表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で参謀総長になった話  作者: 膝栗毛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

参謀総長の重圧

引き継ぎお楽しみください


1

参謀総長の執務室は、異様に広かった。

天井が高い。窓からは首都全体が見渡せる。机の上には、全戦線の報告書が山積みになっている。

「……マジかよ」

俺は椅子に座りながら呟いた。

昨日まで「補佐官」だった俺が、今日から「参謀総長」。

軍の頭脳。

全ての作戦を統括する立場。

「重すぎるだろ……」

コンコン。

ノックの音。

「入れ」

扉が開いて、入ってきたのは――さっきの中佐だった。

「失礼します、参謀総長閣下」

「……その呼び方、やめてくれない?」

「いえ、正式な階級ですので」

中佐は敬礼した。

「私は副官として、閣下の補佐を命じられました。ヴィルヘルム・シュタイナー中佐です」

「よろしく、シュタイナー中佐」

「こちらこそ」

シュタイナーは書類を机に置いた。

「これが本日の戦況報告です。東部戦線、西部戦線、南部戦線、全ての情報が含まれています」

「……全部?」

「全部です」

俺は書類を見た。

厚さ十センチはある。

「これ、全部読むの?」

「はい。毎日です」

「毎日!?」

「参謀総長の仕事です」

シュタイナーは淡々と続けた。

「さらに、午前中に将軍会議。午後は各戦線との連絡調整。夕方には総統閣下への報告。夜は次の作戦立案」

「……休む時間は?」

「ありません」

「マジで?」

「マジです」

俺は頭を抱えた。

「……これ、人間の仕事じゃないだろ」

「前任の参謀総長は、過労で倒れました」

「洒落にならん」

シュタイナーは少し笑った。

「ですが、閣下なら大丈夫でしょう」

「なんで?」

「鉄槌作戦を成功させた方ですから」

シュタイナーは真剣な顔で言った。

「閣下――私は、あなたを信じています」

2

最初の将軍会議は、最悪だった。

会議室に入ると、将軍たちが一斉にこちらを見た。

その目は――敵意に満ちていた。

「……おい、何だあれは」

「十七の小僧が参謀総長だと?」

「総統閣下は何を考えておられる」

ヒソヒソと囁く声が聞こえる。

俺は上座に座った。

「全員揃ったな。会議を始める」

一人の将軍が立ち上がった。

「待て。その前に一つ聞きたい」

「何だ?」

「お前は本当に、我々を指揮できるのか?」

将軍は俺を睨んだ。

「我々は数十年、軍人として戦ってきた。お前はどうだ? 昨日まで民間人だった小僧が、何ができる?」

「確かに、俺は昨日まで民間人だった」

俺は立ち上がった。

「でも、昨日まで民間人だったからこそ――見えるものがある」

「何?」

「あんたたちの限界」

室内が静まり返った。

将軍の顔が紅潮する。

「貴様……!」

「怒るな。事実を言ってるだけだ」

俺は地図を指差した。

「あんたたちは、教科書通りの戦い方しかできない。正面突破。火力投入。物量作戦。全部、第一次大戦の戦術だ」

「それの何が悪い!」

「時代遅れだ」

俺は断言した。

「これからの戦争は、機動力と奇襲が鍵になる。戦車、航空機、空挺部隊――全てを組み合わせて戦う。それが電撃戦だ」

「電撃戦……?」

「そうだ。敵が反応する前に、一気に突破する。補給線を断つ。指揮系統を麻痺させる。そうすれば、敵は自壊する」

俺は将軍たちを見回した。

「俺は、それを証明した。鉄槌作戦で」

将軍たちは黙った。

「……認めよう」

さっきの将軍が口を開いた。

「お前の作戦は、見事だった。だが――」

将軍は俺を睨んだ。

「一度の成功で、全てが変わるわけではない。お前はまだ、何も証明していない」

