Stage.6 「結成(?)残念ヒロイン's!」
【登場人物】
猫田翔真 高校1年生。1-C。
ゲームIDは『にゃすけ』。
工藤飛鳥に嫌われてる?
ゲーム研究部所属。
工藤飛鳥 高校1年生。1-C。
ゲームIDは『あすな』。
ゲーム研究部所属。
翔真のことが嫌い(?)
東雲舞 高校1年生。1-A。
ゲーム研究部所属。
腐の者。趣味は遥との談義。
千早雪乃 高校1年生。1-A。
ゲーム研究部所属。
カナヘビを飼育している。食いしん坊。
柏木遥 高校2年生。ゲーム研究部副部長。
腐の者。趣味は舞との談義。
信介とは幼馴染にして、カップル。
須崎信介 高校2年生。ゲーム研究部部長。
責任感が強い。
遥とは幼馴染にして、カップル。
永屋郁久美 通称『いくっちゃん』
ゲーム研究部顧問で1-C担任。
適当な性格。
合宿2日目。
今日の俺はいつもとひと味違う。なぜなら、今日は…俺のことを最高のイベントが待っているからだ!
「猫田なんか今日のテンション高くないか?」
「そうですかね、部長」
「あぁ、そんな気がするぞ。何があったのかは知らないが、まぁ元気なのはいいことだ。」
俺たちは部誌の編集に勤しんでいた。テーマは『ゲームとプログラミングソフトの進化』だそうだ。部長がプログラミングが好きとのことでこのテーマになった。
俺はというと…このテーマについては全くわからない。困ったな、周りに聞いてみるか。
「工藤さん、このテーマわかる?」
「ごめん!全くわかんない!」
「そっか、ありがとう」
そうだ、千早はどうだろうか。千早はこういうの知ってそうだ。
「千早さん、これわか……」
「猫田くん。私がわかると思う?」
「え?もしかして?」
「うん!わからない!」
(「なんて、清々しい笑顔なんだ。」)
言い切る前に言うのだから、本当にわからないのだろう。頼みの綱は…東雲だ。東雲のほうを見ると……
「んーーーー!わかんない!」
(「よし、おとなしく先輩に聞こう!」)
このテーマはすごく難しく、俺たち一年生は全滅だ。
「あの、柏木先輩。」
「どうしたんだい猫田くん。」
「ここがわからなくて…」
「……なるほどね。」
先輩はパソコンをカタカタとやり始める。何をやっているのかはわからないが、何かすごいことが始まりそうだ。
「ふぅ。」
「できたんですか!?」
「ううん。全く」
「え?」
さっきまでの期待を返してください。
「みんなー、終わったぞー!」
どうやら、部長が自分の分担を終わらせたあとに他の部員のも終わらせてくれたらしい。もう一生部長についていこう。
「じゃあ、午後は自由行動だ!18:30までには戻ってくるように!」
ついに来たぞ、この時が。同じ部活の女子3人と江ノ島で遊ぶ……これはもう陽キャと言ってもいいのではないだろうか!?
「みんな、どこ行きたい?」
「皆さん……まずは腹ごしらえではないかな。」
やはりそうくるか、千早雪乃!
「ゆきちゃんは何食べたい?」
「ふっふっふっ、やっぱり江ノ島といったら…しらす丼だよね」
まずは、千早の要望により、俺たちはしらす丼を食べることにした。
「「「わぁぁ」」」
3人が口を揃えて歓声を上げる。たしかに、すごく美味しそうだ。ただ……
「あのさ、千早さん?」
「どうしたのかな、猫田くん。」
「それ…全部食べるの?」
千早のしらす丼は器の中には米がギチギチに詰め込まれて、しらすがこれでもかと山盛りにされている。これが俗に言う、大盛りのさらに上をいく、デカ盛りと言われるもの何だろう。
「猫田くん、それはナンセンスな質問だよ。」
「どうして急に英語になった。」
しかも、地味に発音いいのはなんなのだろうか。
「しょーくん、おいしいよ?食べなよ。」
東雲舞、こいつは距離の詰め方がバグっていないか?というか、俺には自分のがあるのだが…
「あ、大丈夫だよ東雲さん。俺は自分のがあるから。」
「猫田〜?せっかく、女の子から食べ物が貰えそうだったのにチャンス逃しちゃうか〜残念だなぁ」
工藤飛鳥、こいつもどうしたんだ!?これがこいつらの "素" なのだろうか。
