英雄列伝6
《赤紋の剣聖 エルディオ・レッドライン》
一、概説
“赤紋の剣聖”の名で語られる男、エルディオ・レッドラインは、
大陸辺境の片村に生まれた無名の農夫である。
しかし、彼は後世、剣術史の分岐点とまで称される「双環理法」を確立し、
帝国歴の随所にその影を残した異色の英雄として記録される。
彼の語りは数多の記録で食い違っており、
若年にして戦場で名を馳せたとする軍記もあれば、
壮年以降に突如現れたとする村落の口承も存在する。
いずれにせよ、人々は彼を「剣を持たねば静かで優しいが、
一度抜けば烈火のように戦う男」と伝えている。
二、出自と性質
出自は辺境集落の鍛冶兼農夫。
若き頃より赤い布帯を好んで腰に巻き、
村童からは「赤紋のおっちゃん」と呼ばれていたという。
性質は温厚で、どこか抜けた田舎気質を持ち、
余人が想像する“剣聖”とは似つかぬ呑気さを持ち合わせていた。
しかし、
「理に反せぬ限り剣は振らぬ。だが振ると決めたら死の一歩を越えて進む」
と語ったと伝わるように、
剣を握った瞬間だけは別の相貌を示す。
三、武器:ロングソード(長身直剣)
使用武器は、辺境鍛冶が作る素朴な直剣。
後にエルディオ自身が手を加え、
「半身・回転・踏み折り」を組み合わせる独自の技法
――後に**双環理法**と呼ばれる――
を操るため、重心と長さの調整が幾度も行われた。
記録によれば、
戦場でその剣が描く円は“二つの赤い輪”に見えたとされ、
それが後世の通称「赤紋の剣聖」の語源となる。
四、戦歴と逸話
英雄としての最初の記述は、
帝国北境を襲った魔獣群《黒角群》の包囲戦。
村ごと飲まれるはずだった状況で、
エルディオは単身で突破口を開いたとされる。
・敵将の四腕魔族「クルヴァオ」を三十合以内に討った
・二日間寝ずに村民を護り続けた
・戦後、眠気に負けて鍋の中に顔から落ちた
など、武勇と庶民臭さが同時に語られるのが特徴。
五、晩年と継承
壮年期以降は、帝国に招かれて将軍格に並ぶ立場を与えられるが、
本人は「畑の世話があるから」と辞退し、
村に戻ったと記される。
しかし、その後の各地に残る剣術流派の祖師は、
不思議と彼の名と酷似する「赤紋の人」を師と称しており、
彼が各地を遍歴しては技を伝えたと考える説も根強い。
最期の記録は、
「村の子供たちに剣を教えながら笑っていた」
という曖昧な口承のみである。




