全部隊、準備完了」

無線が入る。

俺は前線基地の指揮所にいた。

「よし――作戦開始」

輸送機が離陸する。

空挺部隊を乗せて。

その中には――大和もいた。

「頼むぞ、大和……」

俺は地図を見つめた。

三十分後――

「目標上空到着。降下開始」

無線が入る。

「地上部隊、陽動攻撃開始」

砲撃音が響く。

敵が反応する。

洞窟から兵士が出てくる。

「今だ! 空挺部隊、突入!」

大和の声が無線から聞こえた。

「了解! 突入する!」

銃声。

爆発音。

怒号。

無線から、戦闘の音が聞こえてくる。

「敵、抵抗激しい!」

「第二班、左翼を制圧!」

「指揮官らしき人物を確認! 捕縛を試みる!」

俺は拳を握った。

頼む――成功してくれ

そして――

「指揮官、捕縛成功!」

大和の声。

「作戦成功だ!」

「よし!」

俺は立ち上がった。

「全部隊に伝えろ――作戦成功!」

指揮所が歓声に包まれた。

6

だが――

喜びは、長くは続かなかった。

「参謀総長閣下――報告があります」

シュタイナーが深刻な顔で入ってきた。

「何だ?」

「空挺部隊――死傷者が出ました」

「……何人だ?」

「死者、十五名。負傷者、三十名」

俺は息を呑んだ。

「……死者の名前は?」

「リストがあります」

シュタイナーが書類を渡した。

俺は――目を通した。

そして――

名前を見つけた。

佐々木ユウタ。

クラスメイトだった。

運動神経が良くて、いつも明るい奴だった。

「……ユウタ」

俺は書類を握りしめた。

「参謀総長閣下――」

「分かってる」

俺は立ち上がった。

「遺体は、どこだ?」

「医療テントに安置されています」

「案内してくれ」

医療テントに入ると――

ベッドに、布で覆われた遺体が並んでいた。

俺は、その一つに近づいた。

布をめくる。

ユウタの顔が、そこにあった。

目を閉じて、まるで眠っているように。

「……ごめん、ユウタ」

俺は呟いた。

「俺のせいだ」

「違います」

背後から声がした。

振り返ると――大和がいた。

包帯を巻いている。怪我をしたらしい。

「ハルトのせいじゃない」

「でも、俺が作戦を立てた」

「それでも――」

大和は俺の肩を掴んだ。

「ユウタは、自分の意志で戦った。お前のせいじゃない」

「……そうかな」

「そうだ」

でも――

俺には、そう思えなかった。

7

その夜、俺は一人で執務室にいた。

眠れなかった。

ユウタの顔が、頭から離れない。

コンコン。

ノックの音。

「……入れ」

入ってきたのは――総統だった。

「総統閣下!?」

俺は慌てて立ち上がった。

「座れ」

総統は椅子に座った。

「……霧雨作戦、成功だったな」

「はい。ですが――」

「死者が出た」

「……はい」

総統は窓の外を見た。

「結城ハルト。お前は、何のために戦っている?」

「……生き延びるためです」

「それだけか?」

「……分かりません」

俺は正直に答えた。

「最初は、生き延びるためだけでした。でも――今は」

「今は?」

「……分からなくなってます」

総統は少し笑った。

「そうか」

「総統閣下は、何のために戦っているんですか?」

俺は聞いた。

総統は――少し驚いた顔をした。

「……誰も、そんなことを聞いてこなかった」

「すみません。不敬でした」

「いや、いい」

総統は立ち上がった。

「私は――この国のために戦っている」

「国のために?」

「そうだ。この国を、強く、偉大にするために」

総統は俺を見た。

「だが――それは、お前にとっての答えではない」

「……どういう意味ですか?」

「お前は、お前の答えを見つけろ」

総統は扉に向かった。

「結城ハルト。お前は、いずれ選択を迫られる」

「選択?」

「そうだ。この国を勝たせるのか――それとも、別の道を選ぶのか」