「え、えっと、じゃあ次はどこ行こうか。」
「私、食べ歩きしたい!」
「舞の案に賛成ー!」
東雲の案に工藤が乗る。まぁ食べ歩きという点だけで千早が賛成するかどうかは見えている。
「食べ歩き…………ごくり」
やっぱりそうだった。ごくりと本当に言う人がいたことにも驚きだ。
江ノ島弁財天仲見世通り。それは江ノ島のメインストリート的なものだ。江島神社へと続く商店街で、旅館や飲食店、土産物店が多くある。
しかし、俺は先ほど恐ろしいものを見たのでそれどころではない。千早のあのデカ盛りしらす丼が数分で吸い込まれていったことだ。あいつの胃袋はどうなっているのだろうか。
「猫田?どうしたのそんなにぼーっとしてて。」
「え?工藤さんは驚かないの?」
「何が?」
「千早さんのあのしらす丼が吸い込まれていくところにだよ……」
「慣れだよ、慣れ。」
「慣れ?」
「うん。部室に置いてあるお菓子がものの1分で消えたことがあったんだ……」
工藤が遠い目をする。
「よくわからないけど、よくわかった。」
「猫田もきっとそのうち慣れるよ……きっと。」
「いったん忘れよう?今日は楽しもう?」
「うん、そうだね。」
「ひーちゃん!しょーくん!早く来てー!」
「はいはい、今行きますよー」
千早が何かを食べながら話す。
「え?また食べてるの?」
千早が大きく頷く。千早雪乃という人間は、胃袋が四次元の人なのかもしれない。
「しょーくん、しょーくん!これ映えそうじゃない!?」
どこからどう見ても普通のクレープだ。
「う、うん。いいんじゃない?」
映えとかよくわからないが、とりあえず美味しそうなものと綺麗なものをアップしとけば大丈夫だろう。
「おいしい!!!」
「雪乃食べるねぇ」
いつのまにかクレープも買って食べてる。胃袋だけじゃなく、財布もどうなっているのか知りたいレベルになってくる。夏休みの自由研究が宿題で出ていたら今の俺は間違いなく、千早雪乃という人間についてまとめていたかもしれない。
「ゆきちゃん見て!たこせん売ってる!」
そうそう、江ノ島といえばたこせんだろう。やっとらしいことを始めたか。
「たこせん一つください!」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
東雲はたこせんを買って、写真を撮ってから食べる。
「しょーくんも食べる?」
「ま、まじで?」
「はい!」
東雲は自分が食べたところを俺にそのまま食べさせようとしてくる。助けてと言わんばかりに、工藤のほうを見る。工藤はニヤニヤしている。おそらく工藤はこの状況を楽しんでいるのだろう。
「あの、東雲さん?少し割って分けてくれない?」
「あ、あぁ、わかった!」
なんとか間接キスというものは回避した。
「お嬢ちゃん……まじで十枚行くのかい?」
「はい!」
まじか千早。たこせん屋のおじさんが困り出す始末だ。
「あ、あいよ!たこせん十枚だ!」
「ありがとうございます!」
恐ろしいことに、千早はたこせん十枚を全て美味しそうに吸い込んでいった……。
その後も、千早は目につく食べ物を片っ端から食べていった。
「工藤さんは行きたいところないの?」
「じゃあ、このまま登って江島神社行かない?」
江島神社。日本三大弁財天を祀っているそうだ。
「もう少しだよ!」
「がんばれー」
「舞、飛鳥…待って……一回休憩しよ…う。」
暴飲暴食の限りを尽くした千早は階段が辛いようだ。
「は…はぁ、やっと、ついた。」
ようやく、神社に着く。
『二拝二拍手一拝』が神社を参拝するときの基本動作だ。
「ねぇねぇ、拍手ってこれでいいの?」
工藤はパチパチと拍手する。
「工藤さん?違うよ?」
人が少ないタイミングでよかった。こんなのある意味での公開処刑みたいなものだ。
工藤に参拝の基本動作を叩き込み、ようやく参拝が終わった。
「ねぇねぇ、みんなどんなお願いした?」
「私は、さっきアップした写真がバズりますようにーってお願いした!」
そんなお願いでいいのだろうか。そして、俺は東雲のアップした写真を見る……ん?
