第93話 女同士の性の会話
「みみ!」
「あはは。やっぱり気になるのかしら」
キノはもう3歳になる。ヒューイとトヒアの第二子。ジンの妹だ。今は私の耳がお気に入り。
ヒト種の誕生に立ち会った。元々、身重なトヒアのサポートはこの家に居候させてもらう交換条件のようなものだった。ニンゲンの料理だって練習したのだ。
女性の出産に立ち会った。3歳まで、一緒にお世話をさせてもらった。なんだか私の妹でもあるような。
「エルちゃんには感謝してもしきれないよ。……私ひとりじゃ、ジンを育てながらキノも見て……って。きっと無理だった」
「私も楽しんでできたからお互い様よ。貴重な経験をさせてもらったし」
「……ほんと、大人びてるね。ジンったらもうエルちゃんがここに来た時の年齢を超えたのに」
「ジンとは立場が違うもの。私は居候だから」
「うーん。姫とは思えない謙虚さ」
そろそろ私達が旅立つことは、トヒアもなんとなく察しているみたいだ。なんとなく私も、部屋を整理したりし始めている。
「……結構、冒険の役に立つかもよ」
「えっ?」
「出産に立ち会った経験。ヒューイは私を連れて行ってはくれなかったけど。割りとカップルで冒険者やってる人多くて。旅先でやっちゃうのよね。それが、魔界とか。簡単に帰ってこれないような場所だったりして。どうやって安全な場所を確保するのかとか、赤ん坊の取り上げ方とか。経験のあるなしで全然違うと思うよ」
「……なるほど。旅先での子作りは危険ではなくて?」
「だって冒険者よ? 自由だよ? 誰も見てない大自然だよ? セックスしまくりでしょそんなの。若いし、元気有り余ってるし。あのね、死と隣り合わせの冒険した直後なんかは、無性にセックスしたくなるの。冒険帰りのヒューイとかもう凄かったんだから」
「……そ、そうなのね……」
思えば、ヒューイは魔界入りを満たしていたのだろう。巨大森に侵入して私の寝室までやってきて、探知魔法を掻い潜って見付からずに帰れるのだ。普通のニンゲンには不可能だ。
「……セックス、したくなるのって。いくつくらいなの?」
「え? うーん……。個人差あるけど、大体10代前半かなあ。私もジンを孕んだのそれくらいだし」
「は、孕……」
こういう話は、少し苦手だ。なんだか恥ずかしくて、やりにくい。けれど、訊かないと。
「……その。ジンが、最近少し冷たいというか。素っ気ないというか」
「ああ〜。まあ、私から見てもこんなに綺麗になっちゃったもんね。エルちゃん」
「えっ。やっぱり私が原因、なのかしら」
「んーん。エルちゃんは何にも悪いこと無いよ。ただ綺麗で可愛くてエロいだけ」
「……それが分からないのよ。『エロい』というのが。胸の話かしら? まだそこまで大きくは無いわ」
「うーん。エルちゃんの場合は性格や仕草、無知さも含むかなあ。あと服買わなきゃね。それもうキツイでしょ。胸とお尻ムチムチ」
「…………まあ、確かに」
私だって、ジンほどでは無いにしろ背も伸びているのだ。確かに前まで着ていた服は少しキツく感じる。
……断じて太った訳では無い。成長よ。
「そろそろ、私と出会った頃のヒューイの年齢なんだよね、ジンて」
「そうなの」
「うん。クッソやんちゃエロガキだったよ。いつもお風呂とか覗いてきてた。ジンは駄目だね。ムッツリだ。エルちゃんに興味あるのに嫌われるのを気にしてる。ヒューイの子とは思えないなあ。ヒューイだったらもう襲ってるかもね」
「…………いつか、話してしまったの。私が一度ニンゲンの男性に、襲われたこと。勿論色々とぼかしたけれど」
「あっ……。そっ、か。ごめんね。私が馬鹿だった。ジンは優しいもんね。ごめん。エルちゃんに辛いこと、言っちゃった」
「良いのよ。もう乗り越えているから。……ジンとまた、仲良くしたいのだけど。どうすれば良いかしら」
「……うーん……」
トヒアともとても仲良くなった。私は姉のように慕っている。なんでも話しやすい。