「じゃあ、証明してやるよ」

俺は笑った。

「次の作戦で」

3

会議の後、俺は執務室に戻った。

疲れた。

いや、疲れたなんてもんじゃない。

「……将軍たち、全員敵じゃねえか」

椅子に座って、天井を見上げる。

コンコン。

またノック。

「入れ」

今度入ってきたのは――凛だった。

「ハルト、大丈夫?」

「大丈夫に見える?」

「全然」

凛は苦笑した。

「参謀総長になったって聞いて、びっくりしたわよ」

「俺もだよ」

「でも……すごいわね」

「すごくなんかないよ。地獄だ」

俺は書類の山を指差した。

「毎日これ全部読んで、作戦立てて、将軍たちと戦って、総統に報告する。休む暇もない」

「……あんた、倒れるわよ」

「倒れたら、次の奴が来るだけだろ」

「そういう問題じゃないでしょ」

凛は俺の隣に座った。

「ねえ、ハルト。あんた、なんでこんなに頑張ってるの?」

「……頑張ってるつもりはないけど」

「嘘。絶対、無理してる」

凛は俺を見た。

「あんた、本当は怖いんでしょ?」

「……何が?」

「失敗すること。みんなを死なせること」

俺は黙った。

凛は続けた。

「あんたは、クラスのみんなを守ろうとしてる。だから、こんなに無茶してる」

「……バレてたか」

「当たり前でしょ」

凛は微笑んだ。

「あんた、昔からそうだったもの。困ってる人を放っておけない」

「……そんな良い奴じゃないよ」

「良い奴よ。だから――」

凛は立ち上がった。

「無理しないで。あんたが倒れたら、みんな困るから」

「……ありがとな」

凛は扉に向かって歩き出した。

そして、振り返った。

「あ、そうだ。大和が会いたいって」

「大和が?」

「うん。前線から戻ってきたみたい」

4

大和と会ったのは、兵舎の食堂だった。

「よう、ハルト」

大和は笑顔で手を振った。

でも――その笑顔は、どこか疲れていた。

「久しぶりだな、大和」

「ああ。参謀総長になったんだって? すげえな」

「全然すごくないよ。毎日地獄だ」

「それでも、お前がいてくれて助かってる」

大和は真剣な顔で言った。

「お前が立てた作戦、マジで的確だった。おかげで、俺たちは生き延びられた」

「……そっか」

「ああ」

大和は視線を落とした。

「でも――死んだ奴もいる」

「……誰だ?」

「鈴木」

俺は息を呑んだ。

鈴木――クラスメイトの一人。前線将校として配属されていた。

「どうやって?」

「砲撃だ。直撃を受けた。即死だった」

大和は拳を握った。

「俺、何もできなかった。ただ、見てるだけだった」

「……大和」

「ハルト、教えてくれ」

大和は俺を見た。

「この戦争、いつまで続くんだ? いつまで、俺たちは戦わなきゃいけないんだ?」

「……分からない」

「分からない?」

「ああ。俺にも分からない」

俺は窓の外を見た。

「でも――できるだけ早く終わらせる。それだけは約束する」

「……本当か?」

「本当だ」

大和は少し笑った。

「……お前らしいな」

「らしくないよ。ただの強がりだ」

「強がりでもいい」

大和は立ち上がった。

「お前が言うなら、信じる」

そして――

「頼むぞ、参謀総長」

5

その夜、俺は総統に呼び出された。

総統の執務室に入ると、総統は窓際に立っていた。

「結城ハルト」

「はい」

「お前は、どう思う?」

「何をですか?」

「この戦争を」

総統は振り返った。

「お前は、この戦争が正しいと思うか?」

「……正しいかどうかは、分かりません」

「なら、何のために戦っている?」

「生き延びるためです」

俺は答えた。

「俺も、クラスメイトも。生き延びるために戦ってます」

「……そうか」

総統は少し笑った。

「正直な答えだ」

