インヴィジブルゴート
《インヴィジブルゴート》
―「森に溶け、光の葉を食む幻羊」―
学術分類
界:幻獣界(Phantasimalia)
門:緑霊門(Verdantis)
綱:反芻獣綱(Ruminata)
目:幻角目(Spectridae)
科:光葉羊科(Luminovidae)
属:隠樹羊属(Silvicapra)
種:インヴィジブルゴート(Silvicapra invisia)
生息地 ―「聖樹の影に棲む羊」
インヴィジブルゴートは、聖王国サイラスウッド・コンコードの**深緑帯〈ヴェルデ・リング〉**に生息する幻羊である。
この地は宝樹エル=ヴァルナの根脈が地上に浮かび、柔らかな翠光を放つ神聖な森域であり、
その光を糧とする《ブルーレイリーフ》が一面に繁る。
森導師たちはこの地を「樹影のゆりかご」と呼び、
神意がもっとも濃く降り注ぐ巡礼地として崇めている。
生態 ―「光を食み、影に息づく幻羊」
主食は青く輝く《ブルーレイリーフ》。
これを食すことで体内に光素を蓄え、
その毛並みはやがて周囲の光を撓めるように変化する。
インヴィジブルゴートの群れは、森の風と共に動くとき、
まるで空気の揺らぎのようにしか見えない。
狩人でもその姿を正確に捉えることは難しく、
夜明けや黄昏には完全に姿を消すという。
繁殖期になると、雌雄の角が薄く光を帯び、
互いの存在を“光紋”で伝え合う。
この光は「森の囁き」と呼ばれ、
聖機院では微弱な精神波通信であると考えられている。
羊毛 ―「森に隠す霊織の布」
インヴィジブルゴートの羊毛は、
細かな層が幾重にも重なった“光層繊維”で構成されている。
一枚一枚の繊維が光を屈折・分散させるため、
織り上げた布は周囲の景色と溶け合うように見える。
この特性を利用した布は《ヴェルデクロス》と呼ばれ、
聖都ガランテ・ルミナリアの職工院では
防護衣や旅装具として珍重される。
行商人や旅人はこの布を外套や馬具に仕立て、
「盗賊にも魔獣にも見つからぬ衣」と称して用いる。
ただし、その希少性ゆえに高価であり、
庶民は小さな布片を袋や帽子の裏地に縫い込む程度である。
民間伝承・笑い話 ―「妻の眼からは隠れきれぬ」
サイラスウッドには、次のような笑い話が伝わっている。
――ある木工師の男が、仕事をさぼって酒場へ行こうとした。
彼は自慢のヴェルデクロスの外套を羽織り、
「これで誰にも見つかるまい」とほくそ笑みながら家を出た。
だが、裏路地を抜けたところで、
待ち構えていた妻に腕を掴まれた。
「お前の足音は、風よりもうるさいよ」と妻は言ったという。
その日以来、男の外套は近所の笑い者になり、
人々はこの布を「魔物と盗賊からは身を隠せるが、
妻の眼からは隠れきれぬ」と語るようになった。
分類上の位置づけ
魔物区分:祝福型幻獣(Blessed-type Phantasm)
危険度:極めて低い(温順・非攻撃性)
聖機院登録名:第七級森性幻獣
信仰的扱い:聖樹の羊、または「森の見えざる恩寵」
総評
インヴィジブルゴートは、サイラスウッド・コンコードの象徴である。
森と機械、祈りと理が調和する国にあって、
彼らの透明なる歩みは、自然の静謐と聖律の均衡を映す鏡である。
その姿を見た者は幸運と平穏に恵まれると伝えられている。




