一度しか入れない店
ある街に、生涯においてたった一度しか入れない店がある。不思議なことにその店には、そのときそこを訪れた人が最も必要なものが売っているというのだ。
どんな悩みがあろうとも、どんな苦境に立たされていようとも、必ずその悩みがなくなるものが売っている。
だが気を付けなければいけないのは、その店に入れるのは生涯においてたった一度だけだということだ。
だからこの街に住む人たちはみな困ったことがあるとまず最初にその不思議な店のことを思い浮かべ、そしてほとんどの人は自分の力でなんとかすることにするのだ。
この先にもっと困ることがあったときにこの店を利用するために。
そして結局そのまま生涯その店を利用することなく終わる人も少なくない。
「だからこの店ではいっつも閑古鳥が鳴いてるのさ」
神秘的な雰囲気を漂わせるその店の主人は、男とも女ともつかないその顔に皮肉げな苦笑いを浮かべてそう呟いた。