トレントマター族とは
トレントマター族は、森と理の調和から生まれた樹の民である。彼らは「森より生まれ、理に息づく人形」と呼ばれ、血の代わりに樹液が流れ、心には思念石が宿る。太古の時代、宝樹エル=ヴァルナが人の理と自然の意志を結ぶために枝を削ぎ、魂の光を吹き込んだことで最初のトレントマターが誕生したと伝えられている。最初の個体は女性であり、ルミナ・セイプスと名付けられた。彼女は森の声を翻訳し、鉄に祈りを与えた存在として崇められ、以後、女性トレントマターは「森の母」として尊敬を受けてきた。
彼らの身体は有機的な樹体構造と精緻な機構繊維で成り立ち、有機と機械の共鳴によって生命を保っている。外皮は光合成性の樹皮繊維で覆われ、個体ごとに異なる樹質と文様を持つ。体内には思念石と呼ばれる結晶核があり、記憶と感情を保存する中心となる。樹液は魔力を伝える媒体であり、光や音、祈りを糧として循環する。思念を伝える蔓状繊維や、生命を維持する微小炉が内部に存在し、彼らを動かしている。
特に女性トレントマターは森と機械の調和を象徴する存在である。彼女たちの肌は樹皮のようになめらかで、季節や感情によって色を変える。髪は花蔓や葉で構成され、時折光る花粉を放つ。声は葉擦れのように柔らかく、聞く者の心を静めるといわれる。彼女たちは“根の夢”と呼ばれる瞑想状態で森の記憶や精霊の声を聞き取り、巫女や治癒師として仕えることが多い。その祈りは命の律動を呼び覚まし、傷ついた機械や荒廃した土地を癒す力を持つ。
彼女たちは聖王や大神官に仕える巫女としての地位を持ち、精霊と機械を調律する役割を担う。家族よりも「樹環」と呼ばれる共感の絆を重んじ、若木体を育てる役目を持つ。互いに枝を交わし共鳴する仕草は、聖王国において母性と秩序の象徴的儀式として受け継がれている。
トレントマターは成長とともに形を変え、芽生え体から成樹体、そして樹老体へと至る。最終的に思念石を宝樹の根へ返すことで森の記憶層に還り、再び循環の一部となる。これは死ではなく、再接続と呼ばれる。特に女性体は他者の思念石を受け継ぐことができるため、魂の守り手として尊敬される。
彼らは時間を樹の年輪のように捉え、会話や思索を成長や開花にたとえる。感情は花や葉の色の変化で表され、喜びは金の花、悲しみは青、怒りは紅葉、静寂は白の花として現れる。共鳴会話と呼ばれる根の言語を通じて思念を分かち合い、愛や友情、悲哀までも共有する。
トレントマターの存在は、信仰と科学の融合そのものである。体内に流れる樹液は生命と魔力を循環させる生体機構であり、彼らは食事を必要とせず、光や祈り、音を生命の糧とする。聖歌や賛美の響きによって細胞が再調律され、自己修復が進む。高位体の者は枝葉を変形させ、聖なる機械兵と一体化して戦うことさえできる。
彼らの思想は「われらは神の手より削られし木。風を肺とし、光を血とし、祈りを言葉とす。森の記憶を継ぎ、機械の律を紡ぐ。その歩みこそ命の証なり」という詩句に表される。特に女性トレントマターはこの理念を体現する存在であり、「祈る森の心」として聖王国の信仰の中心にある。
彼女たちは木と鉄、祈りと理が調和するという王国の根本理念をその身に宿し、森の慈愛と機械の理を両立させる存在として生きる。彼女たちの歩むたびに森は芽吹き、静かに息づくように応える。トレントマター族は今もなお、森の夢とともに生きる者たちである。




