アイアンピーク・ヘグエクルク王国
Ironpeak Hegueclc
アイアンピーク・ヘグエクルク王国
「鋼と影の王国」
概要
アイアンピーク・ヘグエクルク王国は、エルドリア西方の峻険な山脈と深き鉄鉱の谷に築かれた亜人(魔人)の王国である。王国の象徴は黒鉄の槍と沈まぬ月。その名の通り、鉄と闇を操る民が築き上げた重厚な文明を誇る。山脈に抱かれた王国は昼でも薄明に包まれ、地熱の蒸気と黒鉄の塔が霧の中に影を落とす。その光景は「夜の中に眠る太陽」とも称される。
魔人(亜人)の成り立ち
古の時代、人族が太陽を崇めたのに対し、魔人は影そのものを信仰した。彼らの祖は、星の落ちた夜に鉄山で生まれた者たちだとされる。隕鉄に触れた人々の肉体が闇の力に適応し、鉄血を宿すことで魔人となった。この変化は祝福と呪いの両面を持ち、彼らの血は魔力を帯び、その瞳は夜の闇を透かして光る。以後、彼らは影に愛されし民として太陽を忌避し、闇を敬う文化を形成していった。
文化と社会構造
王国は厳格なカースト制により統治されている。社会階層は影の深さによって定められ、濃い影を持つ者ほど高貴とされる。第一階層は黒鉄の血族で王族・貴族階層。闇魔術と槍術の双方を極める。第二階層は鉄槍の民で軍人・守護騎士階級。槍と闇の魔紋を操る戦士。第三階層は影紡ぎ(ウィエル)で職人や魔術研究者。影の文様を刻む芸術に長ける。第四階層は灰の民で労働者・鉱夫階級。闇に耐え、鉄を掘り出す者たちである。信仰の中心は影の神イル・ナハト。彼は闇と秩序を司り、「静寂は力」「影こそ真実」と教える。礼拝は夜明け前、太陽が昇る寸前の闇の時間に行われ、信徒たちは影を地に映し、沈黙のまま祈りを捧げる。
雪を恐れる理由
魔人にとって雪は「闇を拒む光の呪い」である。伝承によれば、古代に彼らが北方のフロストファング・ドミニオンへ遠征した際、雪と氷の精霊によって影の血が凍てつき、多くの亜人が命を落としたとされる。以来、雪は彼らの力を封じる不吉の象徴となった。「雪の下では影も凍る」という言葉は禁句とされ、白は忌まわしき色、黒鉄・深紅・群青は神聖なる色と定められている。そのため王国の建築物は雪を避けるように山腹の洞窟や地熱の篝火の周囲に築かれている。常に暖かな光と影が交錯する場所こそ、魔人にとっての安寧の地である。
闇魔術とランス
魔人の戦術は「闇の霧で敵の視界を奪い、長槍で沈黙を貫く」ことにある。闇魔術は影を媒介にした儀式体系であり、血と鉄を捧げることで影を具現化する。ランス(長槍)は彼らにとって鉄と魂の延長であり、戦士が死するとその槍は墓に突き立てられ、「影槍」として次代の戦士に受け継がれる。この儀式を「影継ぎ」と呼び、王国でもっとも神聖な行為とされる。
寿命と人生観
魔人の寿命は人族よりやや長く、平均一二〇年。しかし闇魔術の行使により寿命を削る者も多い。死を恐れず、闇に還ることを「静寂への帰還」と呼び、死者の影を祀る祭壇が各家に設けられている。影は消えず、姿を変えて残る――それが彼らの信仰の根幹である。
催事・祭儀
影誕の夜は、隕鉄が落ちたとされる夜を再現する祭。街の灯をすべて消し、闇の中で鉄を打ち鳴らすことで「影の再生」を祈る。槍月祭は満月の夜に行われる戦士の儀式で、槍を掲げ闇魔術によって月光を遮ると、最も濃い影を作り出した者が「影槍の称号」を得る。沈黙の暁は年初の夜明け前に行われる国家祭礼で、王が沈黙の祈りを捧げ、民すべてが一言も発せずに夜を越える。この沈黙が破られると災厄が訪れると伝えられている。
建築様式
アイアンピークの建築は「闇の中の荘厳」を理念とする。黒鉄と玄武岩を主材とし、壁には影紋が刻まれる。建物は陽を避けて山肌に沿って造られ、内部は常に燐光石で照らされる。天井は高く尖塔状で、光を最小限に制御するために月窓が設けられる。宮殿や神殿は内部に水を湛えた「影の池」を備え、そこに月光を映すことで闇の神へ祈りを捧げる。この建築様式は「沈黙の石造」と呼ばれ、外観の重厚さとは対照的に、内部は静寂と反響が支配する神聖な空間となっている。
装飾と意匠
宝飾には黒鉄と深紅のガーネットが多く用いられる。衣装は層状の布で影の濃淡を演出し、装飾は最小限。紋章や壁画には「沈む月と逆光の槍」が描かれ、それは闇を貫く理性の象徴とされる。指輪や装身具には、影を封じるとされる黒い宝石「オブスリウム」が嵌め込まれる。