総統は俺に近づいた。

「結城ハルト。お前は、他の参謀たちとは違う」

「どう違うんですか?」

「お前は――勝つことだけを考えていない」

総統は俺の目を見た。

「お前は、兵士たちを生かすことも考えている」

「……当たり前じゃないですか」

「当たり前ではない」

総統は断言した。

「多くの将軍は、勝利のためなら兵士を駒として使う。だが、お前は違う。お前は――人を大切にする」

総統は窓の外を見た。

「それは、武器にも弱点にもなる」

「弱点?」

「そうだ。人を大切にしすぎれば、判断が鈍る。勝てる戦いを逃す」

総統は俺を見た。

「だが――それでいい」

「……え?」

「お前のような人間が、参謀総長であるべきだ」

総統は微笑んだ。

「冷酷な参謀など、いくらでもいる。だが、人の心を持った参謀は――稀だ」

そして――

「期待しているぞ、結城ハルト」

6

次の日、俺は新たな作戦を立案した。

作戦名は『雷撃作戦』。

西部戦線で膠着している敵国――グランディア帝国を相手にした、大規模攻勢。

戦車師団三個。

機械化歩兵師団五個。

航空支援部隊。

そして――空挺部隊。

全てを投入する。

「この作戦の目的は、敵の首都制圧ではない」

俺は将軍会議で説明した。

「目的は、敵の戦意を削ぐことだ」

「戦意を削ぐ?」

「そうだ。敵の補給基地を次々と破壊する。指揮所を麻痺させる。敵が反撃する前に、撤退する」

俺は地図を指差した。

「これを繰り返せば、敵は疲弊する。士気が下がる。そして――講和を求めてくる」

「講和?」

一人の将軍が眉をひそめた。

「我々の目的は、敵国の完全制圧ではないのか?」

「制圧は不可能だ」

俺は断言した。

「敵国グランディアは、我が国の三倍の国力を持っている。正面からぶつかれば、消耗戦になる。それは避けるべきだ」

「では、どうする?」

「敵に『戦うより講和した方が得だ』と思わせる」

俺は笑った。

「それが、最も効率的な勝ち方だ」

将軍たちは黙った。

そして――

一人の将軍が立ち上がった。

「……賛成だ」

「何?」

「結城参謀総長の案に賛成する。確かに、消耗戦は避けるべきだ」

他の将軍たちも、次々と頷いた。

「私も賛成だ」

「私もだ」

「では、決定だな」

シュタイナーが記録を取る。

「雷撃作戦、承認」

7

作戦決行は、一週間後。

その間、俺は準備に追われた。

各師団との調整。

補給計画の策定。

航空支援のタイミング。

全てを細かく詰めていく。

そして――

クラスメイトたちも、それぞれの役割で動いていた。

ケンジは、航空機の整備。

凛は、兵站の書類処理。

大和は、前線部隊の訓練。

みんな、必死に生きていた。

だが――

ある日、俺は報告を受けた。

「参謀総長閣下。宣伝部のクラスメイト、佐藤ユウキが――行方不明です」

「行方不明?」

「はい。三日前から姿が見えません。脱走の可能性があります」

俺は立ち上がった。

「捜索は?」

「現在、憲兵が捜索中です。ですが――」

シュタイナーは顔を曇らせた。

「もし脱走が確定すれば、処刑されます」

「……処刑?」

「軍規です」

俺は拳を握った。

ユウキ、お前……

8

その夜、俺は一人で街を歩いた。

監視はついているが、多少の外出は許されている。

街は――静かだった。

戦時下とは思えないほど。

でも、よく見れば――

人々の顔は疲れている。

店は閉まっている。

子供たちの笑い声もない。

「……この国、本当に勝てるのか?」

俺は呟いた。

その時――

路地裏から、誰かが飛び出してきた。

「ハルト!」

「……ユウキ!?」

佐藤ユウキだった。

痩せている。服も汚れている。

「お前、何やってんだよ! 捜索されてるぞ!」

「分かってる。でも――」

ユウキは俯いた。

