英雄列伝7
《薄暮の双影 ラグナ・シェイドワインダー》
一、概説
エーテル世界の各地に散らばる記録の中で、
“薄暮に二つの影がゆらめく時、現れる男”として語られる英雄がいる。
名は ラグナ・シェイドワインダー。
飄々とした笑みを絶やさず、
軽薄にも見える振る舞いの裏に、
戦況の流れと人心の綾を読み切る天性の勘と観察眼を秘めた男である。
多くの記録者は彼を、
「怠け者の素振りを見せるが誰よりも仲間に情が深く、
いざという時には影のように現れ、音もなく救う」と残している。
二、外見
長身。
焦げた琥珀色の髪を肩に無造作に流し、
半眼で笑っていることの多い表情が特徴的。
旅装は常にやや乱れ気味だが、
その無頓着ささえ“計算された隙”だと噂される。
腰の左右にかかるのは一対の双剣。
細身でありながら反りと重心が独特で、
鞘から抜かれた瞬間、刃同士が微かに共鳴して
金属音ではない低い唸りを上げるという。
三、性質
一見すれば飄々とした遊び人。
街では酒場で女性に冷やかされ、
子供たちにはよく懐かれ、
年長者には「油断ならない男だ」と苦笑される。
しかしその仮面の奥には、
誰よりも鋭い生死観と戦闘勘が潜む。
戦場では一転して無駄な一歩も踏まない冷静な剣士となり、
双剣はまるで別人格のように流麗で残酷な動きを見せる。
本人は自分の強さについて
「怖い思いをたくさんしたからですよ」と軽く笑うが、
記録者たちはその裏に“仲間を守れなかった経験”があると推察している。
四、武器 ――《双剣・薄影連理》
ラグナの双剣は古代製か現代製かすら諸説あり、
それぞれが“影”と“光”のエーテルをわずかに帯びている。
右の剣:影脈の刃
斬撃の軌跡が遅れて現れるように見える。
敵は“影を斬られた”感覚を覚え、動揺する。
左の剣:光脈の刃
踏み込む瞬間、刃身が一瞬だけ亮く。
周囲の空気が揺らぎ、斬撃角度を読み誤らせる。
双剣を同時に振るう際は独特の旋回軌道を描き、
“薄暮の渦”と呼ばれる幻惑めいた剣術を生み出す。
五、戦闘様式
常に相手より半歩だけ引き、
誘うように笑う。
放たれるのは軽口と柔らかな態度だが、
気付けば懐に入り込まれているという。
・二の太刀を読ませない変則的なリズム
・敵が攻撃したくなる“隙の演技”
・味方の士気を崩さず導く軽妙さ
これらが組み合わさり、
歴戦の猛将でさえ惑わせる。
六、逸話
ある辺境砦では、魔獣の大群に包囲された際、
一晩中、彼が城壁上を歩き回り、
剣も抜かずに軽口を叩いていたという。
翌朝、大群は跡形もなく退散。
後日、同じ砦に残された記録には、
「彼は夜陰に紛れて群れの頭を二太刀で落とし、
残りをまとめて怯えさせたらしい」とあるが、
ラグナ本人は「散歩してただけですよ」と言い張っている。
七、後世評価
史官たちは彼を
“戦場で最も軽やかに笑う男”とも、
“本心を誰にも見せない亡霊”とも記す。
しかし共通しているのは、
彼が救った者の証言すべてに
「最後に見たのはあの薄い笑顔だった」という
奇妙な一致があることだ。