「ねぇ、東雲さん?」
「どうしたの、しょーくん」
「アカウントが非公開だから…友だち以外見れなくない?」
「あ……。しかも、写真アップしたからいいやってスマホから消しちゃった。」
こうして、東雲の願いは砕かれた。
「ま、まぁ、舞!元気出して!雪乃はどんな願い事したの?」
「私は…さっきのでお金なくなったから…欲しいものがあるので、三百円くださいってお願いした。五百円を賽銭箱に入れて。」
「あのさ、千早さん?それ、五百円をかけるほどの願い?しかも、マイナスになってない?」
「あ……お財布の中に入ってた小銭が五百円だけだったから…」
千早の願いも砕け散った。
「ひーちゃんはどうしたの?」
「んー…秘密で!」
「えぇー。じゃあ、しょーくんは?」
「まともな友人をください、ってお願いした。」
「「「は?」」」
「猫田〜?私たちがまともじゃないと?」
「猫田くん、それは聞き捨てならないよ?」
「しょーくん、生きて帰れなかったらごめんね」
こいつら息ぴったりだな。見てくれだけはいいんだよな。みんな顔も整ってるし、スタイルもちょうどいいくらいだし…ただ、中身がな。東雲は腐な上に距離の詰め方がバグってるし、千早はまともそうに見えて、食いしん坊キャラだし、工藤はポンコツだし…これがゲームだったら残念ヒロインと言われてもおかしくない話だ。この3人はまさに残念ヒロイン'sだ。
「で、猫田。最後に言い遺す言葉は考えたか?」
工藤が拳を鳴らす。
「あ、おーい!お前たちも来てたのか!」
「部長!?」
部長と柏木先輩が現れた。
「何々?楽しそうなことしてるじゃん?」
「そうなんですよ、はる先輩!どうやって、しょーくんをボコボコにするか考えてて…」
「ま、まぁ落ち着けって。部長指示で和解してもらってもいいかな?」
助かった。ありがとうございます部長。
その日の夜ご飯はしらす丼だった……
今日は本当に疲れた。
俺は基本的には一人が好きだ。誰にも気を遣わなくていいし、何より自由だから。
でも、あの三人に振り回されるのは……
「嫌いじゃない。」
なんとなく寝付けなかったので、水でも飲もうかとリビングへ向かう。リビングの明かりがついているから誰かいるのだろうか。
「はる先輩!やっぱり私は、信長は《《攻め》》だと思うんです!」
「いーや、舞ちゃんはまだ初心者ね!信長は《《受け》》よ!」
東雲と柏木先輩がまた例の論争をしているようだ…よし、今日は寝よう。
「みんな、おはよう!今日は最終日なので、鎌倉に行きたいと思います。」
「鎌倉って京都じゃないの?」
「鎌倉…鳩サブレ…」
「映えスポット探さないと!」
この三人は本当にブレない。と思いつつも、俺は鎌倉時代が結構好きだったので楽しみだ。
「まぁ今日はメジャーなところだけだけどな。」
「え…じゃあ食べ物は…?」
「そんな悲しそうな顔しないでくれ…まぁお土産屋は寄る予定だから…な。鳩サブレくらいは売ってるだろ、だからそんな顔しないでくれない?」
……部長いつもお疲れ様です。
城のような見た目をしている片瀬江ノ島駅はすごく有名だが、俺は江ノ島駅のほうが好きだ。やはりシンプルな感じがいい。
「これが江ノ電ですか?」
「あぁ、そうだ」
「俺、すごく好きです。」
「だろ?俺も結構好きだ。」
俺と部長は江ノ電を見ていた。上手く言葉にはできない…が、すごく好きだ。見た目や雰囲気がすごくいい。……なのだが、
「部長、あいつどうにかしなくていいんですか?」
「……そ、そうだな。」
東雲がテンションが上がりすぎて、暴走している。
「遥、東雲どうにかしてくれ。」
部長は柏木先輩に助けを求めたが…
「信介、待って。」
柏木先輩もまた何かやっているようだ。
「……はぁ」
部長がため息をついた。
「部長…本当にいつもお疲れ様です。」
「猫田…ありがとう」
鎌倉駅に着いた。
「まずは、鶴岡八幡宮に行きます!」
鶴岡八幡宮は「鎌倉の守り神」として八百年ほど前にできたそうだ。そして、鶴岡八幡宮が「武士の守り神」であったことがこの地に幕府ができた理由の一つらしい。
「猫田、見ててね!昨日、参拝の仕方は教えてもらったからできるよ!」
「それはよかったね、工藤さん。」
「猫田くん、猫田くん!このアイスおいしいよ」
「千早さんはまた食べてるの?」
「しょーくん!この顔パネルで写真撮って!」
「はいはい、東雲さん」
「なぁ、猫田。お前もだいぶ苦労してるんだな…。」
