第97話 憎悪の連鎖を断ち切る妖精
「パーティ名?」
「はい。名前があった方が呼びやすいですからね。ヒューイのパーティは『ヒューザーズ』という名前でした。まあ、名前を付けないパーティもありますけどね。誰々がリーダーのパーティ、と呼ばれます」
「リーダーはルフ?」
「何でですか……。これはエルル様の旅なんですからエルル様がリーダーですよ」
「…………うーん。パーティ名、ね」
パーティはメンバーの加入や脱退の制度がある。私達が女性のみである問題はどこかのタイミングで新しく男性を加入させれば良い。女ばかりのパーティに入ってくれるような物好きが居るかはまた別の話として。
そもそもパーティとはどういうものか、どんなメリットデメリットがあるのか、とか。またルフに聞かなくてはならない。パーティを組まなくても誰かと一緒に依頼をこなすことだってある筈だし。
「『ニンフ』というのはどうかしら」
「どういう意味ですか?」
「学校で習ったのよ。古代語で、妖精という意味。それに、音はニンゲンとエルフを足したような感じじゃない? 私、ずっと考えていたことがあって」
「?」
確か、ユーマンから聞いたのだったか。いや、フーエール先生か。
亜人とニンゲンとのハーフを蔑む言葉。
「『エルゲン』って。エルフとニンゲンを足したのが語源でしょう? これは蔑称だけれど、もっと良い言い方で、表せられないかなって思っていたの。ハーフであることを、前向きに言いたいのよ。だって、異種族同士の子供って。『両種族友好の証』になるじゃない」
「!」
私は何も、ニンゲンを憎んではいない。ニンゲンとエルフ……亜人は、手を取り合えるのではないかと思っている。
母と父は。真に愛し合っていたかは私には分からないけれど。世間や大長老が言うような強姦では、少なくとも無くて。状況的に他の選択肢は無かったとはいえ、一応は合意の元の子作りだった。……母と私のことに関しては、ゲンは嘘を吐いていないと私は思っている。
何より、『産まれる』のだ。私は産まれた。健康に育っている。魔力侵蝕こそあるけれど、取り敢えずは問題なく。
つまり、生物的には仲良くしても何もおかしくは無いのだ。それを妨げているのはただの感情なのだ。悪いのは歴史と教育なのではないだろうか。
私は世界を見て回りたい。いずれ宇宙も見て回る。
けれど、社会を放り出して無視することはできない。
私は『エルフの姫』だから。ニンゲンとのハーフだから。
エルフでもあり、勿論ニンゲンでもあるのだ。
「呼びやすいなら何でも良い……のなら。どうかしら」
「……私に異論はありませんよ。エルル様が仰るなら、そうしましょう。私達は今日からB級冒険者パーティ『ニンフ』です」
「かしこまりました。では『ニンフ』で登録します。メンバーは2名。リーダーはエルル・アーテルフェイス様。メンバーにルフ・アーテルフェイス様」
「……あ。そう言えばルフって私の親戚だったのよね」
「そうですね。一応、エルル様は森のエルフで私は草原のエルフですが。エルフィナ様と私の母であるルーフェは従姉妹の関係です」
「じゃあルフとは……あ、ルフェルとも。私達、再従姉妹だったのね」
「……それが何か?」
森のエルフと草原のエルフが家族になっているのだ。
ニンゲンとエルフだって家族になれる。なれない理由は無い。
「ふふっ。嬉しいだけよ」
「その、エルル様の天然人たらしみたいなのは何ですか。ニンゲンの、詐欺師の血ですね」
「なんだか毒舌も可愛いわ」
「私、エルル様より12も年上ですからね?」
「エルフの長命からすれば誤差よ」
この4年で、ルフとも凄く仲良くなれた。
ニンゲンとだって。