総統は振り返った。

「その時――お前の心に従え」

そして、総統は去っていった。

俺は――

一人、執務室に残された。

選択、か……

8

翌日、南方連合国から停戦の申し出があった。

指揮官を失った連合軍は、戦意を喪失していた。

「参謀総長閣下。南方戦線は、事実上終結しました」

シュタイナーが報告した。

「……そうか」

「これで、西部、南部ともに停戦。残るは東部戦線のみです」

「東部、か……」

俺は地図を見た。

東部戦線――敵国はバルトリア王国。

最も強力な敵。

「東部の状況は?」

「膠着状態が続いています。ですが――」

シュタイナーは顔を曇らせた。

「敵国が、新型兵器を開発しているという情報があります」

「新型兵器?」

「はい。詳細は不明ですが――非常に強力な兵器らしいです」

「……厄介だな」

その時――

総統から緊急召集がかかった。

9

参謀本部の大会議室。

将軍たち全員が集まっていた。

そして――総統。

「諸君」

総統が口を開いた。

「我が国は、新たな段階に入る」

地図が映し出される。

東部戦線――バルトリア王国。

「敵国バルトリアは、我が国最大の脅威だ。このまま放置すれば、いずれ反撃してくる」

総統は宣言した。

「故に――我々は、総力戦を開始する」

「総力戦……」

将軍たちがざわめく。

「全軍を東部戦線に集中させる。目的は――バルトリア王国の完全制圧だ」

「総統閣下」

一人の将軍が立ち上がった。

「それは、あまりにも――」

「あまりにも、何だ?」

「……リスクが高すぎます。もし失敗すれば、我が国は――」

「失敗は許されない」

総統は断言した。

「だからこそ――結城ハルトに全権を委ねる」

総統は俺を見た。

「結城参謀総長。この作戦を指揮しろ」

「……総統閣下」

「お前なら、できる」

総統は微笑んだ。

「お前は、この国の希望だ」

俺は――

息が詰まりそうだった。

総力戦。

バルトリア王国の完全制圧。

それは――

どれだけの犠牲を出すんだ?

でも――

選択肢はなかった。

「……了解しました」

俺は立ち上がった。

「全力で、指揮します」

将軍たちが拍手した。

でも――

俺の心は、重かった。

10

会議の後、俺はクラスメイトたちを集めた。

凛、ケンジ、大和、ユウキ――生き残っているメンバー全員。

「みんな、集まってくれてありがとう」

俺は真剣な顔で言った。

「これから――大きな戦いが始まる」

「……東部戦線、だよな」

ケンジが言った。

「ああ。総力戦だ」

「どのくらいの規模なんだ?」

「全軍。全ての戦力を投入する」

みんなが息を呑んだ。

「……マジかよ」

「マジだ」

俺は続けた。

「だから――言っておく」

「何を?」

「もし、逃げたいなら――今のうちに逃げろ」

「は?」

「俺は、止めない。むしろ、逃げた方がいいと思ってる」

俺は拳を握った。

「この戦い――生き残れる保証はない」

静寂。

誰も、何も言わなかった。

そして――

凛が口を開いた。

「馬鹿ね」

「え?」

「誰が逃げるのよ」

凛は笑った。

「あんたが戦うなら、私たちも戦うわ」

「凛……」

「俺もだ」

ケンジが言った。

「お前一人に、全部背負わせるわけにいかねえだろ」

「俺もだ」

大和が言った。

「お前は、俺たちのリーダーだ。だから――一緒に戦う」

「みんな……」

俺は――涙が出そうになった。

「……ありがとう」

「礼を言うな」

ユウキが笑った。

「俺たち、クラスメイトだろ」

「……そうだな」

俺は笑った。

「クラスメイト、だ」

そして――

俺は決意した。

絶対に、みんなを生かして帰す。

それが――俺の使命だ。

続く

次回もお楽しみに

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