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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第16話:瀕死の白狼





森の奥、小さな家。


昼の光が窓から差し込み、室内を柔らかく照らしていた。


遥斗は布団の上で静かに眠っている。


すぅ、すぅ……。


規則正しい寝息。


その小さな胸が上下するのを確認して、美和はほっと息を吐いた。


「よし……お昼寝成功」


小さく笑いながら布団を整える。


その時。


――トン。


扉の向こうで、小さく何かがぶつかる音がした。


美和は顔を上げる。


「……?」


気のせい?


そう思った次の瞬間。


――トン。



聞き逃してしまいそうなほど小さい音だった。





一瞬、レオさん達?と思った。




森の奥だ。


こんな所に来る人なんて居ない。




――コン、コン。


何度か鳴るノックの音は控えめで弱々しい音だった。



美和は少しだけ緊張しながら扉へ向かった。


「はぁ〜い、今開けます!」


そっと、扉を開ける。


その瞬間。


「――えっ」


そこに居たのは、


巨大な白い狼だった。


本来なら美しいはずの白い毛並みは、


血と泥で赤黒く汚れている。


体には矢が突き刺さっていた。


息は荒く、


肩が上下している。


そして。


その巨体が、ふらりと揺れた。


次の瞬間。


――ドサッ。


狼は、その場に崩れ落ちた。


地面に血が広がる。


「きゃっ……!?ま、待って!」


美和は慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫!?しっかりして!」


返事はない。


狼はぴくりとも動かなかった。


「うそ……死んじゃう……」


美和は狼の前足を掴む。


「よいしょ……!」


びくともしない。


「う、うそ……重い……!」


それでも諦めない。


必死に引っ張る。


ズル……ズル……


床に血の跡が伸びていく。


「大丈夫、大丈夫だから……!」


なんとか家の中へ引きずり込む。


扉を閉めると、すぐに布を取りに走った。


「ちょっと待ってて……!」


矢を見つめる。


「……抜いた方がいいのかな」


震える手で矢を掴む。


「ごめんね……!」


ぐっ――


矢を引き抜く。


血が溢れた。


「きゃっ……!」


慌てて布を押し当てる。


「だ、大丈夫……大丈夫だからね……!」


必死に手当てを続ける。


その横で、


遥斗はまだ眠っていた。


――


それから三日。


美和はほとんど付きっきりで狼を看病した。


布を替え、


水を飲ませ、


何度も様子を確認する。


「死んじゃわないかな……」


部屋をうろうろする。


「どうしよう……」


そしてふと思い出す。


「精霊さん……」


そう、美和が思い出したのは精霊だった。



「この子を助けたいの……」



美和はその狼がビッツとは気付かなかった。


ただ助けたい。


その一心で美和は祈るように声を吐き出す。


「お願いします……」


そう呟いた瞬間


パサッと何かが頭上から降ってきて


美和は思わず頭を傾ける。


「葉っぱ?」


どこかで見た事ある形の葉っぱだった。



「これって何時も精霊さんが持って来てくれるお茶?」



美和は精霊の言わんとすることを汲み取り、狼の口元へお茶を持っていく。



狼の喉が、かすかに動いた。


「よかった……!」


美和はほっと息を吐く。


夜。


美和は遥斗を抱いたまま狼の横に座っていた。


「大丈夫かな……」


遥斗が身を乗り出す。


もふっ。


狼の毛を掴んだ。


「きゃっ、遥斗だめ!」


だが狼は動かない。


遥斗はそのまま狼の体に寄りかかる。


「きゃー」


そのまま、すやすやと眠ってしまった。


美和は苦笑する。


「……ふふ」


狼の頭をそっと撫でた。


「あなた、嫌じゃない?」


静かな夜だった。



――


三日目の朝。


狼の瞳が、ゆっくりと開く。


ぼやけた視界。


天井が見える。


(……どこだ)


体が重い。


痛みもある。


だが、傷は塞がり始めていた。



そして――


自分の腹の上。


遥斗がすやすやと眠っている。


小さな手が、


ビッツの毛を握っていた。


ビッツは一瞬、何が起きているのか理解できなかった。


(俺は……それに、ここは……)


思考が止まる。


(そうだ……レオさん!……)


ビッツは思い出し、ガバッと身体を起こす。




そして気付く。



腹の上にある“物体”に。


「……ひぃ」


すると身動ぎする物体が気持ちよさそうに寝ていた。


(俺の毛!腹っ!)




何とか体を捩り、腹の上の物体を押し退かそうとする。


だが下手に動けば、転げ落ちそうだった。



……動けない。


ビッツは子供、赤子が苦手だった。


目の前に居たらどうして良いか分からなくなる。


赤子とは、そんな存在だった。



極力近付きたくない。



それが今、己の腹の上でモゾモゾと動いてる。



ビッツは遥斗の首元の服を咥え、そっと退かそうとする。


すると――


遥斗の顔がクシャッと歪んだ。


そして



「ふぎゃぁぁぁん!」



吃驚したのか突然泣き出す遥斗。



遥斗以上に驚いたのはビッツの方だった。


遥斗をベッドの上にコロンと転がす。


そしてビッツは慌ててベッドの隙間に潜り込み、距離を取った。


そのあとベッドの影から、そっと様子をうかがう。


そこへ慌てて入って来たのは美和だった。


「ハルくん!?」


手には盆


その上には何やら大量のタオル


さらに視線を動かす。


机の上。


そこに置かれている湯呑み。


その香りを感じた瞬間、


ビッツの瞳が見開かれる。


(……まさか)


(あれは……)


フルポーション。



それを、


やはり、ただのお茶のように使っている。


ビッツの思考が追いつかない。


(本当に精霊の愛し子なのか)



その時。


遥斗が小さく動いた。


「……うー」


布団の上で手足をばたつかせる遥斗は美和の存在にニコォと笑う。


さっきまで泣いてた赤子がもう笑ってる。


ビッツは警戒しながら眼だけをベットから出す。



「あ……良かった!治ったのね!」


美和が嬉しそうに近付いてくる。


「よーしよしよし、大丈夫よ〜ワンちゃん」


「……」


ビッツは小さく唸ることしかできなかった。


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