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戦えない母は赤ちゃん抱いて異世界にいた  作者: くじら


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第13話:獣は王命を拒む





昼下がりの禁足地。


遥斗を寝かしつけ、美和はそっと布団を整えた。


すぅ、と規則正しい寝息。


その小さな胸が上下するのを確認して、ほっと息を吐く。


――コン、コン。


控えめなノックの音。


「……あれ?」


ここを訪ねてくる者なんて、限られている。


もしかして。


「レオさん……?」


王都に連れて行ってくれる約束。


少し早い気もするけれど、あの人ならあり得る。


胸がふわりと軽くなる。


「はぁ〜い、今開けます!」


扉へ向かい、迷いなく取っ手を掴む。


そして――開けた瞬間。


「キャッ!」


思わず声が漏れる。


そこに立っていたのは⸻。


一瞬、風が大きく吹き、ピタリと風が止む。


美和の声に反応したのか遥斗がビクッと身体を揺らす。


そして、森の音が完全に消える。


美和はそれに気づかない。


美和の前の影が大きく伸び、その瞳はギラリと光を放つ。


荒い息使い。噎せ返る程の血の匂い。思わず一歩後退する。


「……っ」


そして足元に、乾ききらぬ赤黒い染みがぽたりと落ちる。



ーー



時は少し戻り地下牢。


鉄格子越しに見える空は、やけに遠かった。


あの後の勅命。


レオは思わず顔を歪め――


言ってしまった。




「断る」


その瞬間。


空気が凍った。


少しだけ、後悔はした。


迷惑をかけるかもしれない。


仲間の顔が浮かぶ。


だが――


身寄りの無い自分が、どう足掻こうと


どうせ都合よく処理される。


そう思ったら、我慢がならなかった。


「今なんと申した?」


煌びやかな服装の勅命官が目を見開く。


「王の勅命を何と?」


「断ると言った!」


二度目も、はっきりと。


「は?……ぶ、ぶ無礼者! 王の勅命を! 光栄に思うならまだしも、こ、断るなど! 死罪に値するっ!」


顔を真っ赤にして喚き散らす。


「じ、獣の分際で生意気な!」


レオは静かに思った。


断った時点で、運命は決まった。


なら。


言いたいことを言ってやろう。


怖くないわけではない。ただ、それ以上に腹が立った。


「お前らが蔑む獣を――」


ふぅーと吐息を短く吐き、一拍。


「馬鹿にするのもいい加減にしろ」


叫ばない。


ただ、真っ直ぐ見据える。



本気を出せば、この檻は抜けられる。


時間は掛かるが、不可能ではない。


だけど、それをしないのは。


仲間に累が及ぶから。


「なっ!!!」


言葉にならない勅命官。


レオは淡々と続ける。


「俺らが力を使わないのは弱いからじゃない」


一歩、鉄格子へ近づく。


「なぁ、わかるか?」


静かな声。


「お前ら人間を殺す事なんて簡単だ」


息を呑む音。


「だが、そうしないのは盟約があるからだ」



長同士の血の盟約……


破れば――戦だ。


それは人と獣の血が再び大地を染めるという意味だ。


これを破ることは仲間を裏切ること


そこまで考え口を閉じる。


もう話す気はない。これ以上言ったところで無意味だから。


「衛兵! 衛兵っ!」


やって来たのは、大柄な男。


手には鉄の棒。


獣を痛めつけるのが好きだと噂の男。


ニヤリと厭らしく笑う。


「どうしました? 勅命官殿」


舌なめずりしながら鉄の棒を掌で打つ音が響き渡る。


レオは小さくため息を吐く。


(あぁ……面倒だ)


その後は予想通り手酷く痛めつけられた。


骨が鳴る音。


それが自分の肋骨だと理解するまで、少し時間がかかった。


血の味。


吐き出す血の量にレオは自分でも驚く。


噎せるとレオを痛めつけた男が嬉しそうに笑う。


それでもレオは目を逸らさなかった。



そして夕刻。


「獣人レオを、冒涜罪ならびに勅命官への暴言、暴行で死罪!」


言われのない罪。


何が面白いのか、見物人らしき貴族連中が薄ら笑いしながらレオを見つめる。


そんな貴族連中から視線を横へ向けレオは男を見つめる。


「俺は暴行した覚えはないが?」


「ヒィ! なんという嘘を! わたくしを脅し、暴行をしたのはその獣人です!」


芝居がかった声。


「私は案内を頼んだだけ!この獣が金を要求したのです 代官様!」


「……うむ」


茶番だ。


何度目かのため息。


「俺は死ぬのか?いつ死ぬ?」


恐怖ではない。


確認だ。


勅命官がニヤリと笑う。


「お前は一週間後に死ぬんだよ!」


代官も頷く。


「うむ、獣風情だが、最後の情けで何か申してみよ」


レオは少しだけ考える。



ふと、美和の笑う姿、遥斗が必死で手を伸ばす姿が思い浮かぶ。


レオは俯きながら、分からないくらい小さく笑う。


そして覚悟を決め、顔を上げる。


「……なら」


迷惑がかかるかもしれない。


だが。


言わなければならない。


その願いを聞いた勅命官と代官は、顔を見合わせ――


しばしの沈黙の後、了承した。


レオは目を閉じる。


(これでいい)


一週間。


それは王都にとって猶予。


森にとっては――準備期間だ。


それだけあれば、後は禁足地が牙を剥く。





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