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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第14話:託す






レオは少しだけ考える。


ふと、美和の笑顔が浮かんだ。


遥斗の可愛らしい小さな手。


胸の奥が、静かに痛んだ。


レオは俯き、小さく笑う。


そして顔を上げる。


「……なら」


役人が顎をしゃくる。


「言ってみろ」


レオは静かに言った。


「冒険者を一人呼んでほしい」


「誰だ?」


「ビッツだ」


一瞬、嫌な顔をする役人達。


だが次に放ったレオの言葉に役人達の顔はニヤニヤと厭らしい笑みに変わる。



「ビッツ、アイツに雌を寝盗られたんだ



死ぬ前に、恨み言の一つでも言ってやりたい」



こう言えばビッツに迷惑はかからないだろうと思っての事だった。


案の定、役人達は唇を歪ませ言い放つ


「ほう、獣でも雌を奪われれば悔しいのか?」


「雌の奪い合いで殺し合いをする種族ですから」


下卑た笑いが牢に響いた。


「よかろう。そのビッツと言う獣を此処に呼んでやろう。光栄に思えよ。これは私だから出来ることなのだ」


大きな腹を揺らしながら胸を張る偉そうな役人がガハガハ笑いながら去って行く。


ヘコヘコと頭を折りながら手を擦り合わせ後を追う役人。


レオは役人達の姿が見えなくなり、ホッと息を吐き出す。





レオの処刑は一週間後だ。


未練が無いと言えば嘘になる。


まだやりたい事も、叶えたい夢もあった。


だけど後悔はしなかった。


不思議と心は穏やかだった。


レオは思う。


おそらく何度やり直したとしても、自分は断るだろうと。


美和の容れたお茶の味を、ふと思い出す。


フルポーションだと知らなければ、ただの美味い茶だと思っただろう。


……いや。


知って飲んでも、あれは本当に美味かった。


最後に味わった味が美和の容れた茶で、レオは悪くないと思うのだった。


そして美和の顔を思い浮かべたレオは思わず呟く。


ふと胸の奥が締め付けられる。


「……あの人は泣くだろうか」


少し考えて、レオは首を振った。


いや、


きっと、泣く。


あの人は、そういう人だ。


そして……自分を責める。


「……それは、少し嫌だな」


そこまで考え、レオは苦笑いする。


(ああ……困った人だ)


あの、ポヤンとした美和の表情。


それを曇らせるかもしれない事。


レオは心の中で謝りながら静かに瞼を閉じる。



その次の日ーー


乱暴に連れて来られたビッツがレオと対面する。


鉄格子越しにレオを見たビッツの瞳が大きく見開く。


「.....レ」


名前を呼ぼうとしてビッツは押し黙る。


自分達以外の人間の存在に警戒するビッツ。


レオは役人に視線を向け静かに言い放つ。


「少しだけ、2人っきりにして欲しい」


役人は少し嫌そうな顔をしたが、死刑が確定してるレオを哀れんだのか笑みを浮かべ去って行く。



その場から人間が居なくなった瞬間、飛び付くようにビッツは鉄格子を掴む。


「っ……レオさん!」



その痛々しい姿にビッツは顔を歪ませる。


腫れ上がった瞼。


乾き切った傷の上から再び傷付けられた鞭の痕。


不自然に曲がった指先。


――折られたのだ。


どれもが痛々しく、ビッツは思わず眉間に深い皺を刻んだ。



「……許せない」


低く唸るような声だった。


その呟きを聞いたレオは、すまなそうに眉を寄せた。


「こんな所に呼んですまない」


「っ……謝らないでください!」


憧れのレオの姿にビッツは思わず拳を握りしめる。


「迷惑はかけない……奴等には雌取り合いのいざこざだと伝えてる」


「迷惑?」


ビッツは鼻を鳴らした。


「今さらだ」


レオになら、たとえ迷惑を掛けられようが構わなかった。


そこまで考え、ビッツはハッと思い浮かぶ。



「そうだ……あの人間の女から貰ったフルポーション」


そこまで言ってビッツは押し黙る。


レオに止められたからだった。



「……ビッツ」


「……」


「それはダメだ」


レオは小さく首を振る。


「……俺は、死刑が確定してる



もし治った傷を見られたら……」


レオは苦く笑う。


「疑われるのは、お前だ」


最悪の場合、仲間まで危険が及ぶかもしれない。


「……ビッツ、俺にはもう必要ない」



そう言いながらレオは笑う。



欠けた歯が見え、ビッツは思わず視線を逸らした。



そんなビッツにレオはある頼み事をする為、切れた唇をゆっくり開く。


「……ビッツ」


レオはゆっくりと喋る。


口の中が切れているのか、言葉が少し滲んだ。


ビッツを呼んだのはこの為だった。


レオは穏やかに笑い、一度、目を閉じた。


まるで覚悟を決めるように。


そして静かに言う。


「……頼みがある」


「……なんですか」


ビッツの声は震えていた。


レオはゆっくりと口を開く。


「ーーーー。」


その言葉を聞いた瞬間、


ビッツの瞳が、大きく見開かれる。


「……っ」


言葉が出ない。


レオはただ、静かに笑っていた。


まるで——


それが最期の願いであるかのように。












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