英雄列伝 2
氷牙領記録:《霜吼の料理豪士 グロウル・アイスベイン》
一、概説
北域フロストファング・ドミニオンに名を刻む異色の英雄、
グロウル・アイスベイン。
豪放磊落にして涙もろく、
「豪腕の調理人」「泣き上戸の戦神」「霜吼の料理豪士」など
さまざまな通称を持つ半獣人である。
彼は本来、辺境砦近くの食堂を営む温厚な料理人であり、
孤児たちに無償で飯を提供することで知られていた。
しかし、いざ村が危機に陥れば、
凶暴なワーウルフ形態へと変身し、
たった一人で千の盗賊団を踏み潰したと伝わる。
その戦いは、氷原の民が「霜吼の夜」と名づけて語り継ぐ
北域最大の英雄譚のひとつである。
二、出自と性質
出身はフロストファング北層部の氷霧谷。
半獣人として生まれたが、変身性が強く、
普段は筋骨逞しい人型の戦士であるにもかかわらず、
性分は子供のように純粋で情に厚い。
・子供好き
・孤児を見れば即座に食堂に連れ帰って料理を振る舞う
・涙もろく、褒められるとすぐ泣く
・しかし戦では怒号一つで敵陣を揺るがす
という極端な二面性が特徴。
北域の記録官は彼を
「巨大な体躯に幼子の心を入れた、氷の国の慈悲獣」
と記している。
三、職能:料理人(戦場厨術)
グロウルは戦士である前に一流の料理人である。
氷海獣の脂を使った煮込み、凍草の薬膳粥、
雪鹿肉の鉄鍋焼きなど、
北域の厳しい環境で育つ食材を巧みに使う腕前を持つ。
彼の料理には独特の“温かみ”が宿り、
“食べれば心の凍えが溶ける”とまで言われた。
彼自身も「腹が満ちれば争いは減る」と信じていたという。
四、種族特性と変身形態
半獣人の中でも希少な変身型ワーウルフ。
普段は角張った顔立ちの巨躯の男性だが、
怒りや強い使命感を契機に、全身が黒銀の毛皮に覆われ、
**“霜吼狼”**と呼ばれる獣姿へと変貌する。
変身時の特徴:
・体格が通常の三倍近くに増大
・脚力・跳躍力が爆発的に向上
・氷牙領特有の“冷気咆哮”を使用
・武器を使わず、腕力と爪撃で戦うことが多い
変身後の記録は、敵側による恐怖の描写が大半で、
「黒雪の嵐が突進してきた」と誤認されるほどの威力を持つ。
五、千盗撃退の記録:「霜吼の夜」
最も有名な武勇は、
氷牙領南端の村“スノーリッジ”を襲撃した
総勢千名の盗賊連合をひとりで壊滅させた事件である。
彼は子供たちを避難させた後、
「この村の飯を、明日もみんなで食うんだ!」と叫び、
ワーウルフ形態へ変身。
盗賊たちの長が牙を研いで待ち構えていたにもかかわらず、
夜明けまでに全軍を粉砕し、
指揮官を捕縛する形で戦を終えた。
村の古碑にはこう刻まれる。
「一吼で百を退け、十歩で千を砕く者。
彼こそ我らを救った霜吼の豪士なり」
六、晩年と影響
英雄視されながらも本人は名誉に興味がなく、
事件後は再び食堂へ戻り、
「昨日は少し騒がしかったな」と笑いながら
孤児たちに朝粥をよそっていたという。
後世、彼の料理はフロストファング・ドミニオンの
“慈善食堂文化”の始祖とされ、
戦士たちも孤児に食を与える慣習は
ここから始まったと考えられている。




