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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第4章:遥かなる冒険の旅へ
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第96話 常軌を逸した例外の姫様

 引き続き、ギルド本部の受付にて。


「ではこのままパーティ登録も行いますね。エルル様は初めての登録ということで、ご説明は必要ですか?」


 ルフと目を合わせる。


「……ルフから聞くわ」

「かしこまりました。ルフ様。注意事項や禁止事項についてもお願いできますか?」

「はい」

「かしこまりました。では、義務ですので私からひとつだけ」

「?」


 受付の女性はニンゲンだ。エルフの島とは言え、ギルド関係者は基本的にニンゲンが多い。その半数近くは各国から保護してきた孤児の出だと言う。そう。孤児や貧困者の割合も、ニンゲンが圧倒的に多いのだ。つまり彼女達はギルドに拾われなければその日に死んでいたような過去があり、必然的にギルド職員となるしかない。私のように、好きで冒険者や職員になるニンゲンは少ない傾向にある。逆に、亜人が関係者となる場合は好きであることが多い。


「女性のみのパーティは原則『A級へのランクアップ審査資格がそもそもございません』。ご注意くださいね」

「…………!」


 時が止まった。いきなり壁にぶつかる感覚。


「何故?」

「私達冒険者ギルドは、()()()()()()()()()()からです。女性なのにも関わらず主戦力と認められた『例外中の例外』である貴重なB級冒険者で、しかも強力な魔法使いを、むざむざ()()()()()()になどできないし()()()()()()()からです」

「……!」


 女性パーティはA級昇格の審査すら受けられない。


「ルフは知っていたの?」

「はい。私はヒューイに誘われて入りましたからあまり気にしてませんでしたが、一応女性冒険者へのギルドからの必要告知事項ですからね」

「…………そう」


 これは性差別か?



 ………………。



 否。


「女性冒険者を『守る為』のルール、ね」

「そうです。ああ良かった。エルル様は『話が通じる』女性でした」

「!」


 受付の女性がほっとした表情を見せた。それでなんとなく察する。

 私が船で見た、あのフェミニスト。自由と女性解放を目指して冒険者になる女性は多いのだとか。そんな女性にこの話をすると怒り出すことは容易に想像できる。


「そもそも、女性冒険者というのは()()()()()()()()です。体格、体力、筋力、走力、戦闘力……何もかも『男性の下位互換』ですから。正直C級に上がるだけでも私は凄いと思っています。あんな、ガチムチでムキムキな男性達と同じ世界で上を目指すなんて、並大抵じゃないです。女を捨てるレベルの努力と、未知の世界への異常な渇望と執着。それらが『普通の男性を凌駕』してようやく、スタートラインに立てるくらい不利なんですから」


 そうだ。

 ルフとの授業でやった。メスの強みとは、オスに対して発揮されるものであり、自然界相手に通用する種類のものではない。例えば、魔物に襲われて怪我をした。パーティメンバーが男性だったなら、私を抱えて走って逃げられる。けれど、隣に居るのが非力な女性だったら? 逃げられずにふたりとも魔物に殺される。

 冒険者としてパーティを組むなら男性一択なのだ。それが合理的であり、当然で普通。常識。


 私達は今、とんでもない非常識を行おうとしているのだ。女性ふたりだけでA級を目指すパーティなど。正気の沙汰ではない。女性でもできる依頼はD〜C級にしか無い。


「……良いじゃない。結構よ。燃えてきたわ」

「エルル様ならそう仰ると思って、今日まで黙っていました。エルル様は常軌を逸していますからね」

「えっ? そうなの?」

「そうですよ? 『宇宙に行きたい』なんて、荒唐無稽で意味不明過ぎて付いていけませんもん。しかもシャラーラという生きる伝説に直接依頼されて、現実にしようとしています。もう、私くらいしか付き合えませんよ」

「………………ふふっ」


 私は、私が周囲からどう思われているかについて興味が無かった。改めて今言葉にされて、少し分かったから可笑しくなった。


「そうね。ありがとうルフ。大好きよ」

「……それ、ルルゥに言ってあげてください。喜びますから」

「えっ。どうして今ルルゥのこと?」

「そこは鈍感なんですから……」

「えっ。えっ?」


 そんな私に付き合ってくれるルフも、例外中の例外なのだ。

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