極秘統合資料
帝国対ナマサ王国戦役と記録断層事案に関する総合報告
発行:エルドリア帝国・戦史局/第七記録監察課
分類:極秘
作成日:不明(記録断層の影響により日付一致せず)
1. 序文
本資料は、帝国軍がナマサ王国に対して実施した七日間の短期殲滅戦と、その周辺で連鎖的に発生した記録欠損・存在情報消去・魔物異常・未確認油田報告など、通常の戦史に分類できない異常事象を統合的に整理したものである。
本戦役に関する一次資料の多くは欠損、または内容が互いに矛盾しており、記録監察課は本件を**「歴史断層集中現象」**として扱う方針を示している。
2. 戦端:前線誤射事件
戦争の発端は、帝国前線警備隊による “誤射事件” とされる。
しかし、以下の点で事件性を立証できない。
・撃った兵士の記録が消失
・本人の家族情報も同時に欠落
・被害対象の特定に成功した記録が一切ない
・弾道観測記録は破損、復元不能
事件後二十四時間以内に、帝国はナマサ王国を敵国認定し宣戦布告を行った。
外交交渉の痕跡は存在せず、消去された形跡のみ確認される。
3. 七日殲滅戦の経過
帝国軍は山岳回廊を突破し、王国全土を七日以内に制圧した。
・組織的抵抗は皆無
・王都防衛線は異常なまでの脆弱性
・帝国軍損害は「軽微」とされるが裏付けは欠損
・戦後、人口・行政・貴族記録が一斉に消滅
“速やかな制圧”という表現の裏で、実際には 国家そのものが消えた という報告もある。
4. 特殊事案:ロワン=ヴァルスト件
帝国兵ロワン=ヴァルストは、戦闘中に死亡が確認された。
4-1 遺体
ほぼ全身が焼失していたが、残存組織はロワンの身体特徴と一致。
しかし鑑定者の署名は後日あらゆる記録から抹消されている。
4-2 親族・友人の“否認”
ロワンの親族、友人、特に親友ドエムは全員
「ロワンを知らない」 と証言。
記録の側が消えたのか、記憶の側が欠落したのかは不明。
4-3 音声断片
破損した水晶から抽出されたロワンと思われる声には、次の発言が残る。
「ドエム……おれは死にたくない……
アイツら……だから撃たないと……
ゴブリンがおかしい……
撃ったのは僕じゃない……
リク・ネーヴァル……」
この音声の最後の部分で水晶が破損しており、
記録監察課はこれを 存在情報消去現象の波形反応 とみなしている。
5. ナマサ北部油田報告
戦役の直前と直後に“油田発見報告”が提出されたが、
・測量図が白紙化
・提出者名の筆跡が数パターンに変化
・採掘計画がどの記録からも欠落
油田そのものが“本当にあった世界線”と“最初から存在しなかった世界線”が混在している可能性が高い。
6. 魔物異常:ゴブリン大量繁殖と一斉消失
戦役直前、ナマサ周辺でゴブリンの異様な増殖が報告される。
・繁殖速度が生態限界を逸脱
・巣穴が突発的に増加
・帝国兵站を圧迫する寸前まで拡大
ところが殲滅戦の最終日を境に完全消失。
・死骸なし
・魔力痕跡もゼロ
・生息痕跡のみ残る
現場記録の中には
「存在しなかった形跡が生じている」
と記されたメモもある。
7. 散逸記録回収官:リク・ネーヴァル
本戦役において唯一、断層現象の中心座標付近で複数回観測されている人物。
■ 基本情報
名前:リク・ネーヴァル(女性)
年齢:二十代前半
出自:ナマサ北東・霧丘地帯「ネーヴァル家」
職能:散逸記録回収官(非公認)
体質:記録の揺らぎを“温度”で判別する〈残響読解〉保持者
■ 特徴
・銀灰の髪
・瑠璃色の瞳
・七日戦役と同区間に行動記録が重なる
・ロワン音声の「名指し部分」と波形干渉が一致
■ 監察課の見解
リク本人が事件を起こした証拠はない。
むしろ “記録の欠落に引き寄せられた観測者” の可能性が高い。
ただし、ロワン最期の発話に名が現れた理由は不明で、
戦史局内部では
「断層の向こう側で、彼女が別の役割を果たしていた」
という仮説が浮上している。
8. 総合評価:歴史断層集中現象
以下の五事案—
誤射兵の行方不明
ロワンの存在情報消去
ナマサ北部油田の“有無”の混在
ゴブリンの発生と消失
国家ナマサ王国そのものの消滅
—はいずれも単独の事故ではなく、
同一の歴史断層を起点とした“世界の記録の揺らぎ” である可能性が高い。
これはエーテル世界文明記録における特異現象 「エコーハザード(記録災害)」 の重大例として扱われる。
9. 結語(記録監察課私案)
本戦役は、単なる国際戦争ではない。
“撃った者”“見た者”“記録された者”が一致しない世界で発生した、
認識と因果のずれが局地的に暴走した事象 である。
リク・ネーヴァル、ロワン、ドエム、そして消えた王国ナマサ。
すべては同一の断層に巻き込まれた“記録の影”にすぎない。
この報告書が未来の観測者の手に届く頃、
同じ断層が再び開くかどうかは不明である。




