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娼館

エルドリア帝国において娼館は単なる娯楽の場ではなく、「魂の取引所」として社会的にも宗教的にも重要な意味を持つ。これらの施設は闇の精霊ノクトルの加護を受ける神殿建築を模しており、快楽と儀式が融合する夜の聖域として存在している。肉体の交わりは生贄ではなく供儀とされ、血と快楽と記憶の交換を通じて精霊の祝福あるいは呪いを授かると信じられている。


娼館は四つの階層に分かれており、最上層の月殿は皇族や血誓貴族のみが利用する特別な神殿である。ここに仕える娼女や娼男は月巫と呼ばれ、幼少から舞踏や儀礼、精神接触の技を学び、契約と呪縛の儀を執り行う。契約の際には双方の血を杯に垂らし、ノクトルの名を唱えながら交わることで永遠の誓約を結ぶ。契約の破棄は死を意味し、ここでの行為は婚姻であり呪縛でもある。


第二層の影房は戦士階級や影手階級の者が利用する高級娼館で、情報交換や密約の場として機能している。娼婦たちは言葉と幻視術と香呪によって顧客の秘密を引き出し、肉体よりも声で人を縛るといわれる。儀礼として首筋に黒曜の印を刻む影の口付けを行い、それが契約と庇護の証となる。


第三層の紅環楼は戦士や傭兵が多く訪れる大衆娼館である。戦いの後、娼婦は戦士の血を用いて呪的癒療を施し、これを血の清めと呼ぶ。娼婦がその血を少量飲むことで戦士の記憶を共有するとも信じられ、彼女たちは記憶を喰らう花とも称される。


第四層の鎖街は帝都外郭部の地下層に位置し、黒鎖民と呼ばれる奴隷階級が営む下層娼館である。ここで働く者たちは自由を夢見る存在であり、戦功を上げて上級娼館へ昇る者もいる。娼館主は元奴隷が多く、鎖を美しく見せる術を教えるといわれる。


また、娼婦の中でも特別な存在として聖娼と呼ばれる者たちがいる。彼女らはノクトル教団に属し、戦死者の魂を慰める黒月の抱擁という儀式を司る。遺体を抱いて血と涙を混ぜて祈り、魂を闇の懐へ還すとされるが、その代償として短命であるといわれる。


娼館での取引は金銭ではなく血晶札と呼ばれる魔導札で行われる。これは使用者の血を染み込ませたもので、魂刻印石により取引が記録され、闇商会が管理している。娼婦の魂価値が数値化され、高名な娼婦ほど高額の札が必要となる。貴族たちはその札を夜の株券として誇示する。


帝国で特に有名な娼館として、皇帝専用の月殿である黒月蓮の宮、戦士たちの癒しの場である紅環の翼亭、そして奴隷から英雄となった娼婦の伝説が残る鎖香楼が挙げられる。


エルドリア帝国の娼館文化は、「闇の中でこそ人は真実の顔を見せる」という思想に根ざしている。娼館は血と欲望、権力と秘密が交錯するもう一つの戦場であり、そこでは刃よりも柔らかな微笑みが人を殺し、国を動かす。


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