「俺、もう無理なんだ」

「無理って……」

「宣伝部の仕事、もう耐えられない」

ユウキは叫んだ。

「毎日、嘘ばっかりだ! 『我が国は正義だ』『敵は悪だ』『戦争は栄光だ』――全部嘘だ!」

「……ユウキ」

「ハルト、お前は分かってるはずだ。この国は――おかしい」

ユウキは俺を見た。

「全体主義。独裁。言論統制。粛清。こんな国、守る価値あるのか?」

「……ないかもな」

「だろ!? だったら――」

「でも、俺たちはここにいる」

俺はユウキの肩を掴んだ。

「この国が正しいかどうかなんて、関係ない。俺たちは、生き延びなきゃいけない」

「生き延びるって……こんな生き方で?」

「他に方法があるか?」

ユウキは黙った。

「……ないよな」

「ない」

俺は続けた。

「だから、戻れ。宣伝部に」

「でも――」

「俺が何とかする」

「何とかって……」

「分からん。でも、何とかする」

俺は笑った。

「だから、信じろ」

ユウキは――泣いた。

「……ごめん、ハルト」

「謝るな。お前は悪くない」

俺はユウキを抱きしめた。

「辛かったよな」

「……うん」

「もう大丈夫だ」

翌日、俺はユウキを連れて参謀本部に戻った。

憲兵が待ち構えていた。

「佐藤ユウキを拘束する!」

「待て」

俺は憲兵の前に立った。

「彼は脱走していない」

「何?」

「私の命令で、極秘任務に就いていた」

憲兵は眉をひそめた。

「極秘任務?」

「そうだ。詳細は機密事項だ」

「ですが、参謀総長閣下――」

「命令だ」

俺は睨んだ。

「彼を解放しろ」

憲兵は――従った。

ユウキは自由になった。

「……ハルト、ありがとう」

「礼を言うな。次やったら、俺でも助けられないからな」

「……分かってる」

ユウキは笑った。

「お前、本当に――参謀総長だな」

「今更かよ」

9

雷撃作戦は、成功した。

敵国グランディアの補給基地を次々と破壊。

指揮所を麻痺させ、混乱を引き起こした。

そして――

敵は講和を求めてきた。

「参謀総長閣下。グランディア帝国から、停戦協定の提案がありました」

シュタイナーが報告した。

「内容は?」

「国境線を現状維持。賠償金は無し。ただし、今後五年間の不可侵条約を締結」

「……悪くないな」

俺は書類を見た。

「総統閣下の判断は?」

「承認されました」

「そっか」

俺は椅子にもたれた。

「……終わったのか、これで」

「西部戦線は、はい」

シュタイナーは続けた。

「ですが、東部戦線はまだ続いています。そして――」

「そして?」

「南部に、新たな脅威が出現しました」

シュタイナーは地図を広げた。

「南方連合国。複数の小国が同盟を組んで、我が国に宣戦布告してきました」

「……次から次へと」

俺は頭を抱えた。

「戦争、終わらないのかよ……」

その時――

総統から呼び出しがあった。

10

総統の執務室。

「結城ハルト」

「はい」

「西部戦線、見事だった」

「ありがとうございます」

総統は地図を見ていた。

「だが――戦いはまだ続く」

「南方連合国ですか」

「そうだ」

総統は俺を見た。

「お前に、全権を与える」

「全権?」

「そうだ。南方戦線の指揮、作戦立案、兵力配分――全てをお前に任せる」

総統は続けた。

「お前は、この国の希望だ」

「……希望、ですか」

「そうだ。お前がいれば、この国は勝てる」

総統は微笑んだ。

「期待しているぞ、参謀総長」

俺は――

複雑な気持ちだった。

この国の希望?

俺が?

でも――

俺は、この国を勝たせたいのか?

それとも――

その答えは、まだ出ていなかった。

続く

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