「部長ほどじゃないですよ…」
参拝を済ませた俺たちは、長谷の大仏を訪れた。
「ねぇねぇ、猫田くん」
「千早どうした、お腹空いたの?」
「違います。いやね、大仏くらい大きかったらどれくらい食べられるかなって思ったの。」
(「やっぱり、食べ物じゃないか。」)
こんな話をしていると、木陰で東雲と柏木先輩が何か話している。話しているであろうことはおおよその検討はつく。
「舞ちゃん、舞ちゃん!私ね、さっきから考えてるの。」
「はる先輩もですか?実は私もなんです。」
「じゃあ、舞ちゃんに問う。頼朝と義経だとどっちが攻めだと思う?」
「はる先輩。私は義経が攻めだと思います!」
「奇遇だね、舞ちゃん。私も義経が攻めだと思うの!」
二人は喜んで抱き合ってる。知り合いとして恥ずかしいのでやめてほしい。
工藤は大仏を真下から無言で見つめている。
「工藤さん?どうしたの?」
「これくらい大きくて、街中を見渡せたら…あの人も見つけられるのかな…」
「……あの人?」
「あ、ううん!なんでもない!これくらい大きかったら、見える空も景色も綺麗なんだろうな、って思っただけ!」
「うん、きっとそうだと思うよ」
工藤はにこやかに微笑んだ。
「おーい、みんなー!そろそろ次行くぞー!」
俺たちの合宿はもう終わりに差し掛かっていた。
「工藤さん?何してるの?」
俺たちは帰る前にお土産を買いに来ていた。
「刀を買おうかと思って…」
「修学旅行かよ。」
「でも、鎌倉時代といえば武士でしょ?武士といえば刀!」
「そ、そうだね…」
工藤のことは少し放置することにしよう。
「千早さん?何箱鳩サブレ買うの?」
「まず、今食べる用でしょ?」
「ん?」
「ざっと、十五箱くらいかな?」
「いや、さすがに多すぎるだろ。」
東雲と柏木先輩はというと、またもああだのこうだの談義をしている。
うむ、一応だが姉のためにお土産を買うか悩ましい。普段、意外と世話になってるし、買うことにしよう。
「猫田!これあげる」
工藤が頰を掻きながら来た。
「え?どうして?」
「結構、私たちが振り回しちゃったしさ…猫田も行きたいところとかあったんじゃないの?」
「そうだね…でも、みんなと周るのも案外楽しかったよ!」
「…!」
工藤は本当にいいやつだと思う。工藤がくれたのは…修学旅行とかで小学生が買う、竜がついた剣だった。
お土産を買い終わったので、俺は外のベンチに座って待っていた。女子軍はまだ買い漁っている。
「なぁ、猫田。」
「部長どうしたんですか?」
「合宿、楽しんでくれたか?」
「はい、楽しかったです。」
「それはよかった。」
「あの、部長。」
「ん?」
「実は俺、今回の合宿への参加そこまで乗り気じゃなかったんです。」
「…そうか。」
「…でも、いざ来てみると楽しくて、幸せでした。本当はあと一日あってもいいと思うくらいなんです。だから、部長…合宿を計画してくれて、ありがとうございました!」
「…照れるな。こちらこそありがとな猫田。」
帰りの電車で仲良く寝ている三人や、目立たない程度にいちゃついている先輩たちを見て俺は思う。俺はこの合宿を忘れることはないだろう。このメンバーでまた楽しいことがしたい。人といることがここまで楽しいと思ったことは今までなかった。これからもゲーム研究部で楽しい活動をしていきたい。そう思った。
「ただいまー」
三日ぶりの我が家だ。
「翔真ー!おかえりー!もう、翔真がいなくてどれだけ寂しかったことか!」
姉が抱きついてくる。
「姉上、離れてくれないだろうか。」
「あぁ、ごめん。」
「はい、あとお土産。」
「えー!嬉しいっ!ありがとっ、翔真!」
姉はまた抱きついてくる。姉も残念ヒロイン'sに入れるな………。
次の部活日。
「おーーい!部長の部活参加日数が足りないって言われてるんだが!」
永屋先生が文句を言っている。
「先生、合宿に行ったので日数は足りてるはずです!」
「え?お前ら行ったのか?」
俺たちは頷く。
「非常に残念なことを言うが…」
え?まさか…
「顧問が同行していないし、企画書も出てないから……ただの旅行ってことになる」
俺たちの合宿はただの旅行へと変わり果てた。そして、夏休み中の部活が三日間増えた。
【あとがき】
合宿編が終わりました!
今回のお話は結構気合い入れて書いたので長くなってしまいました…
次回も時系列的には夏休み中のお話になるのでお楽しみに!ではまた次回!




