寂びれた旅館の殺人
評価とブックマークよろしくお願いします。
私は、テレビの前に座り込む、ニュースキャスターの声が耳に入ってきた。映像には、昨日の事件現場が映し出されている。混乱した人々、警察のサイレン、そして何かを必死に訴える目撃者の姿。私は心臓が高鳴り、思わず息を飲んだ。
「未だに信じられない」私は呟いた。昨日の出来事が脳裏に焼き付いている。自分もあの場にいたという現実が重くのしかかり、過去の記憶が蘇る。あの瞬間、私の人生観は一変したのだ。
その事件が、私の運命をどう変えるのか、私はまだ知らなかった。
手に持ったコーヒーカップから立ち上る湯気が、私の思考を一瞬だけ和らげる。目を閉じると、鮮明に浮かび上がるのは、あの瞬間の光景だった。
あの寂びれた旅館の一室、突然響き渡った悲鳴。私は見ていたつまらないテレビ番組をそのままに、その声にの方向に駆け出した。その場で私は、何が起こったのか理解できなかった。客が逃げ惑う姿、地面に倒れた下肢の無い影、私の胸は締め付けられるような痛みでいっぱいになった。
記憶は生々しく、私の心を蝕んでいく。あの恐怖、あの無力感が、私の内面に深い傷を残していた。
ふと、私の目の前に置かれた新聞が目に留まる。「昨日の事件、犯人1名逮捕」と大きく見出しが書かれている。私は再び思考を巡らせた。この事件はすでに犯人が捕まり解決している。しかし、私の中の恐怖は広がり脳髄を犯している。この事件を思い返し自分なりの回答を見つけることが、私の中の何かを取り戻す切っ掛けになるのではないかと。
私は、自室の中で思い出の断片を辿り始めた。コーヒーカップを置き、目を閉じると、昨日の出来事が次々と浮かび上がってきた。
初めに思い出したのは、久々の休日を利用し、繁華街を歩いていた朝のことだった。陽射しが穏やかで、周囲の人々の笑い声が響いていた。私はその瞬間が永遠に続くかのように感じていた。
その時、私はどこか気が大きくなっており、普段なら通らない裏路地を通り、何か自身が体験したことがないことをしようと考え、彷徨っていたところ、寂びれた旅館を見つけた。
私は、半分導かれるようにして、旅館の暖簾をくぐっていた。
そこには年配の女性が座っていた。彼女は温かい笑顔を浮かべ、手元の花瓶を丁寧に拭いている。周囲には、香ばしい茶の香りが漂い、静かな雰囲気が広がっていた。
「いらっしゃいませ」彼女は優しい声で声をかける。
私は一瞬緊張したが、その柔和な視線に少しほっとした。私はゆっくりと女性に近づき。
「ここは、落ち着ける場所ですね」とお世辞を交え私が言うと、女性は微笑みながら頷いた。
「そうね。この旅館は、心に空白がある人が集まる場所なのよ」彼女は言葉を続けた。
「何か悩んでいることがあるのかしら?」
私は思わず言葉を詰まらせたが、彼女の不思議な雰囲気に絆され、少しだけ心を開くことにした。
少しだけ自分の事を語った。
「昨日、会社をクビになりましてね、傷心旅行中なんですよ」
そう言って私はかぶりを振った。
女性は優しい目を向け、静かに頷いた。
「それは大変ね。人生にはいろいろな波があるもの。ここは全ての人を受け入れるわ、少しでも心を休めてみてくださいな」
私は彼女の言葉に救われる思いがした。旅館のさびれながらもどこか陽だまりのような、温かい雰囲気が、少しずつ私の心の重荷を軽くしていく。彼女は続ける。
「この旅館には、様々な人々が訪れますが、皆それぞれの違う理由でここに来ているのです。あなたも、きっと何かを見つけられるはずよ。」
「見つける、ですか?」 私は彼女の言葉に違和感と興味を持った。
「そう、心の中の何か大切なものを。時には、立ち止まって自分を見つめ直すことが必要なのよ」
彼女は再び、微笑みながら私に目を向けた。
その瞬間、私は心の奥に秘めていた不安や迷いが少しずつ浮かび上がってくるのを感じた。何が大切で、何を求めているのか、自分でもわからなくなってしまって。
「どうやって見つければいいのでしょう?」私は思わず尋ねてしまった。
女性は少し考え、静かに答えた。
「まずは、自分に正直になってみて。ここでは、あなたの気持ちを大切にする時間が与えられています、きっとあなたも見つけられます。」
彼女の言葉は、陳腐ながらも、私の心に響いた。少しずつ、自分を取り戻す手助けをしてくれるような気がした。私は、旅館の庭に出てみることにした。
外に出ると、穏やかな風が頬を撫で、青空が広がっていた。心の中の暗闇が少しずつ晴れていくように感じた。私は深呼吸をしながら、寂びれながらもそびえたつ建物に目を奪われた。
「ここにいると、何かを変えられるかもしれない」
そう思いながら、私は新たな一歩を踏み出す準備をしていた。
評価とブックマークよろしくお願いします。
後日、続き投稿予定