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ゴブリン観察報告書 翠律圏記録 GA-4137

聖王国サイラスウッド・コンコード 生態学部報告


著者 聖機院生態学区 魔物生理部門 エルド・フェーン博士

題目 ゴブリン(Goblinus addictus)の行動・摂食・社会構造および環境適応について

記録番号 GA-4137


───────────────────────


導入


聖王国サイラスウッド・コンコードは、森が祈り、機械が聖歌を奏でる国である。

聖都ガランテ・ルミナリアに所在する学府、聖機院では、神意の外にある生命を観測し記録する学問として、生態学が体系化されていた。


本報告書は、その学府に属する研究班が北辺ヴァルナ渓洞帯において実施した半年間の観察記録である。

対象は暗所性の魔物であるゴブリン(Goblinus addictus)の群体である。

観察は慎重に行われたが、記録の提出を最後に、調査班は消息を絶ったと伝えられている。


───────────────────────


第一部 生態観察篇


第一章 観察概要

観察対象はヴァルナ渓洞帯に定着する個体群で、推定個体数は約四百二十体。

ゴブリンは夜行性であり雑食性を示す。果実、昆虫、小動物などを捕食するほか、芳香を持つ植物ナークリーフを常習的に摂取することが確認された。


ナークリーフには微量の生理活性成分が含まれ、摂取後に体温と活動量が上昇する。群れ全体の行動が活発化し、鳴き声の発生頻度とリズムが一致する傾向が見られた。

この現象は群体行動の同期を促す一因と考えられる。


第二章 社会構造

ゴブリンの群れには明確な階級制度は存在しない。支配は単純な力関係によって形成され、強い個体が自然に上位に立つ。

一方で、内部には互いの緊張を緩和する行動が観察されており、これは群体の結束を維持するための心理的均衡機構であると推定される。

恐怖に基づく支配の中にも、一定の秩序と協調が存在している点は注目に値する。


第三章 生理特性

ナークリーフを摂取した個体の体液から、未知の化学物質が検出された。

この物質は高温下で揮発し、近くの個体に軽度の鎮静作用を及ぼすと推定される。

そのため、巣穴内部では群体全体が一定の呼吸と行動を共有するように動き、まるで一つの有機体のような同調が見られた。

これは化学的信号による集団制御の初期的な段階である可能性がある。


第四章 繁殖と変異

観察期間中、少数ながら外見的特徴の異なる個体が確認された。

これらの変異は環境や摂食条件の違いによって発生したものであり、遺伝的要因との関連は不明である。

変異個体は通常よりも大きな体格や鋭い感覚を持ち、群れにおいて警戒や先導の役割を担う傾向が見られた。


第五章 生態系上の位置

ゴブリンは中位捕食者として地域生態系の重要な一要素を構成している。

繁殖力が高く、捕食による減少の影響をほとんど受けない。

むしろ天敵の減少によって急速に個体数を増やし、周辺環境の均衡を崩すことがある。

このため、聖王国ではゴブリンの群体動向を定期的に監視する体制が整えられている。


───────────────────────


第二部 結語


観察の結果、ゴブリンは単なる野蛮な魔物ではなく、高い環境適応力と社会的行動様式を併せ持つ進化的に成功した種であると判断される。

とりわけナークリーフとの関係は、植物と魔物の間に形成された化学的共生関係の一例として注目される。


彼らの存在は、森と機械の理から外れたもう一つの自然の秩序を映している。

それは人の文明が測り得ぬ異なる知性の形であり、理解を求める者にとって尽きぬ研究対象である。


彼らを理解しようとすることは、森そのものの意志を知ることに等しい。

――フェーン博士現地記録より抜粋





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